第三話 雨の日の将棋
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。あの作品で有名。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
しとしとと雨が降る日
祐兵の館では静かな時間が流れていた。
「祐兵殿、暇でござる」
豊久が退屈そうに寝転がっている。
今日は朝から雨で、稽古もできない。
「では将棋でもいかがか」
祐兵が盤を取り出した。
「おお、良いですな!」
豊久は身を起こし、盤を挟んで座った。
「では一局」
駒を並べ、対局が始まった。
祐兵の指し手は慎重で、じっくりと考えてから駒を動かす。
一方、豊久は直感的で、勢いよく攻め込んでいく。
「そこですか」
祐兵が冷静に受ける。
「むう...」
豊久が唸る。
しばらくして、祐兵が優勢になっていた。
「参りましたな」
豊久が頭を掻いた。
「祐兵殿の守りは堅い」
「豊久殿の攻めは鋭いが、少し焦りすぎる。もう少し相手の動きを見てから攻めた方が良い」
「まるで戦のようですな」
「将棋は戦の縮図だ。ここで学んだことは、実戦でも役立つ」
「なるほど...では、もう一局!」
二局目が始まった。今度は豊久も慎重に指している。
「おや、豊久殿、今度は様子が違うな」
「祐兵殿の教えを実践しておるのです」
だが、慎重になりすぎた豊久は今度は攻めのタイミングを逃してしまった。
「参りました...」
「ははは」
祐兵が笑った。
「今度は守りすぎたな。難しいものだ、攻守のバランスは」
「祐兵殿は何でもお上手だ」
豊久がため息をついた。
「そうでもない。豊久殿には敵わぬものもある」
「何ですか?」
「槍の腕前だ。豊久殿の槍捌きには及ばぬ」
豊久は照れくさそうに笑った。
「それを言うなら、祐兵殿の知略には誰も敵いませぬ」
「互いに得手不得手があるということだな」
「だからこそ、こうして学び合えるのですな」
雨音を聞きながら、二人は何局も将棋を指した。
外は冷たい雨だったが、館の中は温かな空気に包まれていた。
「そういえば」
豊久が駒を並べ直しながら言った。
「祐兵殿は結婚の予定はないのですか?」
「急に何を言う」
祐兵が少し顔を赤くした。
「いや、良き妻を持てば、もっと落ち着いた日々が送れるのではと」
「豊久殿こそ、島津家の若君なら縁談も多かろう」
「それが...私は戦場の方が落ち着くもので」
「それは私も同じだ」
二人は顔を見合わせて笑った。
雨の日の午後、二人の武士の穏やかな時間は続いていく。




