第十六話 門番との友情
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。あの作品で有名。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
ある朝、祐兵が館の門を出ると
いつもの門番が辛そうに急に咳き込んでいた。
「どうした?」
「申し訳ございません。少し風邪を...」
門番の顔は青ざめていた。
「医者に診てもらったか?」
「いえ、少しの風邪ですので...」
祐兵は眉をひそめた。
「無理をするな。今日は中に入って休んでいろ。すぐに医者を呼ぶ」
「しかし、門番の職が...」
「構わぬ。豊久殿もいる。私たち二人で何とかする」
門番はその厚意に涙ぐんだ。
「ありがとうございます...」
その日、祐兵と豊久は門番の仕事を引き継いだ。
「祐兵殿、門番とは具体的に何をする役割なのですか?」
「来客の確認と、報告だ。あとは、見張りだな」
「なるほど」
午前中は比較的静かだったが、昼前に商人が現れた。
「祐兵殿、あの人物は?」
豊久が囁く。
「知らぬ。確認を取ろう」
祐兵は商人に尋ねた。
「商いの品を売りに参った。毎年この季節に訪れるのですが...」
「そうか。では中へ」
午後になると、村の者たちが様々な用件で訪ねてきた。
「こんなに忙しいのですか」
豊久が驚いた。
「ああ。門番は見えない裏方の仕事だ。大切な役割だ」
夕方、医者が門番を診察した。
「軽い風邪ですな。三日ほど休めば治ります」
「そう聞いて安心した」
祐兵が言った。
翌日、門番は まだ回復していなかった。
「今日もまた祐兵殿と豊久殿に...」
「心配するな。治るまで休め」
二日目、豊久がシロを門番のところへ連れてきた。
「シロに付き添ってもらいましょう」
門番は嬉しそうにシロを撫でた。
「良い犬ですな」
三日目の夕方、門番が立ち上がった。
「回復いたしました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「いや、問題ない」
祐兵が笑った。
「おかげで門番の大変さが分かった」
「本当に、ありがとうございました」
門番が深く頭を下げた。
「門番殿の名は?」
豊久が聞いた。
「太郎と申します」
「太郎殿か。また何か困ったことがあれば、遠慮なく言うてくれ」
太郎の目が心から優しく笑った。
「かしこまりました」
その後、祐兵と豊久は時々、太郎と茶を飲むようになった。
太郎は長年この地にいるため
城下の歴史や人々のことをよく知っていた。
「実は、伊東家と島津家が今のように穏やかな関係になったのは、若君たちのおかげだと思っています」
太郎が言った。
「そんなことはない」
祐兵が首を振った。
「いや、本当です。若君たちが仲良くしておられるのを見て、城下の者たちも安心しました。『こんな時代が来たのか』と」
豊久が顔を赤くした。
「太郎殿、ありがとうございます」
「こちらこそ、親切にしていただき、ありがとうございます」
三人は穏やかな時間を過ごした。
飫肥の城門を、風が心地よさそうに吹いていた。




