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祐兵さんと豊久くん ――日向の空の下で――  作者: Gさん


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第五十三話 雪道の足跡

祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介


祐兵(すけたか)さん…伊東祐兵いとう すけたか。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。

豊久(とよひさ)くん…島津豊久しまづ とよひさ。あの作品で有名。島津氏家臣で、島津家久しまづ いえひさの息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。

朝の飫肥おびは静かな白に包まれていた。


伊東祐兵いとう すけたかが館を出ると


庭先の雪に奇妙な足跡が続いているのに気づいた。


人でも犬でもない、小さな三角形のような跡。


豊久(とよひさ)殿、これは見覚えがあるか?」


呼ばれて出てきた島津豊久しまづ とよひさ


足跡に目を凝らした。


「猫でもござらんし……鳥にしては形が違いますな」


二人は跡を追って、裏山の小径へ進んだ。


雪を踏む音だけが辺りに響く。


「昨日は誰も通っておらぬはずだが」


祐兵(すけたか)の胸に、かすかな違和感が芽生えていた。



足跡は一定のリズムで続き


やがて太吉一家の墓へとつながっていた。


「……ここに来ていたのか」


豊久(とよひさ)が小さく呟く。


墓前の雪は踏み固められ


誰かがしばし佇んでいた気配があった。


祐兵(すけたか)は墓標に積もる雪を払いながら


「太吉を想う者が、我ら以外にもいるということか」


と言った。


そのとき、近くの藪がわずかに揺れた。


二人は身構えたが、姿を見せたのは――


あの白黒の猫、小春(こはる)だった。


「小春殿……」


豊久(とよひさ)の声に、小春は軽く鳴いて足跡の先へ戻っていった。



だが、そこで祐兵(すけたか)は気づいた。


「待て豊久(とよひさ)殿……この足跡は小春のものではない」


確かに小春の足跡も上に重なっているが


最初についた跡は明らかに別物だ。


三角形にも、爪跡にも似ず


まるで翼の先で雪を押したような軽い形。


「……木乃葉天狗このはてんぐか」


豊久の言葉に、祐兵は静かに頷いた。


天狗が墓を訪れた――


そう考えると


あの不思議な足跡も納得がいく。


祐兵は目を細めた。


「太吉の魂に、また祈りを捧げに来たのだろう」


小春が祐兵の足元に寄り添う。


「天狗殿も、猫も……皆、太吉を想っておるのだな」



二人は足跡の終点に立ち


しばらく雪の降る墓前を見守った。


天狗が残したらしい足跡は


いつの間にか淡く消え始めている。


祐兵(すけたか)殿……太吉殿は幸せ者でしたな」


「うむ。人も天狗も、猫すらも、あの子を忘れぬ」


祐兵(すけたか)は墓の前に小さな花を添え


軽く手を合わせた。


「太吉……安らかに眠れ。

 お前の足跡は、皆の心に残っている」


空を仰ぐと、雲間から一筋の光が差し


墓標の木札が淡く輝いた。


やがて二人は静かに館へ戻ったが


背後では小春が太吉の墓を守るように


丸くなって座っていた。

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