第二十四話 秋夜の月見
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。あの作品で有名。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
秋風が涼しく、虫の声が遠くから響いていた。
伊東祐兵は庭に几帳を立て
月見の支度をしていた。
「祐兵殿、今宵は見事な月でございますな!」
島津豊久が酒瓶を抱えて現れる。
「まるで鏡のようだ。心が澄む」
庭の池に映る月は静かに揺れ
すすきが銀に光っていた。
「さて、祐兵殿。今日は飲み比べと参りましょう!」
「まったく、風流なのか無粋なのか分からぬな」
それでも祐兵は笑って盃を受け取った。
月明かりの下、二人は杯を交わした。
「この月を見ると、どこか懐かしい気がしますな」
「昔、飫肥を離れていた頃も、同じ月を見たものだ」
祐兵の声には、わずかな寂しさが混じる。
「我らは戦も越え、今こうして同じ空を仰げる。それだけで十分ですぞ」
豊久の言葉に祐兵は頷いた。
「そうだな。月は変わらぬが、人の心は成長する」
「その言葉、覚えておきます」
盃に映る月が、ゆらりと揺れた。
ふと、近くの子供たちが月見団子を手に庭に現れた。
「お侍さま、どうぞ一つ!」
「ほう、これは見事な出来だな」
祐兵が微笑む。
「では、一緒に月を見ましょう!」
子供たちは草の上に座り、空を指さす。
「うさぎが餅をついてる!」
「本当にそう見えるな」
豊久も笑った。
その時、風が吹き、すすきが揺れる。
月は雲間から顔を出し
まるで二人と子供たちを見守るように輝いていた。
「祐兵殿、今宵の月は、まるで我らの平穏を祝しているようですな」
「ああ。争いのない夜に、こうして笑えることが何よりの幸せだ」
豊久は団子を一つ口にし
「甘いな」と微笑む。
「秋の夜は静かで、心が澄む。まるでこの月のように」
祐兵は杯を傾け、柔らかく笑った。
「来年もまた、この月の下で」
「ええ、必ず」
満ちゆく月が空高く昇り
飫肥の町を銀色に照らした。
その光は、二人の友情を静かに包み込んでいた。




