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第百三十八話 冬路並びて
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
朝の空気は澄み、吐く息が白くほどける。
伊東祐兵と島津豊久は
言葉少なに門を出た。
目的はない。
ただ、歩く。
石畳は夜露でわずかに湿り
足音が静かに響く。
「冷えますな」
豊久が肩を回す。
「歩けば、温まる」
祐兵は歩幅を変えない。
町外れの小道へ出る。
枯れ草が風に揺れ
遠くの山は淡く霞む。
川辺に差しかかると
水面が冬の光を弾いていた。
豊久は立ち止まり、川を覗く。
「凍りはしませぬな」
「流れているからだ」
祐兵は答える。
「止まれば、凍る」
しばし、二人は並んで水を眺める。
言葉は続かないが、沈黙は重くない。
足元では、小春と黒猫が先を行き
時折振り返る。
豊久が小さく笑う。
「導かれておりますな」
「歩く道は、自分で決めるのが基本」
祐兵は前を向く。
「だが、隣がいるのは悪くない」
冬の陽が高くなり
影が短くなる。
特別な出来事はない。
ただ、並んで歩いた時間だけが残る。
二人はまた足を揃え
静かな町へ戻っていった。




