表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祐兵さんと豊久くん ――日向の空の下で――  作者: Gさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/92

第七十二話 雉鍋と冬のぬくもり

狩りから戻った夕刻


伊東祐兵いとう すけたか島津豊久しまづ とよひさ


館の囲炉裏に火を起こしていた。


雪は静かに降り続け


外はすっかり薄闇に包まれている。


「さて、きじをどう料理するか」


祐兵(すけたか)が腕まくりをしながら言うと


豊久とよひさは鍋を取り出し


「やはり冬は鍋がよろしいでしょうな」


と笑った。


羽をむしり、丁寧に下処理をしていくと


小春こはると黒猫が足元にすり寄り


期待に満ちた目で見上げてくる。


「食いしん坊め」


二人は苦笑しつつ、手を止めずに準備を進めた。



鍋には地元の冬野菜――


大根、里芋、白葱、干し椎茸を加え


祐兵(すけたか)が仕込んだ出汁がやさしい香りを立てる。


「雉は脂が上品ですからな。

 こうして弱火でじっくり煮るのがよい」


豊久(とよひさ)が丁寧に肉を鍋へ入れると


じゅわり、と湯気の中から旨味の匂いが立ち昇る。


小春と黒猫は耐えきれず


鍋を覗こうとして叱られた。


「こぼれたら火傷するぞ」


祐兵(すけたか)に注意され、二匹は不満そうに座り込む。


薪の爆ぜる音が心地よく


館の中は冬とは思えぬほど温かかった。



煮え始めた頃


二人は味見をしながら仕上げに取りかかった。


祐兵(すけたか)が蓋を開けると


芳醇な香りが一気に広がる。


「これは…良い出来だ」


豊久(とよひさ)も思わず息を呑んだ。


器に盛ると


雉肉は淡い桃色を残し


野菜には旨味が染み込んでいる。


一口含むと、


「……沁みるな」


祐兵(すけたか)は静かに微笑んだ。


豊久は頷きながら


「冬の山の恵みですな。

 命をいただくというのは、ありがたいものです」


小春と黒猫には


骨の周りの肉を少しだけ与えると


二匹は尻尾を立てて喜んだ。



鍋の湯気が立ちのぼる中


二人は囲炉裏端でゆっくり箸を進めた。


外では雪がしんしんと降り積もり


世界が柔らかな白に包まれていく。


「明日も雪かもしれませぬな」


豊久(とよひさ)が言う。


「ならば、明日は干し物でも作るか。

 残った雉肉も保存できよう」


祐兵(すけたか)は火を見つめ、穏やかに応じた。


鍋を平らげると


小春と黒猫が膝へ乗り


満足そうに喉を鳴らす。


「こいつらにも良い夜だな」

「我らも同じですな」


静かな雪夜


山の恵みと火の温もりに包まれた


豊かなひとときだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ