第二十話 秋の市場
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。あの作品で有名。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
市場へ行くと
秋野菜がずらりと並んでいた。
「おお、何でも揃っていますな」
豊久が目を輝かせた。
「ああ。秋は収穫の季節だ。城下の農民たちが一生懸命に育てたのだ」
祐兵は大根を手に取った。
「この大根は立派だ」
「そうですね。あ、栗も売ってます!」
豊久が指を差した。
「そうか。昨日拾った栗も良いが、市場のものも見てみるか」
二人は市場を巡った。
柿、栗、さつまいも、米...秋の味覚が勢ぞろいしている。
「祐兵殿、これは何ですか?」
豊久が珍しい野菜を指した。
「これは...銀杏か」
祐兵が首をかしげた。
「食べるには少し早いか」
商人が声をかけた。
「銀杏ですよ。今月末に熟れます。いかがですか?」
「では、来月に」
祐兵が答えた。
「あっ!」
豊久が突然、声を上げた。
「どうした?」
「栗の屋台で子供たちが喧嘩をしています!」
確認すると、二人の子供が栗をめぐって言い争っていた。
「あ、ほら、栗が転がった」
一つの栗が豊久の足元に転がってきた。
豊久は拾ってその子供に返した。
「ほら、これだ」
子供たちが喧嘩を止めて、豊久を見た。
「ありがとうございます!」
「なあ栗屋、この子たちにいくつか栗を売ってやらないか?」
豊久が銭を出した。
栗屋の顔が綻んだ。
「ありがとうございます、若君!」
子供たちが大喜びしている。
祐兵が豊久に笑いかけた。
「随分と太っ腹だな」
「いや、子供たちが喜ぶのは良いことでしょう」
豊久が照れくさそうだ。
帰る時、豊久は野菜や栗をたくさん買っていた。
「これは何に使うのだ?」
祐兵が聞いた。
「料理番に手伝ってもらって、何か作ってみようと思って」
「お前、本当に料理が好きになったな」
「ええ。祐兵殿のおかげです」
豊久が笑った。
その夜、豊久は料理番と一緒に秋野菜の煮込みを作った。
「こうすると、味が出てくるのですな」
豊久が感心している。
「そうですね。野菜も、時間をかけると柔らかくなります」
二人は夜通し準備をして
翌日の昼に豊久は祐兵を招いた。
「何だ、こんなに?」
「秋野菜を使った煮込みです。どうぞ」
祐兵が一口食べた。
「おお、美味い」
「本当ですか?」
豊久が嬉しそうだ。
「ああ。豊久殿も、こうして様々なことができるようになったな」
「祐兵殿のおかげです。色々な経験をさせてくれて」
二人は秋の夕暮れの中、煮込みを食べるとその平和の味を噛みしめた。




