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図書廻廊―Side Seventh sins-  作者: 雨天音
第三章 蔦を紡いで縁を結んで編
28/29

第28頁 向日葵と菫

「いや、だ、いやだあああああああああああああああああああああああ!」

容赦なく、狙撃の音。なびく髪と薫る硝煙。

目の前の死体は一瞬で、蜃気楼のように揺らいで消えた。




相変わらず眉ひとつ動かさずに仕事を終えた守護獣を、紅茶を淹れてリィは迎えた。

「おかえり、ミーシャ」

沈黙したまま、ソファに座るしぐさは乱暴だ。投げ出した足を組み、胡乱に前を見つめる相棒を見、思う。

クリスマス・イブ、以前電話があったカイノウヤという人間に、ミーシャは会いに行った。帰る途中、『日本』に異変を感知して寄って、仕事をして。帰ってきたら、塞ぎ込んで。

翌日は翌日で、いつもしない『修復』の報告をしに行って、また真顔で膝を抱える。

今も、いつもと変わらない無表情に見えて、リィには分かる。血の色をした赤い眼の奥で、彼女の心が揺れていることを。


出会ったときは、なかった感情それ


「ミーシャ」

隣りに座る。革張りの椅子が、音を立てた。

彼女と自分、揃いの制服。白いシャツと赤いスカート、ネクタイは私が選んだ。

出会ったころの彼女は、自分の美しさを理解していなかった。己を顧みなかった。男の賊が着るような品のないつなぎを纏い、脳幹を撃ち抜かれても顔色ひとつ変えず。

そうして、リィの手を引いた彼女に惹かれた己もまた、まともではないのだと自覚している。感情を持たない人形のようだった少女相手に、文字通り人形遊びしていたに過ぎない。

それは、幼子が愛用していた縫いぐるみに抱くように本能的で、けれどずっと深く、どす黒い、泥ねいのような執着だ。

「……リィ」

「、なに?ミー」

ぼふ、という音ともに豊満な胸に抱き寄せられる。呼吸がつまり、ついでに相棒の匂いに当てられリィの頬は朱に染まった。

「……シャ。なんの、真似?」

「別に。手頃な位置にあったからな」

ぎこちなく、紫色の髪をすく指はタコだらけだ。銃の錆もついて、しかし美しさを失わない。戦乙女の、手。

「ねえ、ミーシャ。なにか、あったの?」

ぴくりと跳ねた肩以外はポーカーフェイス。昔は、それすらなかったけれど。追撃はせず、けれど離されない目線に耐えかねてか深く、長いため息のあと、守護獣は口を開く。

「5年、くらい前かな。会ったことのある人間を、見つけたんだ。アテネの執事になったらしい」

「……珍しいね、ミーシャがヒトの名前を覚えてるなんて」

「どんだけ俺は失礼なやつなんだよ」

拗ねたように唇をわずかとがらせた相棒に、ようやくリィは破願してみせた。

「そうじゃあない。ただ、心をどこかに寄せられない世界の住人を、いちいち覚えなんてしないんじゃなかった?」

「……そうだよ」

不機嫌に、守護獣は言う。乱暴に相棒の髪を掻き撫でて、溢れそうな何かを紅茶で腹の底に沈めた。

「でも、覚えていたかったんだ。気に入った、奴だったから」

「……そう」

己を抱き寄せる獣が、本当は寂しがり屋であることをリィは知っている。だからこそ彼女は、此処にいる。

此処を、他の誰かに渡したくない。

そんな醜い感情に囚われそうになって、それを見ないふりをするため相棒の胸に顔をうずめた。

作り物なのに、人でないのに、あたたかい。少女の香り。

「いつか、聞かせてくれる?その子や、アテネって子のお話し」

「……聞きたいのか」

紅い目をしばたく少女に、くすりと微笑んでリィは肯いた。

「ミーシャのことなら何でも知りたい」

「お前は、変わらないな」

苦笑され、それでも少女は慈母めいた笑みを失わない。

「だって、ミーシャは私の全てだもの。200年前、私を拾ってくれた、あの日から」

土塊と藁の中で、死にかけていたあの日を思う。硝煙を纏った金髪の少女に声を掛けられたその瞬間から、『リィ』は生まれたのだ。

「―――まあ、好きに生きろ。お前の生だ」

「嘘吐き。私もあなたも、此処から出られないんだよ?守護獣の契約を、神様と交わしたんだから。純製のミーシャと私じゃ、色々違うけどさあ」

母を求める子のように、ふくよかな相棒の胸を枕にして会話をしていると、不意にあくびが出た。

「なんだ、おねむか」

「うー……」

「……ここ数日、心配かけたみたいだし。たまには、一緒に寝るか?」

「!うんっ」




獣と少女は眠りにつく。

永遠の時を、これからも二人で生きるのだと信じて。



世界の終焉は、彼女たちの選択にかかっているけれど。

そのための出会いは、もう少し、先の話。

半年ぶりの更新、大変失礼いたしました。


以下告知です。否、謝罪です。

こちらの『図書廻廊』を一度ここで完結とさせていただきます。

もちろん、本当にこれで終わるわけではありません。フラグ回収どころか建立自体ままなっておりませんゆえ(猛省です)。

ただ、勢いで書き始めたせいで荒削りな部分が目立ちすぎるために、一度「旧作或いはプロトタイプ」として閉めさせていただくことに相成りました。悩んだ末の決断でしたが、申し訳ありません。進行が困難なため半年近くの放置となってしまったことも重ねて謝罪申し上げます。


そして、御相談です。


続編、といいますか新製『図書廻廊』の連載ですが、ストーリー進行が大きく変わると思われます。徐々に書き溜めてはおりますが、ストックをつくって今度こその定期更新を狙いたいためにアップ開始は八月下旬から九月になると思われます……。


ご相談というのはこの新製『図書廻廊』のアップ方法についてです。

これまで書いたプロトタイプ『図書廻廊』を一度下げて、一話ずつ修正したものをアップしていくか、はたまた新たにスレッド(とは違うのか、ページ、といいますか)を作成しアップしていくか、悩んでおります。

削除はなるべくしたくない(そしてなろうさんの方針としても削除はなるべくNGだそうです)ので、このどちらかの方法をとろうと思っています。よろしければご意見等くだされば幸いです。また、プロトタイプも新製の方にもぜひぜひ感想意見アドバイス(「このキャラは残した方がいい」、「この設定が分かりにくい」等)いただければ、励みにさせていただきたく思います。


長くなりましたが、拙い文を読んでいただきありがとうございました。改稿後も読んでいただければ、嬉しく思います。


それでは、失礼いたします。

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