第二十三話 稲刈り見物
秋も深まり、黄金色の稲穂が風に揺れていた。
伊東祐兵は城下の田を歩きながら、その景色に目を細めた。
「祐兵殿、見事な実りですな!」
島津豊久が笑う。
農民たちが鎌を手に、手際よく稲を刈っている。
「これほど豊かに実るとは、今年は良い年だ」
「祐兵殿のおかげです。民も喜んでおりますぞ」
豊久の言葉に、祐兵は静かに頷いた。
風が稲を渡り、まるで大海原のように波打っていた。
農民の一人が二人に気づき、慌てて頭を下げた。
「殿、お見苦しいところを…」
「いや、よい。お前たちの働きに感謝している」
祐兵は穏やかに言い、豊久も笑顔で頷く。
その時、子供たちが藁で作った人形を見せに来た。
「見てください!豊作の守り神です!」
「おお、上手にできているな」
豊久がしゃがみ込み、子供の頭を撫でた。
「祐兵殿、こういう工夫は心が和みますな」
「うむ。民の暮らしには、知恵と祈りが息づいている」
しばらく見物していると
一人の若者が足を滑らせて稲束を落とした。
「おっと!」
豊久が素早く駆け寄り、支えてやる。
「大丈夫か?」
「は、はい!ありがとうございます!」
泥まみれになりながらも笑う若者に
祐兵は手拭いを差し出した。
「働く者の手は、何より尊い。恥じることはない」
豊久が感心して言う。
「祐兵殿の言葉は、まるで師の教えのようですな」
祐兵は苦笑いした。
「学びは、こうした日常の中にあるのだ」
夕陽が田を赤く染め、稲束が整然と並んでいた。
農民たちは今日の仕事を終え、笑顔で家路につく。
「豊久殿、今日の稲刈りは見事であったな」
「ああ。民の力こそ、国の礎ですな」
二人は夕焼けを背に歩き出した。
「来年もまた、この実りを見たいものだ」
「ええ、そして共に祝いましょう」
風が二人の袴を揺らし
遠くから刈り終えた稲の香りが漂ってくる。
静かな秋の田に
豊かなる日向の恵みが広がっていた。




