第六話 病の友
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。あの作品で有名。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
秋が深まるある日、祐兵は体調を崩してしまった。
「熱がありますね」
侍医が額に手を当てた。
「しばらく安静にしてください」
「分かった...」
祐兵が床に伏せて三日目、豊久が見舞いに訪れた。
「祐兵殿、大丈夫ですか?」
「おお、豊久殿...わざわざすまぬ」
「何を言う。友が病と聞いて、駆けつけぬはずがない」
豊久は手に包みを持っていた。
「これは?」
「薬草です。我が家に伝わる、熱に効くという...あと、果物も持ってきました」
「ありがたい」
豊久は祐兵の枕元に座り、濡れた布で額を冷やしてやった。
「豊久殿、そこまでしなくても...」
「良いのです。祐兵殿には日頃から色々と教えていただいている。これくらいさせてください」
「...すまぬ」
「謝らないでください。それより、何か食べられそうなものはありますか?」
「そうだな...粥でも食べられれば」
「では、作ってきます!」
豊久が立ち上がろうとした時、祐兵が笑った。
「豊久殿、料理はできるのか?」
「...それは」
豊久が困った顔をした。
「まあ、野戦での飯炊きくらいは」
「では、台所の者に頼んだ方が無難だな」
二人は笑い合った。
しばらくして、温かい粥が運ばれてきた。
豊久が祐兵を起こして、粥を食べさせる。
「熱い、ですか?」
「ちょうど良い」
「それは良かった」
粥を食べ終えると、祐兵は少し楽になったようだった。
「豊久殿、お前は本当に優しいな」
「そんなことはありません。ただ、友のためにできることをしているだけです」
「友、か...」
祐兵が微笑んだ。
「嬉しい言葉だ」
豊久はその日、夕方まで祐兵の世話をした。
本を読み聞かせたり、外の様子を話したり。
「そういえば、あの金魚は元気にしていますぞ」
豊久が言った。
「毎日餌をやっています」
「それは良かった。豊久殿も世話好きだな」
「祐兵殿にいただいた大切なものですから」
日が傾き始めた頃、豊久は立ち上がった。
「では、私はこれで。また明日も来ます」
「明日は来なくても良い。もう大丈夫だ」
「いえ、来ます」
豊久がきっぱりと言った。
「祐兵殿が完全に回復するまで」
祐兵は苦笑いした。
「頑固だな」
「祐兵殿には及びませぬ」
豊久は笑って帰っていった。
一人になった祐兵は、天井を見つめながら思った。
良き友を持った。
この友情を、大切にしていきたい。
窓の外では、秋の風が優しく吹いていた。




