哲学少女~freedom is lonely~
今日はいつもより早く目が覚めた。
二度寝はできない性質なので、着替えて朝食を食べて、登校の準備をしたらもうすることがなくなった。
家にいてもすることがないのでいつもより一時間ほど早く家を出て学校へと向かった。
教室にはもうすでに彼女がいた。
彼女は哲学少女だ。
彼女は机の上に腰掛けて足をぶらぶらとしていた。おはよう、と声をかけてもちらりと僕を認めてこくり、と首を少しかしげるだけだった。
これが哲学少女の挨拶だ。
「私は今日良く時半に学校にきたの」
六時半……、今から一時間も前だ。なんでまたそんな早くに来たのだろう。そもそもそんなに早く学校はあいていたのか。
「学校の門は六時半に開く。君が来るまでの一時間、私はとてつもない自由を満喫できたよ」
自由? 僕は彼女の言った意味がいまいち飲み込めなかった。
「普段私達をここに押し詰め、雁字搦めにしているこの教室が、この一時間だけは何の効力も持たないただの箱だった。だからこそ余計自由を感じた」
心なしか彼女は少し高揚しているように思う。
いったいこの一時間、一人教室で何をしていたんだろうか。
「『アイアムレジェンド』って映画は知ってる?」
名前は聞いたことがあった。確か数年前の映画で、ウィル・スミスが主演だったはず。ストーリーとかはまったくわからない。
「よく覚えていないけど、ウィルスかなんかで人類のほとんどが死滅して主人公は広いニューヨークでたった一人の人間だった。設定とかエンドは忘れたけど鮮明に残ってるシーンが一つだけある。主人公が何処か高い所からゴルフをしている。街中へ向かって爽快にゴルフボールを飛ばす主人公。私はその光景にものすごく自由と言うものを感じた」
確かに爽快だろうなあ。ただしそれは誰もいないからできることだ。人がいる中そんなことをしたら危険極まりない。
「そう。誰もいないから。誰もいないからこそ、誰にも迷惑をかけることも無く、一人だからこそ、どんな聖者だろうと傍若無人に振舞うことができる。すなわち一人こそが自由。しかし生憎ながらあと数十分もしたらぞろぞろとこの教室には人が集まりだす。形が残るようなことはできなかった。だからまだ本当の自由は味わえなかった」
本当の自由。
世界には自分ただ一人。
そういう状況に陥ったら僕はどういう行動にでるだろうか。
「例えば世界に自分がただ一人なら。うん。想像がつかないね」
彼女は天井を仰ぎみて考え込んでいるようだ。
「もう何をしても咎められないし文句も言われない。ルール、モラル、未来、過去、全てから解き放たれたな一体どういう気分だろうか。思う存分飲んで、食って、いきなり服を脱ぎ始めたかと思うと奇声を上げながら走りだして、目に着くものを片っ端から壊して、発狂したように笑い続けて……」
生まれたときから人は何かと制限されて、常に何かに縛られてる。それが突然の開放。確かに発狂してもおかしくないかもしれない。
「だけど、最後には疲れ果てて、青い空を見ながら気付くの。『ああ、自分は一人だって』。どうしようもなく寂しくなって、今度は急に泣きたくなって。泣くことをためらうことも無くて、恥も外見なく大声で泣きわ喚く。そしこんなて自由ならいらないって思うの。そして、軽くそんな状態になった時に君が来た」
彼女はそう言って薄く微笑んだ。
それはどこか案したような笑みで『ありがとう』とそう言っている様にも見えた。
「本当の自由はあまりにも大きすぎて、人間に扱えるものじゃなかった。だからルールやモラル、法律で自由を押えこめて、なんとか飼いならしている。だけど時たま今の自由に満足できなくなった人間は自由を謳って未来を壊している。自由か死か、なんていった外国の政治家もいたっけ……」
廊下から足音が聞こえた。
彼女は自分の席に座って突っ伏した。
そんな彼女の隣で僕は静かに予習を始めた。
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