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その5

 築1年家賃7万8000円の2階建てのアパート。階段を上がった通路の一番奥208号室。

 部屋の前まで来るとそのままドアノブに手をかける。

「ただいまー百合花!お客さんいるからお茶出してくれるか?」

 奥に呼びかけながら靴を脱ぐ。後ろからお邪魔しますと遠慮がちに因幡が入ってくる。

「まあ汚いからあんまり見るな……あれ」

 新宮がある事に気がついた。玄関、廊下、すりガラス越しのリビング、どこもかしこも電気がついておらず暗い。そして、百合花の返事もない。

……嫌な予感

 自然と一歩二歩と足が前に進み小走りになる。勝手に入ったら半殺しにされる妹の部屋を確認するがやはりいない。急いで薄暗いリビングに入り、電気のスイッチを入れる。

 明るくなったリビングには、自称神様ヒノカが朝とほとんど変わらぬ体勢でテーブルに突っ伏していた。

「おい……起きろ!百合花帰ってないか」

 声をかけて、肩に手をかけて揺するが起きる様子がない。

 新宮がもう一度声をかけようとしたとき、因幡が跳ねるように近寄ってきた。

「新宮さん!」

 新宮は因幡の声にハッと我に返った。よく見ると、ヒノカの腰のあたりが一突きされていて、ヒノカの瞳の色と同じ深紅の血液が制服を染め上げていた。

「なんだよこれ!」

 思わず叫んでいた。

「落ち着いてください!」

「百合花もいないし、こいつも傷ついてるんだぞ!! 落ち着けるか」

 新宮は顔がこわばるのが自分で分かった。重いなにかが心にのしかかる……恐怖が心支配する。

「落ち着け……愚か者」

 振り絞るような声は、ヒノカのものだった。

「すまない、百合花はヒルコに攫われた」

 ゆっくりと身体起こしながらヒノカが謝罪した。

「大丈夫ですか?」

 因幡が心配そうに身体を支えるが、その手をヒノカが払う。

「構うな! 大丈夫だ。それより因幡、こやつに協力して奴の力の痕跡を追え。そこに奴と妹がいるはずだ」

「……分かりました。新宮さん行きますよ」

「待て! 待ってくれ」

 俺が今やらなきゃならないことは妹を助けること。だが本当にそれだけか? 自分を犠牲にして他人を助けるように言うヒノカを残して行くことが正しいのか?

「お前を置いてはやっぱり行けないわ。人として間違ってるだろ」

「やはり貴様は私の期待を裏切らない」

「勝手に試してるんじゃねぇよ」

 2人の顔に笑みが浮かんだ。



 太陽がほぼ沈み、淡くわずかな光しかない開発地区で対峙する2人。カラスの声だけがむなしく荒野に響き渡る。

「あはははははは、やっと? あの女殺そうかと思ってたところだよ」

 口角が上がり、笑いながら喋っている。

「妹を返せ」

 新宮は口が動いていた。

「てめぇの目的は俺だろ! 関係ない奴巻き込んでんじゃねぇよ」

「遊びなんだよ、こ・れ・は」

 ヒルコは言いきった。罪悪のかけらは微塵も感じられない。

「俺が楽しめればそれでいいわけ! 分かった? あはははは」

 新宮は愕然とした。こいつは人をモノ程度にしか考えていない。

「てめぇだけは許せねぇ」

 ブチン! 頭の中で何かが切れたような音がした。

 考えるより先に足が動いていた。拳を握りしめヒルコに向かう。

「せいぜい楽しましてくれよなぁ。水よ我が刃となりてその役を果たせ!!!!」

 ヒルコの声に呼応しどこからともなく水が湧きあがり、渦を巻きながら右手に集まりつるぎを形作る。

「あんまり神の力を舐めてるとすぐゲームオーヴァーだぜ」

 剣の切っ先が届く間合い。

 新宮は薙ぎ払われた水の剣を沈み込んでかわし、そのまま懐に入り込んで右手の拳を振り上げる。拳はヒルコの顎に突き刺さる。

 ヒルコの身体は後ろに弧を描くように宙を舞、崩れ落ちた。

「そいつは因幡の分だ」

「てめぇ……どうやって」

「どうやって? 笑わせんなよ」

「まさか」

「火の神、ヒノカグツチの名において命ず。炎よ、邪なる魂を焼き尽くす刃となれ」

 突如炎が舞い上がり、辺りが一瞬で熱に包まれる。そして新宮の手に炎の剣が握られる。

「おもしれぇ。あははは、最高だよ」


 距離5m


 2人の間合いは一歩踏み込めば命のやり取りが出来る距離。じりじりと互いに間合いを詰める。

 ヒルコは短く息を吐いた。刹那、ヒルコは飛び上がり凶刃を振るう。

「死ね! 死ね!!」

 新宮はヒルコの凄まじい一撃をはね上げ、すかさず横に剣を薙ぐ。

 水と炎の剣が絡み合う。

 轟! 爆発が2人の間に起きる。

 間合いを取りなおす。

「水と炎。相性はどうだろうな!!」

 不敵な笑みを浮かべるヒルコ。

「もう一度聞く、百合花はどこだ?」

「教えるかよ。馬鹿が」

「なら容赦はしないぞ」

「あははははは、言ってろ」

 新宮は炎の剣を上段に構えると、呼吸を整える。

 ダン! ヒルコは疾風の如く突っ込んでくる。

 常人には目にも止まらぬ速さ、しかし新宮の目にははっきりと捉えられていた。

一閃

 上段からの一撃はヒルコの身体を切り裂いた。切ったところから炎が噴きあがる。

「百合花の分だ。馬鹿野郎」

「あ……はは、くだらねぇ」

 ヒルコは前のめりに倒れこむと、炎が身体を包み込む。そして跡形もなく燃え尽きた。

「百合花さんは無事です」

 振り返ると百合花を抱いた因幡が立っていた。安堵の気持ちが胸いっぱいに広がる。

「百合花も無事、ヒルコも倒したし、一件落着だな」


『私の分はどうした』

 心の中から声が聞こえる。

「へっ?」

 体が熱い。汗が噴き出る。

 もしかして……内側から焼かれてる?

「ヒノカさん! 忘れていたというわけではなくて、一緒に戦っていたということでですね」

『私のことはどうでもいいんだな』

「あつッ! 因幡助けてくれ!!」

「ごめんなさい。これは荒魂あらたまといいます」

「解説なんかいらないから!」

『貴様の曲がった魂焼き尽くしてくれる』

「カミよー! 私をお救いください」

 新宮の叫び声は夜の信仰特区、神の降りる街に響き渡った。


 はじめまして、緋文将です。ここまで読んでくださった数少ない方々ありがとうございました。随時おかしな点を修正しようと思っています。まだいたらない所だらけですが今後ともよろしくお願いします。


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