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祐兵さんと豊久くん ――日向の空の下で――  作者: Gさん


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第九十話 冬原を駆ける

祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介


祐兵(すけたか)さん…伊東祐兵いとう すけたか。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。

豊久(とよひさ)くん…島津豊久しまづ とよひさ。島津氏家臣で、島津家久しまづ いえひさの息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。

冬の朝、霜を踏む音が澄んで響いた。


伊東祐兵いとう すけたか島津豊久しまづ とよひさ


並んで馬の背にあった。


吐く息は白く、手綱は冷たい。


「今日は、走りたくなる空ですな」


豊久(とよひさ)が空を見上げる。


「風が澄んでいる。

 馬も落ち着いている」


合図もなく


二人は同時に踵を入れた。


馬は力強く地を蹴り


冬枯れの原を一気に駆け出す。


風が頬を打ち、耳元で唸る。


だが不思議と寒さはなく


身体の芯が目覚めていく。


「ははっ!」


豊久(とよひさ)が声を上げた。


「剣を振らずとも

 血が巡りますな!」


祐兵(すけたか)は前を見据え


わずかに口元を緩める。


「馬に任せろ。

 余計な力はいらぬ」


蹄が霜を砕き


乾いた音を立てる。


小さな丘を越え


林を抜けると


眼前に白く開けた原が広がった。


二人は速度を落とし、並走する。


「こうして走ると

 戦のことも、町の雑事も

 遠くなりますな!」


豊久が嬉しそうに言う。


「身体が先に考える。

 それでよい」


やがて馬を止め、息を整える。


馬の首を撫でると


温かな体温が掌に伝わった。


「良い走りでした」


「うむ。

 冬には、冬の動きがある」


遠くで雲が流れ


静かな陽が差す。


二人はしばし無言で景色を眺め


やがて手綱を返した。


帰り道


蹄の音は穏やかになり


冬の原は再び静けさを取り戻す。


駆けた後の心は


不思議と澄んでいた。

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