第五十九話 雪窓の猫たち
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。あの作品で有名。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
冬の朝
飫肥の館には柔らかな光が差し込み
小春と黒猫は障子の前に並んで座っていた。
雪がしんしんと降り続き
外の庭は白く静まり返っている。
小春は雪の動きを目で追い
黒猫はその横で尻尾をゆっくり揺らしていた。
そこへ伊東祐兵が通りかかり
「朝の見回りか、二匹とも」
と微笑む。
猫たちは振り返って短く鳴き
まるで返事をしているかのようだ。
続いて島津豊久も現れ
「今日の雪は軽いぞ」
と言いながら、二匹の頭を優しく撫でた。
朝餉の支度が整うと、二匹は台所に移動した。
湯気と香りに惹かれ
小春は祐兵の足元にすり寄り
黒猫は豊久の座布団を占領して丸くなった。
「黒猫殿、おぬしの場所ではないぞ」
豊久が苦笑すると、黒猫は知らぬ顔で目を閉じる。
小春は羨ましそうにじっと見つめ
やがてそっと黒猫の横に潜り込んだ。
二匹は肩を寄せ合い
ほんのり温かい台所の空気を楽しんでいる。
「仲良くなったものだ」
祐兵が言うと、豊久も満足げに頷いた。
猫たちの存在が
冬の朝をいっそう穏やかにしていた。
日が高くなるころ、二匹は庭に出た。
雪はまだ薄く積もり
踏むたびに小さく音を立てる。
小春は軽やかに跳ね
黒猫は慎重に足を運びながら後を追う。
雪の下から動く影を見つけたのか
小春が身を低くし
黒猫も横でじっと構えた。
しかし影の主はただの落ち葉。
二匹は同時に『なんだ』というように首をかしげ
祐兵と豊久を笑わせた。
「雪の日は遊びに事欠かぬな」
豊久が言うと、黒猫はくしゃみをひとつして尻尾を立てた。
その仕草に、小さな冬の日差しが揺れた。
夕方になり、二匹は館へ戻った。
火鉢の前には座布団が二つ並べられている。
小春が先に座り
黒猫は少し考えてから隣に収まった。
「良い位置取りだな」
祐兵が笑って酒を温め
豊久も椀を手にして静かな夜を味わう。
猫たちは火の音に耳を澄ませつつ
温かさにゆっくりと目を細めた。
外では雪が細く降り続けている。
館の中には、人と猫の穏やかな気配が満ち
冬の夜は深く、優しく、流れていった。
「明日も元気に遊ぶのだぞ」
祐兵が声をかけると
二匹は小さく喉を鳴らして応えた。




