第二十二話 落ち葉焚きの午後
秋の風が吹き抜け
飫肥の庭には紅葉が舞っていた。
伊東祐兵は竹箒を手に
静かに落ち葉を集めていた。
「祐兵殿、何をなされているのです?」
島津豊久が現れた。
「見ての通り、落ち葉焚きの準備だ。冬を迎える前の大切な仕事でな」
「私も手伝わせてください!」
豊久は興味津々の様子で薪を見つめ、笑顔で申し出た。
二人の秋の午後が、ゆるやかに始まった。
祐兵は火打石を取り出し、慎重に火をつけた。
ぱち、ぱち、と乾いた音とともに炎が葉を包む。
「おお…暖かい!」
豊久が手をかざす。
「無駄なように見えて、落ち葉もまた土に還る。自然とは循環の理よ」
「なるほど、武士の道も同じですな。倒れても、志は誰かが継ぐ」
祐兵は思わず笑った。
「豊久殿、詩人のようなことを言うではないか」
焚き火の煙が秋の空へと昇り、金色の光が二人を包んだ。
しばらくすると、近所の子供たちが集まってきた。
「お侍さま、焼き芋をしてもいいですか!」
豊久が嬉しそうに答える。
「もちろんだ!」
芋が灰の中で焼けていく香ばしい匂いが漂う。
「祐兵殿、これは立派な秋の陣ですな!」
「戦ではなく、平和の陣だな」
焼けた芋を割ると湯気が立ちのぼる。
「熱っ…しかし甘い!」
豊久の顔がほころび
子供たちの笑い声が庭いっぱいに広がった。
夕暮れ、焚き火が静かに小さくなっていく。
「祐兵殿、今日も良い日でしたな」
「ああ。こうして季節を感じられるのは、何よりの幸せだ」
「では、また来年も落ち葉焚きを」
「約束しよう」
火の名残が赤く地を照らし、空には一番星が瞬いた。
風に乗って、焼き芋の香りが遠くまで流れていく。
秋の終わりを惜しむように
二人は並んで炎を見つめ続けた。




