第六十四話 火鉢の猫たち
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
冬の朝、飫肥の館はしんしんと冷え込んでいた。
伊東祐兵が火鉢に炭をくべると
小春と黒猫がすかさず駆け寄ってくる。
二匹は当然のような顔で座布団を占領し
「ここは我らの場だ」とばかりに丸くなった。
祐兵が
「まだ温まっておらぬぞ」
と苦笑すると
黒猫は片目を細めてこちらを見上げ
小春は尻尾をゆっくり揺らして座布団を譲らぬ構え。
そこへ島津豊久が現れ
「すっかり火鉢の番猫ですな」
と笑った。
猫たちは耳をぴくりと動かし
まるで誇らしげに胸を張った。
温まってくると、小春は部屋をうろうろ。
黒猫は火鉢のそばから動かず
まるで『暖の守護者』のように座っている。
「黒猫殿、動かぬと湯を沸かせぬのだが…」
豊久が茶を淹れようと近寄ると
黒猫はしぶしぶ立ち上がり
しかしすぐ横でぴたっと待機した。
小春はというと
祐兵の袂に潜り込み
そっと顔だけ出して雪を眺めている。
「寒さが苦手なのだな」
祐兵が撫でると、小春は喉を鳴らした。
二匹の動きには個性があり
見ている者を飽きさせなかった。
昼頃、祐兵が外で薪を割る音がすると
小春は興味津々で縁側まで走っていった。
黒猫も続くが、寒風に触れて即座に後退し
「外は無理だ」
と言わんばかりに戻ってくる。
小春は雪を踏んで散策を始め
足跡をぽつぽつと残して遊んでいた。
しかしふと、冷たさに気付いたのか
「にゃ」
と小さく鳴いて震える。
すぐさま豊久が抱き上げ
「やはり外は早かったですな」
と笑う。
黒猫は縁側の敷居からじっとその様子を見て
どこか誇らしげ。
「ほうら見たことか」
という顔に
祐兵も豊久も思わず吹き出した。
夕方、館は火鉢と灯りでほのかな暖かさに包まれた。
小春と黒猫は座布団を並べて横になり
時折互いの尻尾が触れ合っている。
「今日はずいぶん遊んだな」
祐兵が言うと、二匹は小さく目を細めた。
豊久は火鉢に炭を足しながら
「猫殿のおかげで、冬も賑やかですな」
と笑う。
豆餅を焼く香りが漂い
二匹は再び顔を上げて興味津々。
「これはやれぬぞ」
と祐兵が言うと
小春は諦めて丸くなり
黒猫も続いて目を閉じた。
焔のゆらぎが二匹の毛並みに反射し
静けさとぬくもりが夜を満たす。
こうして猫たちの一日は
火鉢の守りにつかれながら終わっていった。




