第四話 師との再会
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。あの作品で有名。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
春の訪れを告げる梅の花が咲き始めた頃
祐兵の館に一人の老人が訪れた。
「これはこれは、久しぶりだな、祐兵」
「師匠!」
祐兵が驚いて立ち上がった。
老人は祐兵が若い頃、兵法を学んだ師だった。
「お元気そうで何より」
「師匠こそ。しかし、どうしてこちらに?」
「旅の途中でな。弟子の顔を見たくなった」
ちょうどその時、豊久が訪ねてきた。
「祐兵殿、今日は...おや、お客様で?」
「豊久殿、この方は私の師だ」
「これはご丁寧に。島津豊久と申します」
老人は豊久をじっと見た。
「ほう、噂の島津の若君か。目に力がある。良い武士になりそうだ」
「ありがたきお言葉」
「師匠、茶を淹れます。ゆっくりしていってください」
祐兵が言った。
「では、遠慮なく」
三人は庭を眺めながら茶を飲んだ。
「祐兵、お前も立派になったな」
老人が言った。
「かつては頭でっかちの少年だったが、今は理と情のバランスが取れている」
「師匠のおかげです」
「いや、それはお前自身の努力だ。そして...」
老人は豊久を見た。
「良き友を持ったことも大きいだろう」
豊久が驚いて祐兵を見た。
「祐兵殿、私のことを?」
「...たまに手紙で師匠に近況を報告しているのだ」
祐兵が少し照れくさそうに言った。
「豊久殿のことも書いた」
「なんと...」
「お前は豊久殿のことを『武に優れ、心優しき友』と書いていたな」
老人が微笑んだ。
豊久は嬉しそうに、そして少し恥ずかしそうに笑った。
「師匠」
祐兵が真面目な顔で聞いた。
「一つお尋ねしたいことがあります。武士として大切なものとは何でしょうか?」
老人はしばらく梅の花を見つめてから答えた。
「それはな、強さだけでも、知恵だけでもない。大切なのは...人を思いやる心だ」
「人を思いやる心?」
豊久が聞き返した。
「そうだ。戦は人を殺めるが、その根底に民を守る心がなければ、ただの殺戮に過ぎぬ。強さも知恵も、人のために使わねば意味がない」
「深いお言葉です」
祐兵が頭を下げた。
「お前たちを見ていると、それがよく分かる。かつて対立していた家の者同士が、こうして友として茶を飲む。これこそが、本当の強さではないか」
老人の言葉に、二人は黙って頷いた。
夕方、老人が立ち去る時、二人は門まで見送った。
「また会おう、祐兵、豊久」
「はい、師匠」
「お元気で」
老人の姿が小さくなっていく。
「良き師をお持ちですな」
豊久が言った。
「ああ。豊久殿も、いつか弟子を持つ日が来るだろう」
「その時は、祐兵殿に教わったことを伝えます」
「私もだ。豊久殿から学んだことを」
梅の香りが風に乗って二人を包んだ。
春の訪れとともに、二人の友情もまた深まっていく。




