籠城(ろうじょう)
今のところ、ゾンビの被害が出ているのは、この町だけのようだ。
インターネットやラジオで、情報が流れている。対策本部が隣町にできたらしい。
その対策本部が、『籠城』を推奨していた。「できれば三日、持ちこたえて欲しい」とメッセージを発している。
また、対策本部の実働部隊が、数体のゾンビを捕獲したらしい。それらの実験体を使って、「ゾンビ化のメカニズム」を急いで解析しているとか。うまくいけば、ゾンビへの「効果的な対処法」がわかるかも。
そんなわけで現在、町のあちこちで、人々は『籠城』していた。
すでに一日が経過。対策本部のメッセージを信じるなら、あと二日は『籠城』する必要がある。
ここに逃げ込んだのは、正解だったのか?
人々の間で、不安の声が広がっていく。
インターネットやラジオを通して、対策本部からの情報が入ってきていた。
それらの情報から察するに、ゾンビの集団に襲われて『陥落』した場所が、いくつも出ているようだ。
その事実を直接伝えているわけではないが、注意喚起の言葉がどんどん強い口調になっている。細かい注意点も増える一方だ。
まだ『陥落』していないから、ここは当たりの方に違いない。
でも、あと二日間だ。
建物の外にある「監視カメラ」によれば、ゾンビの大群が集まってきている。
ここは「工場」なので、建物は頑丈だ。ゾンビたちに包囲されたからといって、すぐに『陥落』するわけではない。
しかし、工場の内部は死角が多いし、照明の暗い場所もある。ひとたび工場の中にゾンビの侵入を許せば、『陥落』するのは時間の問題だろう。
今のところ、ゾンビたちは金網を乗り越えずに、敷地の外で遠巻きにしているだけだが、この状況がいつまで続くことやら・・・・・・。
こんなことなら、いくらか無理をしてでも、ゾンビ映画の定番に従い、「警察署」や「ショッピングモール」に逃げ込めば良かった。
そうしていれば、今頃は「ゾンビと戦うことができる武器」を手にしていたかも。または、「食料」とか「医薬品」とかをたくさん手に入れていたに違いない。
人々は工場の奥で、ため息をつく。
インターネットの動画で見た。この町出身の有名格闘家が、ゾンビと戦っている映像だ。
格闘ゲームのような「空中連続攻撃」を、ゾンビの方が決めていた。
その動画は、百万回再生をあっさり突破している。世界中で「ゾンビすげー!」のコメントが止まらない。
あんなに強い格闘家があっさり敗北するくらいだから、普通の人が素手でゾンビに勝つのは不可能。




