表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祐兵さんと豊久くん ――日向の空の下で――  作者: Gさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/92

第四十三話 凍る川と月の影

祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介


祐兵(すけたか)さん…伊東祐兵いとう すけたか。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。

豊久(とよひさ)くん…島津豊久しまづ とよひさ。あの作品で有名。島津氏家臣で、島津家久しまづ いえひさの息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。

夜の山里は深い静寂に包まれていた。


雪明かりに照らされて


飫肥おびの川が白く光っている。


伊東祐兵いとう すけたか島津豊久しまづ とよひさ


鍋の片付けを終えると


ふと思い立ち川辺へ向かった。


「祐兵殿、見てください。川が凍り、まるで鏡のようです」


「そしてその鏡には、月が映っておる」


川面に映る月は


氷の下で揺らめくようにぼんやりと光り


辺りには風の音ひとつなかった。


ただ二人の吐く息だけが、月明かりの中に淡く漂っていた。



「昔は、月を見ても心が荒ぶるばかりでした。

 戦の夜は、光すら刃のように感じたものです」


豊久が呟くと、祐兵は静かに頷いた。


「戦の月は、血を映し、今の月は雪を映す。

 同じ月でも、見る心が変われば姿も変わる」


その言葉に豊久は微笑み


「なるほど、月も人の心を映す鏡ですな」


と言った。


氷の上を小さな風が走り、霜がきらめいた。


その瞬間、どこからか笛の音が響いた。


「……木乃葉天狗このはてんぐか」


祐兵の目に、わずかに笑みが宿った。



風の中、木乃葉天狗このはてんぐの声がかすかに聞こえた。


『人の子よ、静けさの中で何を見る?』


祐兵は川を見下ろし、答えるように呟いた。


「命の流れだ。凍っても、下では生きておる」


天狗の姿は見えなかったが


風が頷くように吹いた。


「心が凍らぬ限り、人は春を迎えられる」


豊久は盃を取り出し、月光を受けて差し出した。


「ならば、この月に感謝を。

 凍る川も、我らの心も、明日を待っている」


二人は静かに盃を傾けた。



氷の川に月が沈み


夜の空には星が瞬いていた。


祐兵は川面を見つめ、ゆっくりと息を吐いた。


「月は変わらずとも、我らの時は流れる。

 それでもこうして、同じ光を見上げられることが幸いだ」


「まこと、戦を越えてなお、生きて月を見る……

 それこそが我らの証でございますな」


豊久の言葉に、祐兵は頷いた。


氷が小さく割れ


川の下から水の音が聞こえた。


二人は月影を背にしながら


ゆるやかに館へと戻っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ