団長のプロローグ
勢いで書きました。
反省は随時しますが、後悔はしません。
「待てやゴルァ!」
「今日こそ始末したらぁ!」
「釘バット部隊を集めろ! スタンガン所持者は隠れてターゲットの死角から攻めろ! 本気を出すのは明日でなくて今だ!」
「ヒャッハー汚物は消毒ダァ!」
ある晴れた昼下がり、平和とは程遠い怒号が私立比翼学園に響き渡る。
騒音の発生源たる集団は各々銃刀法ギリギリの得物を持って一人の男を追っていた。
「待てや恭介ェ! でないと急所に当たらないだろぉおお!」
そんな中、一際目を血走らせて男を追う人物がいた。
その人物は小太りな体型で瓶の底かと思えるくらい度の厚い眼鏡をかけ、鎖鎌を振り回しながら集団の先頭を走っていた。
恭介、と呼ばれた男は全力で走りながらも首だけで後ろを向いて叫び返す。
「正気に戻れ上島!」
その声は必死さに溢れていた。無理もない、凶器を振り回しながら追う暴漢が背後から迫れば誰でも必死にはなる。
「俺はちょっと陽菜と買い物に行っていただけであって、決してお前らの思うような………」
「じゃかしいわ! 鈍感ハーレム属性! 『女の子と二人っきりでお買い物』ってだけで処刑対象じゃい これでも食らえや!」
ちょわぁ、と間抜けな掛け声と共に鎖鎌の分銅が恭介の頭を狙う。
しかし、彼は首を傾げ紙一重で分銅を避ける
バズン、と音を立てて分銅が校舎の曲がり角に突き刺さった。
「ちょ、おま、オレを殺す気か!」
「そう宣言した筈だが!」
上島はもう一度鎖鎌を放つため鎖を引き戻そうとする………
が、
「させるかボケェ!」
恭介は振り返って足を大きく振るい、上履きを上島に向かって放った。
上履きは綺麗に直線を描き………
「ヘプン!」
「だ、団長ぉおお!」
「団長の醜い顔面に上履きが刺さったぁ」
「ああ! バランスを崩した団長の醜い体が後方を巻き込んで横転したぁ!」
「野郎……! 醜い団長の仇じゃあ!」
「お前ら本当は上島慕ってねぇだろ………」
しかし、そんな彼の一言は時間と共に膨れ上がっていく背後からの殺意によってかきけされる。
「チクショウ! なんで、オレが、こんな目にぃいいい!」
両目から涙を流しながら彼は迫り来る死から逃走を図る。
これは、ひょんなことから多数の異性から思いを寄せられる、響恭介の愛と劣情の物語
――――では、なく………
彼らの去った廊下にボロボロに転がる物体があった。
瓶底のような眼鏡にはヒビが入り、背中のアチコチに足跡が残っている。
丸で合戦場で討ち死にした武者のような姿だ。
「会長」
しかし、そんな誰もが見向きもしない物体に語りかける存在がいた。
「ご報告に参りました」
それは、女子の声だった。
声の主は学校の制服をピシッと羽織り、髪はキチンと纏め上げられており、染色したあとはない。
眼鏡の向こうの瞳は冷たく、何事も冷静に見る観測者のような印象を与える。
「陽菜嬢と恭介君の逢い引きの件を紫嬢とリアラ嬢に伝えました。無論、現在の恭介君の向かうであろう場所も同時に伝えてあります」
淡々と、彼女は自分の仕事を目の前にいる上島に報告する。
だが、複数の生徒に踏みつけられ、ボロ雑巾のようになった彼に、はその行為は無駄に見えた。
「現在、世紀末君の作った録画用ガジェット『写すんです』が会長離脱後の様子を撮影しております。他には───」
それでも彼女は気にせず、口を動かし続ける。
廊下で生ゴミに話しかける続ける女子高生、と言うシュールな画がそこにはあった。
「───以上で報告を終了いたします。何かご質問等は御座いませんでしょうか、会長」
きっと返事はないだろう、もし何も知らない第三者が入ればそう思ったであろう。
だが、
「良くやった」
今までピクリともしなかった上島が身を起こす。大勢の人間に踏まれたにも関わらず、ダメージを受けていないとでも言うように、立ち上がる。
「流石、敏腕秘書属性。仕事が早く完璧だな」
「会長、人を属性で呼ぶのはやめて下さい」
パンパンと体の汚れを払いながら、上島は眼鏡の女子に笑いかける。
「堅いことを言わないで欲しいなぁ副団長。まぁ、君が確りしているから我がアベック撲滅団は組織として成り立っているわけだし、こんなつまらない事で辞められても困る、善処しよう副団長」
「………名前で呼ぶ気が無いのはわかりました」
はぁ、と諦めたように副団長と呼ばれた女子生徒は短くため息を吐く。
「そんな事よりだ、『ドキッ、女だらけの温泉旅行。ver.恭介ハーレム』の予算案の見積と『AB団主催、大エロDVD視聴祭』の準備はどうかね」
そんな様子にお構い無く、上島は女子生徒に向き合う。
「……温泉旅行の予算ですが、恭介君のハーレム全員分の旅費を負担するには大分足りません。全員ではなく、2、3人程度で済ませるべきだと進言致します。視聴祭ですが、私の性別を考慮して仕事を振って下さい」
「全員は不可能か、恭介のハーレムに優劣が出来るのは不味いなぁ。ハーレムが空中分解してしまう、それは不味い」
今回は見送る事にしよう、と上島はしたり顔で何度も頷く。
「で、大エロDVD祭のほ―――」
「女の私にやらせるな、と言わせていただきます」
上島に最後まで言葉を紡がせず、彼女はピシャリと言い放った。
そんな彼女の態度に、上島は怒りもせず、
「でも、やってくれているのだろう?」
と言って、余裕の笑みをうかべた。
彼女は一瞬、悔しげな表情を浮かべたが、直ぐ様無表情に戻す。
「………第3視聴覚室を私の名前でとってあります」
「流石だ。愛してるぞ」
「イケメンになってから出直して下さい」
彼女の辛辣な言葉に、上島は初めて笑み以外の表情を浮かべる。
「イケメンになれだと? 死んでも御免だ」
その顔に浮かんでいたのは軽度の嫌悪だった。彼は両手を広げ、その丸い体を大きく揺らしながら勢い良く副団長に振り向く。
「君はアベック撲滅団の副団長でありながらまだ理解が出来ないようだね? いや、君は顔が整っている分実感することが出来ないのか、不細工の利点に!」
一言毎に、彼のテンションが上がっていく、拳を握り目を血走らせる彼は異常だった。
「君は知るべきだよ副団長! 敗者の特権を、劣等感の恩恵を、負け犬の遠吠えの高尚さを、卑劣の公平さを、卑屈の柔軟性を、その他大勢の利便性を、三枚目の気楽さを、無責任の可能性を、モブの素晴らしさを、何より無価値の自由を!」
自分の言葉に酔う上島に、副団長は頭を抱えた。なぜなら、彼の今の言葉は僻みや負け惜しみではなく、本気で思っているからだ。
彼は自分が主役やヒーローと言ったものよりも、脇役やモブのような存在に価値を見出だし、憧れていた。そして、その憧れから彼は常軌を逸脱した行為を起こさせる。
例えば―――
「団長、お話は分かりました。しかしながら、私にはモテる男を追い回す人間をやりたい等と言った理由で十年かけて幼馴染みにハーレムを作る変人の考えを理解したいと思えません」
副団長の言葉に上島は、それもそうだと言って歩き出す。
行き先はアベック撲滅団集会場である自分の教室、歪な自分の城へ向かう彼の足取りは軽かった。
「理解せずとも構わん。だが、今を楽しめよ副団長。ふふ、ははは、ファーハッハッハ!」
彼の笑い声は二人しかいない渡り廊下に響き渡った。
これは、アベック撲滅団団長の暗躍の日々のお話───
───でもなかった。残念ながら。
「ところで団長」
「なんだね?」
「余裕綽々で歩いていますが、早くしないと昼休みが終わりますが?」
「早く言えや、永島!」
「………ようやく名前が出ました」