第五話 夏祭りの夜
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。あの作品で有名。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
蒸し暑い夏の夕暮れ
城下では祭りの準備が進んでいた。
「祐兵殿、今年の夏祭りには行かれますか?」
豊久が汗を拭いながら訪ねてきた。
今日も昼間は槍の稽古をしていたらしい。
「祭りか...去年は行かなかったな」
「それはもったいない!城下の者たちも、殿方が来てくだされば喜びますぞ」
祐兵は少し考えてから頷いた。
「では、今年は行ってみるか」
祭りの夜、二人は簡素な浴衣に着替えて城下へ繰り出した。
通りには提灯が灯され、屋台が並んでいる。
太鼓の音が夜空に響き、人々の笑い声が絶えない。
「おお、賑やかだ!」
豊久が目を輝かせた。
「豊久殿、子供のようだな」
「祭りくらい、童心に返っても良いではありませんか」
二人は屋台を巡り
焼き鳥を買い、金魚すくいに挑戦した。
「むう...逃げられた」
豊久が悔しそうに言った。
「焦りすぎだ。もっとゆっくり、そっと...」
祐兵が実演して見せる。
「おお!さすがですな」
祐兵が見事に金魚をすくい上げた。
「これは豊久殿に」
「良いのですか?」
「ああ。館で飼うと良い。眺めていると心が落ち着く」
その時、広場で盆踊りが始まった。
「さあさあ、若いお侍さんたちも踊りなされ!」
町の女性たちに手を引かれ
二人は輪の中に入れられてしまった。
「こ、これは...」
祐兵が困惑している。
「まあ、良いではありませんか!」
豊久は楽しそうに踊り始めた。
祐兵も観念して踊り始めた。
最初はぎこちなかったが、次第にリズムに乗ってきた。
踊りが終わると、二人は少し離れた場所で休憩した。
「良い祭りでしたな」
豊久が満足そうに言った。
「ああ...たまにはこういうのも悪くない」
夜空には星が瞬いている。遠くで花火が上がり始めた。
「綺麗だ」
「ええ」
二人は黙って花火を見上げた。
「祐兵殿」
豊久がぽつりと言った。
「こんな平和な日々が、ずっと続けば良いのですが」
「...そうだな」
祐兵も静かに答えた。
「だが、我らはそのために備えねばならぬ」
「分かっております。だからこそ、今この瞬間を大切にしたい」
花火の光が二人の顔を照らす。
「豊久殿の言う通りだ。今を大切に」
祭りの夜は更けていき、城下には温かな空気が流れていた。




