第二十五話 里山の茸狩り
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。あの作品で有名。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
朝の空気が澄み渡り
飫肥の山々は紅や黄に染まっていた。
伊東祐兵は竹籠を手にしていた。
「今日は茸狩りか、楽しそうですな!」
島津豊久が背負籠を背に駆け寄る。
「たまには山の恵みを味わうのも良いだろう。食卓に秋の香りを添える」
「では、誰が多く見つけるか勝負ですな!」
祐兵は苦笑しながら頷いた。
「豊久殿、山を相手に戦を挑むとは、さすがだ」
二人は朝露の残る小道を踏みしめ、山へと分け入った。
山道には落ち葉が敷かれ
足元からかすかな湿り気が伝わってくる。
「このあたりは茸が多いと聞く」
祐兵が木の根元を探ると、笠の大きな茸が顔を出した。
「見つけましたぞ!」
豊久が叫ぶ。
手には小さな橙色の茸が数本。
「それは食えるのか?」
「わかりません!」
「わからぬまま籠に入れるでない」
二人は笑いながら競うように山を歩いた。
鳥の声、風の音、そして落ち葉を踏む音が
まるで秋の楽のように響いていた。
しばらくして、豊久が倒木の影に見慣れぬ茸を見つけた。
「祐兵殿、これなどどうです?」
「ふむ……形は良いが、色が派手すぎるな」
祐兵は懐から古い『本草集』を取り出し、頁をめくった。
「これは毒茸だな。触るな」
「ひぃ、危ないところでした!」
「見た目に惑わされるのは、世も茸も同じことだ」
豊久は感心したように頷いた。
「祐兵殿、やはり学問は武に勝る力ですな」
「いや、両方あってこそ人は強くなれるのだ」
秋風が二人の袖を揺らした。
日が傾くころ、二人の籠は茸でいっぱいになっていた。
「これだけあれば、今夜はご馳走ですな!」
「だが念のため、料理番にも確かめてもらおう」
城下へ戻ると、炭火の上で香ばしい匂いが立ちのぼる。
焼き茸、汁物、味噌和え――秋の恵みが膳を彩った。
「山の香りがしますな」
豊久が満足げに言う。
「自然の力をいただく。これもまた学びだ」
祐兵が微笑んだ。
夜風が吹き抜け、縁側の虫の声が響く。
秋の夜、二人の笑い声が静かに灯の中に溶けていった。




