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図書廻廊―Side Seventh sins-  作者: 雨天音
序章 A side of guardian
2/29

第2頁 三大名家

ジリリリリン、ジリリリリリリリリン……。

古めかしい、黒電話の鳴る音。

机の上に置かれたそれは、外の友人に譲り受けた。中途で電話線は切れているのに、着信を告げるそれを訝しみもせずに、守護獣の少女は取り上げる。

「はい……ああ、久しぶり、アテネ」

ソファに座り、相棒のいれてくれた紅茶をすすりながら快活に応対する。向かいで裁縫をしながら、リィはそれを横目に見ていた。

「じゃあ、近々」

最後にそういって、通話は終了したようだ。常の無表情で、しかしどこか上機嫌にも見える彼女の挙措に、僅か胸が擦れた、そのとき

「妬くような相手じゃない」

言いながら、猫のような素早さでこちらの隣りに移動された。無造作だがやわらかく、撫でられる頭。光の加減で青紫に見える濃紫の猫っ毛は彼女のコンプレックスだったが、「障り心地がふわふわして楽しい」と、『守護獣』の少女が言ってくれてからは少し、気に入っている。

今日も髪を弄ばれる、あたその心地よさに目をとろかしながらリィは、

「で、だれだったの?相手」

「……海王夜アテネ」

一拍おいて、答える。己の金髪を空いた方の手で弄びながら、守護獣の少女は続けた。

「『協力者』のひとりだよ、三代名家の」


♢    


三代名家。

その存在は、世界中の大小構わず名家、財閥、多様な団体に知れ渡っていた。

多少なりとも、いわゆる『金持ち』の集まる社交界に通じていれば、存在は当然、その財力含める強大さと恐ろしさは知ることとなる。

しかし、その実態を知る者は名家中の名家といわれる人間の中でも、本人達とごく一部の関係者のみ。

権力財力果ては美貌や人間性に至るまで、彼等に勝る存在はいない。


日本に籍を置くが、某国の血を引いているといわれる金髪の一族、海王夜家。

同じく金髪と碧眼だが、れっきとした日本人の血筋であり『三大名家の顔役』とうたわれる火鷹家。

裏社会の首領の証と言われる、闇より深い漆黒の髪と瞳の、鳶揺家。

幾多の社会において密かに”人外”、”化け物”と呼び習わされる、この三家には代々続く使命があった。

『図書廻廊の守護獣』の『協力者』だ。


「つまり、この『図書廻廊』を『あちら側』―――つまりは『せかい』の内側から『守護獣あたし』をサポートするのが、彼ら『協力者』の役目。他にも、あたしが本来の役目から逸脱しないよう監視して、『あちら側』から世界に異常が無いか調査するとか、色々取り決めてるみたい。まあ、あたしは各家の頭首の就任の儀に顔出したりするくらいで、よっぽどのことがない限りノータッチだけど」

「ふうん……それって、その『三代名家』ってのがある世界だけなの?『協力者』がいる世界って」

「いや、他の『世界ほん』にも時たま、いるけど。明文化、形式化されてなおつ、100年以上も長い時代残っている組織は、『三代名家そこ』だけだよ。だから、頭首が変わる度に挨拶くらいするし、多少金銭的に恵まれるよう配慮するさ、礼儀として」

昨今の不況や時代の流れにも押しつぶされず、彼らの血は脈々と継がれているのは、「その方が協力してもらいやすいから」と『図書廻廊の守護獣』が成す計らいだと、その人らが知るよしもないんだろうな、とリィは苦笑する。

「で、その『三代名家』のひとつの、『海王夜』のご頭首サマにご挨拶、いくの?」

「ああ…就任はずいぶん前に済んでるんだけど、そのあともあいつとはいろいろ縁があったから。しばらく諸国漫遊してたけど、日本に戻るって電話だったんだよ、今の。なら、会っとこうかなって」



           



ギリシア、アテネ市某屋敷、そこを別荘とするは三大名家の一柱。

「アテネ御嬢様、日本行きの船が用意できました」

「……そう。では、帰りましょうか」

「なんや、もう帰りんすか?」

「ええ、この国での用は大方済みましたし。そろそろ学園の方も、心配ですから」

「海王夜家の当主様は、大変やねえ。『扉』の管理の次はガッコの長としての仕事ですかいな」

呆れと心配、そして尊敬をないまぜにした笑いを浮かべる客人に、よわい17の少女は悠然と、誇らしげな笑みで返す。

「それが、『観測者』の我がいえの、私の役目ですから」

1/23修正しました。前verよりとっつきやすくなった、かな。

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