表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祐兵さんと豊久くん ――日向の空の下で――  作者: Gさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/95

第六十八話 霜の山道に息づくもの

祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介


祐兵(すけたか)さん…伊東祐兵いとう すけたか。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。

豊久(とよひさ)くん…島津豊久しまづ とよひさ。島津氏家臣で、島津家久しまづ いえひさの息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。

その朝、飫肥おびの山々は薄い霧に包まれ


木々の枝には一面の霜がきらりと光っていた。


伊東祐兵いとう すけたかは外套を羽織り


「今日は山を歩いてみよう」


島津豊久しまづ とよひさに声をかけた。


豊久(とよひさ)も装束を整え


「冬の山は静かで気持ちが整いますな」


と応じる。


小春こはると黒猫は火鉢の前で丸くなり


今日はついていく気がないようだった。


二人は足元の雪を踏みしめながら山道へ向かう。


冷えた空気が頬を刺し


冬の凛とした気配が胸をすうっと澄ませた。



山道に入ると、木々は白い化粧をまとい


枝先には霜の花が咲いているようだった。


「これは……霜華そうかと言ったか」


豊久(とよひさ)がそっと枝に触れ


祐兵(すけたか)もその繊細な美しさに目を細める。


足元では小川がきらきらと凍りかけ


薄氷の下を水が静かに流れていた。


「冬はすべてが眠っているようでいて

 こうして生きている音が聞こえる」


祐兵(すけたか)の言葉に豊久(とよひさ)は耳を澄ませた。


鳥の声も少ない季節だが


遠くで枝が揺れる微かな音がする。


風も音も控えめで


『冬の静けさ』そのものが流れていた。



少し進むと、大きな岩肌に


つららがびっしりと並んでいた。


太陽の光を受けて透明に輝き


まるで柱のように連なっている。


「見事なものだな……」


祐兵(すけたか)が感嘆すると


豊久(とよひさ)も思わず息を呑んだ。


近くの枝から粉雪がふわりと舞い落ち


光を受けて虹のようにきらめく。


その光景は自然が描く絵画のようで


二人はしばし言葉を忘れた。


「冬は厳しいが

 こうした美しさもあるのですね」


豊久(とよひさ)の言葉に祐兵(すけたか)は静かに頷き


胸の中に冷たくも澄んだ風が通った。



帰り道、日が傾き始めると


山の影が長く伸び、雪面は青く染まった。


「今日の山は格別に美しかったな」


祐兵(すけたか)が言うと


「ええ。寒さの中にしかない景色でした」


豊久(とよひさ)も深く頷いた。


館に戻ると、小春と黒猫が


暖かな空気の中から顔を出した。


「ただいま戻ったぞ」


祐兵(すけたか)が声をかけると、二匹は足元にすり寄り


冷えた手を温めるように頬を押し当ててくる。


火鉢にあたりながら


二人は山で見た霜華やつららの光景を語り合った。


冬の自然は厳しくも


心を静かに澄ませてくれるものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ