第四十六話 冬の町と暴れ者
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。あの作品で有名。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
冬晴れの飫肥の町は
白い息が行き交う活気の中にあった。
伊東祐兵と島津豊久は
用事のついでに町を歩いていた。
「魚屋の干物が旨そうですぞ、祐兵殿」
「冬の干物は脂が乗る。あとで買っていこう」
そんな穏やかな道すがら、通りの先から騒ぎ声が響いた。
「やめてくれ!」「誰か止めて!」
二人が歩み寄ると
酒に酔った大男が商人を蹴散らし
店先の品を投げ散らしているところだった。
「……冬の町に、似つかわしくないな」
祐兵は静かに歩き出した。
暴れ者は肩を怒らせ
刃物こそ持っていないが
明らかに周囲を怯えさせていた。
「どけぇ!俺さまの通り道だ!」
倒れた商人の娘が震えているのを見て
豊久はすっと彼女の前に立った。
「娘子に乱暴は許されませぬぞ」
「なんだァ、てめぇも殴られたいか!」
男が拳を振り上げた瞬間――
祐兵がその手首を掴んだ。
「冬の寒さも和らぐほど、元気のよいことだ」
淡々とした声に、大男は一瞬怯む。
しかし、男は吠えるように突っかかってきた。
「うおおおおっ!」
大男の突進は、冬の熊のような迫力だったが――
祐兵は半歩横に身をずらし
男の腕を取り、雪の上へ軽くいなした。
「ぎゃっ!?」
男は見事に転がり、店先の雪に突っ込んだ。
起き上がろうとしたところを、豊久が前に立つ。
「これ以上、町人を困らせるなら……手加減はできませぬぞ」
豊久の真っ直ぐな眼差しに、大男はたじろぐ。
「ひ、ひぃ……誰だ、お前ら……」
祐兵は静かに言った。
「ただの町を歩く者よ。
だが、飫肥の人々を泣かせる者を見過ごす気はない」
大男はすっかり戦意を失い
町役人に引き渡される頃には
震える子鹿のようになっていた。
商人たちは胸を撫で下ろし、娘は深く頭を下げた。
「ありがとうございました……!」
豊久は照れたように笑い
「町が静かであれば、それが何よりでございます」
と答えた。
祐兵は落ちた干物を拾い上げた。
「良い干物だ。壊れずに済んでよかった。これは私が買い取ろう」
店主は涙ぐみながら礼を述べた。
二人が町を離れる頃
雪は柔らかく陽に照らされ
何事もなかったかのように
町はまた穏やかさを取り戻していた。




