第二話 市場での騒動
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。あの作品で有名。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
「祐兵殿、市場へ参りませんか?」
ある朝、豊久が突然訪ねてきた。
「市場?武士が市へ何用だ」
「いやいや、たまには城下の様子を見るのも大事かと。それに、面白いものが手に入るかもしれませぬ」
祐兵は少し考えてから頷いた。
「確かに、民の暮らしを知ることも領主の務めか。行こう」
二人は簡素な着物に着替え、城下の市場へと向かった。
市場は活気に満ちていた。
魚売りの声、野菜を売る農民の掛け声
子供たちの笑い声が混じり合っている。
「おお、良い匂いだ!」豊久が饅頭の屋台に駆け寄った。
「豊久殿、あまりはしゃぐと怪しまれるぞ」
「構いませぬ!この饅頭、一つ買いましょう」
豊久が銭を出そうとした時、突然子供の悲鳴が聞こえた。
「泥棒だ!私の財布を!」
若い娘が叫んでいる。男が人込みの中を走り去ろうとしていた。
「待て!」
豊久が反射的に飛び出した。
だが市場は人で混雑しており、追いかけるのは容易ではない。
その時、祐兵が冷静に別の路地へと走った。
市場の構造を瞬時に把握し、泥棒の逃げ道を先回りしたのだ。
「むっ!」
泥棒が路地に飛び込んだ瞬間
祐兵が前に立ちはだかった。
「これ以上は行かせぬ」
「くそっ!」
泥棒が刀を抜こうとした瞬間、後ろから豊久が追いついた。
「観念せよ!」
泥棒は両側を挟まれ、諦めて財布を投げ出した。
「助かりました!」
娘が駆け寄ってきた。
「お侍さま、ありがとうございます」
「いや、当然のことをしただけだ」
祐兵は財布を返した。
「しかし祐兵殿、見事な先回りでしたな」
豊久が感心して言った。
「豊久殿の突進も悪くなかった。ただ、もう少し周りを見る余裕があれば完璧だったな」
「うぐ...また説教ですか」
市場の人々が二人に礼を言い
饅頭屋の主人が饅頭を差し出した。
「これはお礼でございます。どうぞ」
「これはありがたい」
豊久が嬉しそうに受け取った。
帰り道、二人は饅頭を食べながら歩いた。
「市場に来て良かったですな」
豊久が満足そうに言った。
「ああ、民の暮らしを見ることができた。それに...」
祐兵も微笑んだ。
「饅頭も美味い」
「祐兵殿も結構、甘いものがお好きなのですな」
「黙って食え」
秋の陽射しの中、二人の笑い声が響いた。




