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祐兵さんと豊久くん ――日向の空の下で――  作者: Gさん


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第五十六話 冬の一時

祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介


祐兵(すけたか)さん…伊東祐兵いとう すけたか。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。

豊久(とよひさ)くん…島津豊久しまづ とよひさ。あの作品で有名。島津氏家臣で、島津家久しまづ いえひさの息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。

冬の朝、飫肥おびの館には柔らかな光が差していた。


伊東祐兵いとう すけたかが縁側を開けると


雪は夜のうちに薄く積もり


庭は真っ白に染まっている。


小春こはると黒猫は並んで座り


外の雪を静かに眺めていた。


「仲良くなったな、二匹とも」


祐兵(すけたか)は微笑み、二匹の頭を撫でる。


やがて島津豊久しまづ とよひさ


湯気の立つ茶を持って現れた。


祐兵(すけたか)殿、今日の雪は軽い。

 散歩にはちょうど良いかもしれませんぞ」


二人はほっと息をつき


いつもの冬の日がまた始まったのだと感じた。



朝餉は、祐兵(すけたか)が作った大根と干し茸の汁物。


冬野菜の甘みがじんわりと体に染みる。


「うむ、これは良い味だ。太吉殿も好きだったでしょうな」


豊久(とよひさ)の言葉に、祐兵(すけたか)は静かに頷いた。


「忘れぬためにも、いつも通りに生きよう」


食事を終えると、二人は庭に出て雪かきをした。


小春と黒猫はその後をついて回り


時おり雪にじゃれついて転がっている。


「この二匹、随分と楽しそうですな」


豊久が笑うと、祐兵も(すき)を止めて眺めた。


冬の空は澄み切り


時折ふわりと雪が舞い降りてくるだけだった。



雪かきが終わると


二人は山際の小道を歩きに出た。


冷たい風が吹く中でも


小春と黒猫は前を走ったり


二人の足元で丸まったりと忙しい。


「冬は寂しい季節だが、こうして歩くと悪くない」


祐兵(すけたか)がつぶやくと


豊久(とよひさ)は空を見上げた。


「ええ。木乃葉天狗このはてんぐ殿も

 どこかで見ているやもしれぬ」


そのとき、枝の上から雪がふわりと舞い落ち


二人にひらりと降りかかった。


小春が驚いて鳴き、黒猫が木に向かって尻尾を振る。


「天狗殿のいたずらか?」


豊久(とよひさ)が笑い、祐兵(すけたか)も肩をすくめた。



日が傾き始めた頃、二人は館へ戻った。


火鉢に炭をくべ


小春と黒猫はその前で仲良く丸くなる。


「静かだな……良い一日だった」


祐兵(すけたか)が温酒を一口すすると


豊久(とよひさ)も同じ盃を手にした。


「冬の暮れは早いですが、

 この時間が何より心を温めますな」


窓の外では雪が細く降っていたが


館の中は火と湯気と、猫たちの存在で満ちていた。


「明日もまた、こうして過ごせれば良い」


祐兵(すけたか)の声に、豊久(とよひさ)は微笑みを返した。


戦なき日々の中にこそ


二人が守るべきものが確かにあった。

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