第百三十四話 焚き火の赤
冬の夕暮れ。
屋敷の庭先に、小さな焚き火が揺れていた。
乾いた薪が、ぱちりと音を立てる。
赤い火が、静かに夜を押し返している。
伊東祐兵は膝を折り、火の具合を見ていた。
島津豊久は、拾い集めた枝をくべる。
「今年の冬は、よく冷えますな」
「冷えるほど、火のありがたみが分かる」
炎がゆらぎ、二人の顔を橙に染める。
息は白く、夜気は鋭い。
しばし、無言。
遠くで犬が吠え
どこかの家の戸が閉まる音がした。
「戦場の火とは、違いますな」
豊久がぽつりと言う。
「戦の火は、奪うための火だ」
祐兵は薪を動かす。
「これは、守るための火だ」
火の中で炭が崩れ、赤く砕けた。
豊久は、しばらく炎を見つめていた。
やがて、小さく笑う。
「こうしていると、余計なことを考えずに済みます」
「生きていると、考えねばならぬこともある」
祐兵の声は静かだが、重い。
だが次の瞬間、その表情は柔らぐ。
「だが今は、火を見ていればよい」
豊久は頷いた。
庭の隅では、小春が丸くなり
少し離れて黒猫も尾を巻いている。
火のぬくもりは、獣にも人にも等しく届く。
ぱちり。
また薪が弾ける。
空には冬星が瞬きはじめていた。
二人は肩を並べ
言葉少なに、炎を見つめ続ける。
赤い火は揺れながら
それでも消えず、静かに燃えていた。




