第二十七話 囲炉裏の語らい
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。あの作品で有名。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
山の端に白い霧が立ちこめ
夜の冷気が飫肥の町を包んでいた。
伊東祐兵は屋敷の囲炉裏に薪をくべ
ぱちりと弾ける音を聞いていた。
「おお、これは見事な火のぬくもり!」
島津豊久が手を擦りながら現れる。
「外はすっかり冬の気配ですな」
「風が強い夜は、火を眺めて過ごすに限る」
祐兵が湯を沸かし、茶を注ぐ。
湯気がゆらりと昇り、二人の影を柔らかく包んだ。
外の寒さとは対照的に
囲炉裏の周りは穏やかな空気に満ちていた。
「祐兵殿、囲炉裏というのは不思議なものですな」
「ほう?」
「火を囲めば、心まで温かくなる。戦の陣営でも、火を囲んだ夜だけは穏やかでした」
祐兵は微笑んだ。
「人の心は、火と似ておる。手をかざせば温かく、近づきすぎれば焼ける」
「なるほど、深いお言葉ですな」
豊久は茶をすすり、頷く。
「だが、こうして共に囲めば、怖くはない」
「まったくその通りだ」
薪がはぜる音が、まるで笑い声のように響いた。
静かな夜に、二人の語らいが灯となって続いた。
やがて祐兵が、囲炉裏の隅に置かれた鉄鍋の蓋を取った。
中には、茸と野菜が煮えた温かな汁が湯気を立てていた。
「おお! これは山の幸ですな!」
「先日の茸狩りの成果だ。味わってみるがよい」
「熱っ…うまい!」
豊久は汁をすすり、目を丸くした。
「この味、まるで秋の名残が溶けておりますぞ」
祐兵も笑う。
「自然の恵みは、季節の記憶そのものだ」
二人は鍋を囲みながら、言葉少なに秋を惜しんだ。
囲炉裏の火が、ゆっくりと夜を照らし続けた。
湯気の向こう、火は小さくなり
炭が赤々と残っていた。
「祐兵殿、こうして過ごす夜こそ、贅沢というものですな」
「ああ。何も持たずとも、語らいがあれば心は満たされる」
外では木枯らしが吹き、屋根に枯葉が舞う。
「いつか雪が降る日も、この囲炉裏で待とう」
「ええ、その時は酒を温めておきますぞ」
二人は笑い合い、火を見つめた。
やがて夜は深まり、虫の声も遠のいていく。
囲炉裏の残り火が
二人の絆のように静かに輝いていた。




