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1話女神降臨

初投稿作品です!どうぞ宜しくお願いします!

「厄日だ! たった1回で神は俺を見放したのかー」


 新宮陽斗にのみややまとは周りの人がギョッと振り返るのを気にも止めず、ガラガラと異音を発する自転車を押し走る。

 もう自転車がパンクしてかれこれ20分になる。

 夏の暑すぎる太陽に焼かれ汗が吹き出し、ワイシャツがみっともなく体に張りつきサービスショット状態になっている。野郎のそんな姿は誰もがお断りだろうが……


9月1日。

 今日、9月1日は学校の始業式が一般の常識だ。1ヶ月半ぶりに会う友人たちと夏休みの思い出話を語り合い、誰が一番日焼けしているかを競うというお決まりのコースを楽しむ予定だった。


 しかし、夏休みが終わるという哀愁漂う気分になり普段なら思うことのない、明日の朝写させて貰おうという邪な気が働き、唯一の残り数Bの宿題を放置したのだ。

 まさか目覚まし時計のストライキと自転車のサボタージュというダブルパンチをくらうとは予想もつかなかった。

 走りつつ左腕の時計に目をやると、8時を指している。


「くそっ! 間に合わない!」


 必死に思考を巡らせた結果たどり着いた選択肢は自転車の放棄であった。

 もともと新宮は陸上部で走りにはそれなりに自信がある。

 コンビニに自転車を迷惑駐輪し、鞄を引っ掴み、街路樹の余命幾ばくもない蝉のうっとうしい程の大合唱を耳に猛然と駆ける。


 試合以上のペースの新宮に神立学園の鳥居を模した正門が見える。


 神立学園かみたちがくえんは神道系の高校で、1年前に政府によって信仰の自由が絶対的に保障された、ここ『信仰特区』に移転してきた。裏を返せばここ以外は信仰の自由はないのである。

 遅刻を取り締まる生活指導の教師が門を閉じようとしている。


「うおぉー」


 喚く。力を振り絞る。門が閉じられる寸前に飛び込んだ。


「セーフっ!」


 体を折り膝に手をつきながら乱れた呼吸を落ち着け、歓喜の瞬間を噛み締めた。それこそマラソンで競技場に入ってから、ラストスパートで逆転優勝級の喜びだ。


「おい」


 かけられた言葉は想像以上に冷たい。否、凍える。

 暑い汗が冷や汗に変わる。恐る恐る顔をあげると、そこには鬼の生活指導こと畑山が仁王立ちしている。

「残念だが3秒遅刻だ」

「で、ですよね〜」


 こいつに抵抗するのは無理だ。恨むな、そしてgood-bye皆勤賞。



 私立の高校にもかかわらずクラスに扇風機の1台もないむし暑い教室には3人しかいない。

 全開の窓からは風のかわりに予選を毎年初戦敗退の野球部の熱い掛け声が入ってくる。

 暑さと熱さにうんざりしたように数式を黒板に書く数学教師の様子を伺いつつ横を見る。

 腰にかかるほどの長い黒髪、体調が心配になるほど純白の肌。包み込む清楚な雰囲気。

HRで紹介された編入生、因幡雪子いなばゆきこである。

 なぜ、俺の隣で宿題忘れのペナルティ講義を受けているのかというと前の学校との学力の溝を埋めるという理由らしい。

 視線に気がついた因幡は、優しい微笑みをくれた。それだけで、この苦痛な時間が幸せな時間に変換される。

「新宮、誰のために補習やってると思ってるんだ?」

 数学教師の声に一気に現実に引き戻される。

「ははっ、俺のためです……ね」

「分かってるならいいんだが……君はどうも集中力が」

 はぁ、不幸ってのはどうしてこう続くんだ……。



 夕陽が西の空に顔だけ覗かしている、時間は午後7時。

 蝉も泣き止み、暑さも幾分和らいだように感じる。

 これから歩いて家まで歩いて帰るのかと思うと憂鬱さが込み上げてくる。自転車も拾わなくちゃならない……まあ、今日の運的に撤去されているだろうが。

「ご自宅はどちらですの?」

 背後からの声に振り向くと因幡が立っていた。

「えーと、5地区のはずれだけど」

「わたくしも5地区ですの。宜しければご一緒に帰りませんか?」

 神様、ありがとう。最後に嬉しいサプライズをくれて。

「もちろん!いやー奇遇だなー」

 顔がニヤつかないように最新の注意を払いながら答える。



 二人並んで片道4車線の大通り沿いの歩道を歩く。

「生活指導の畑山だけは気を付けろ。目をつけられちまったら厄介だ」

 こんな調子であまり意味のない話を俺は喋り続けている。因幡は相づちや笑顔で返す。嫌そうな感じがないのは救いだが……如何せんネタがない。初対面の女の子にどこまで突っ込んだ話をしていいのか測りかねる。

「新宮さんは、素直に感情を伝えられますか?」

「へッ?」

 突然話し出した因幡に驚き、我ながら情けないと思う声が口をつく。因幡を見ると予想外に真剣な眼差しが向けられていた。


 因幡に気を取られ、よそ見していると突然ドン!と衝撃。誰かとぶつかったらしい。

「あ!すみません…」

 言葉が尻すぼみになる。一目で分かるヤバイ2人組にぶつかったのだ。

「いてーな。どこ見て歩いてんだ?あぁ?」

「本当すみません!では失礼します」

 因幡の手を掴み、足早に立ち去ろうとするが「はい、そうですか」とはいくはずもない。

我尊愛教がそんあいきょうではな、ぶつかった奴は半殺しにしていいことになってんだ」

 新興宗教というにはお粗末なネーミング。明らかに知的ではない。こういう輩には話し合いで解決という手段は通じない。

「ね!そう言わず勘弁して下さいよ」

 とりあえず下手に出て様子を見る。

「寄付を出してくれたら神も許すだろうよ」

 汚ならしい笑みを浮かべて、結局恐喝。どうすっかなと頭を掻いていると、因幡がスッと前に出た。

「なんだこの女? やんのか?」

「退いて下さらない……」

 威嚇というよりか、お願いという表現が当てはまる言い方だった。

「おい、因幡!やめとけって! お金で解決する……」

「伏せて!!」

 言い終わらないうちに突如因幡に引き倒された。衝撃、何が起きたのか意味不明だが、視界の端に吹っ飛ぶ不良2人組が見えた。

「何がどうなってるんだ」

 顔をあげると因幡が黒服の男と対峙していた。

「兎は逃げた方が身のためだぜ」

「そうはいきません。この方をお守りせよとのことですので」

「そうか……残念だよ。あははははは! じゃあ死ね!」

 黄昏の空に不気味な笑い声が響き渡った。


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