第十五話 秋の狩猟
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。あの作品で有名。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
秋が一層深まり
野山は紅葉に染まる季節になった。
「祐兵殿、今年も狩猟に出かけませんか?」
豊久が朝早く訪ねてきた。
肩には弓を担ぎ、狩装束に身を包んでいる。
「狩猟か。良いな。最近、籠もりすぎていた」
祐兵も狩装束に着替え、二人は山へ向かった。
馬を歩ませ、紅葉に包まれた山道を進む。
空気は冷たく、澄んでいた。
「良い天気だ」
豊久が気持ち良さそうに深呼吸した。
「ああ。こういう日は、政務のことも忘れられる」
突然、草の茂みが動いた。
鹿だ。
豊久が反射的に弓を構える。
矢がきれいに弧を描き、見事に的を射た。
「良い腕だ」
「祐兵殿も撃ってみてください」
祐兵も弓を引く。
矢は素早く飛び、別の鹿を射止めた。
「うぬ。互角だな」
豊久が笑った。
「昔より気持ちが良い。狩りは計算ばかりではなく、直感も必要だ」
「その点では、祐兵殿はいつも頭で考えすぎる」
豊久が冗談めかして言った。
「お前こそ、いつも勢いで動く」
二人は獲物を収め、山頂へ向かった。
そこから眺める日向の国は、紅葉に彩られ、美しく見えた。
「平和だな」豊久がぽつりと言った。
「ああ。だからこそ守らねばならぬ」
二人は弁当を広げ、山頂で昼食を取った。
「そういえば」
豊久が頬張りながら言った。
「前から思っていたのですが、祐兵殿はいつ領主としての妻をお迎えになるのですか?」
「また その話か」
祐兵が少し困った顔をした。
「いや、そろそろ良い頃だと思いますし。親戚の者たちも心配しておるでしょう」
「...縁談の話は来ている。だが、決めかねている」
「何か条件があるのですか?」
祐兵は、遠くの山々を眺めてから答えた。
「この平和が続く人を選びたい。武ばかりではなく、民のことを思い、学問も愛する人が良い」
「それは難しい条件だ」
豊久が笑った。
「だから決めかねているのだ」
帰り道、二人は月が上がるまで山で過ごし
その美しさを眺めていた。




