第三十話 南瓜と秋の宵
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。あの作品で有名。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
飫肥の城下に
南蛮船から珍しい作物が届いたという知らせがあった。
伊東祐兵は興味を覚え、港へ出向く。
「これは……丸く、橙色をしておる」
商人が笑いながら言う。
「南蛮より伝わった“南瓜”にございます。なんでも、大友宗麟公が種を広められたのだとか」
「まるで灯籠のようですな!」
島津豊久も覗き込み、感嘆した。
「この不思議な瓜を、城で料理してみよう」
祐兵はひとつを受け取り、呟いた。
秋風が吹き、夕暮れの海に南蛮船の帆が静かに揺れていた。
その夜、囲炉裏の火が赤々と燃える中
二人は南瓜を切って鍋に入れた。
「見た目は異国風だが、香りは優しいですな」
「素材に国境はない。火を通せば、どれも自然の恵みだ」
やがて柔らかく煮えた南瓜の甘い香りが部屋に満ちた。
「うむ、これぞ秋の味わい!」
豊久が頬をゆるめる。
「南蛮の知恵も、こうして我らの暮らしに溶けていくのだな」
祐兵も笑みを浮かべた。
二人は盃を交わし、静かに温かな時を過ごした。
外では風が柿の葉をさらりと舞い上げた。
「祐兵殿、この南瓜……灯りを入れたら、本当に灯籠になりそうですぞ!」
豊久の言葉に祐兵は吹き出した。
「また奇妙なことを言うな。だが、面白い」
二人はくり抜いた皮の中に蝋燭を入れ、火を灯した。
橙色の光が壁に映り、まるで笑う顔のように揺らめく。
「おお、これはまるで異国の祭りのようですな!」
「南蛮の人々も、秋にこうして火を楽しむのかもしれぬ」
二人はその光を眺めながら、異国と日本を結ぶ不思議な夜に思いを馳せた。
灯りはやがて小さくなり、蝋燭の火が静かに揺れた。
「祐兵殿、この南瓜の灯籠……悪しきものを遠ざける気がしますな」
「そうかもしれぬ。火は心を照らし、闇を追い払う」
「この光が、人々の心を照らしますように」
祐兵は橙の灯に盃を掲げ、呟いた。
「祐兵殿の願い、きっと届きますぞ」
豊久も盃を重ねた。
秋の宵、二人の笑顔が灯籠のように柔らかく輝いた。
夜風が障子を鳴らし
飫肥の町に穏やかな秋の終わりを告げていた。




