第十九話 栗拾い
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。あの作品で有名。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
秋晴れのある日
祐兵と豊久は城下の山へ出かけていた。
「祐兵殿、本当に栗が拾えるのですか?」
豊久が周りをきょろきょろ見回っている。
「ああ。この季節、栗の木には実がなっている。昨日、太郎殿から聞いた」
二人は歩いていると、足の下で「ガサッ」と音がした。
「おや?」
祐兵が足元を見ると
茶色い栗のイガが落ちていた。
「これか!」
豊久が拾い上げた。
「気をつけよ。棘が鋭い」
豊久が少し指を切った。
「いたっ」
「ほら」
祐兵が笑った。
周りを見ると、栗のイガがあちこちに落ちている。
二人は夢中になって拾い始めた。
「祐兵殿、ここにもあります!」
「そこにも!」
しばらくして、二人の籠は栗でいっぱいになった。
「こんなに拾えるんですね」
豊久が満足そうに言った。
「ああ。自然とは豊かなものだな」
その時、シロが何かを掘り始めた。
「シロ、何をしている?」
シロが掘った先には
さらに大きな栗のイガがあった。
「おお、シロも手伝っているな」
豊久が笑った。
帰り道、豊久が栗を転がしながら遊んでいた。
「祐兵殿、これをどうするのですか?」
「そうだな...焼いて食べるのが良い」
「焼く?」
「ああ。炭火で少し焼くと、香ばしくなるのだ」
帰宅後、二人は栗を焼き始めた。
「熱い、熱い!」
豊久が軍手をはめて栗をいじっている。
「気をつけろ。爆ぜることもある」
案の定、一つの栗が「ぱんっ」と爆ぜた。
「うわあ!」
豊久が飛び跳ねた。
「何をしている」
祐兵が笑った。
「怖いです!」
「大丈夫だ。慣れたら平気になる」
しばらくして、焼けた栗の香りが立ち上った。
「いい香りですな」
豊久が鼻を寄せた。
「そろそろ食べ頃だ」
二人は焼けた栗を皿に並べた。
「では、いただきます」
豊久が一つ割ると、中はほくほくだった。
「あ、熱い!」
豊久は栗を口に入れて
必死に吸い込んだり吐き出したりしている。
「何をしている」
祐兵が吹き出した。
「だって、熱いんですもの!」
祐兵も栗を食べた。
「確かに熱いが、美味い」
二人は黙々と栗を食べた。
シロも栗を一つもらった。
「シロも食べるか!」
豊久が微笑んだ。
夕方、二人は栗を食べ尽くしていた。
「楽しい一日でしたな」
豊久が言った。
「ああ。秋は食べ物が豊かだ」
「来年も来ましょう」
「ああ、約束だ」
秋栗の心地よい香りが、三人の心を満たしていた。




