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祐兵さんと豊久くん ――日向の空の下で――  作者: Gさん


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第十二話 書庫の整理

陽気が心地よい午後


祐兵(すけたか)は書庫の整理を始めていた。


「これは...もう十年も前の書状か」


古い巻物を広げながら、祐兵は懐かしそうに目を細めた。


「祐兵殿、おられますか?」


豊久(とよひさ)の声が聞こえた。


「書庫だ」


「おお、こんなところに」


豊久が顔を出した。


「何をされているので?」


「書庫の整理だ。長年放っておいたものが溜まってしまってな」


豊久は書庫を見回した。


床には巻物や書籍が山積みになっている。


「これは...大変な量ですな」


「一人でやるには時間がかかりそうだ」


祐兵がため息をついた。


「では、手伝いましょう!」


「良いのか?退屈な作業だぞ」


「構いません。それに、祐兵殿の蔵書を見られるのは興味深い」


二人は書物を分類し始めた。


兵法書、歴史書、詩集、手紙類...


「おや、これは」


豊久が一冊の本を手に取った。


「『太平記』ではありませんか」


「ああ、若い頃に何度も読んだ。楠木正成の知略に憧れたものだ」


「私も読みました!あの桜井の別れの場面は...」


豊久が目を潤ませた。


「豊久殿、泣いているのか?」


「い、いえ!埃が目に入っただけです」


祐兵は笑いながら次の書物を手に取った。


「これは...誰かの日記か?」


豊久が古びた冊子を見つけた。


「ああ、それは私の祖父の日記だ。戦での経験が記されている」


二人は並んで日記を読み始めた。


「『今日も敵と対峙した。だが、戦うよりも、帰りを待つ家族のことを思う』...」


豊久が読み上げた。


「祐兵殿の祖父君も、優しい方だったのですな」


「戦を知る者ほど、平和を願うものだ」


しばらく作業を続けていると、豊久が妙なものを見つけた。


「祐兵殿、これは何です?」


それは子供の頃の祐兵が描いたらしい、拙い絵だった。


「あ...それは」


祐兵の顔が赤くなった。


「幼い頃の落書きだ。捨てるつもりだったが...」


「いやいや、良い絵ではありませんか!この馬は...馬ですよね?」


「...それは猫のつもりだったのだが」


豊久は噴き出した。


「ははは!これは傑作だ」


「笑うな!」


「いえ、微笑ましいと思っただけです。祐兵殿にもこんな時代があったのですな」


祐兵も苦笑いした。


「誰にでも子供の頃はあるさ」


日が傾き始める頃、書庫はだいぶ片付いていた。


「良い仕事でしたな」


豊久が満足そうに背伸びをした。


「豊久殿のおかげだ。一人では何日もかかっただろう」


「いえいえ。それに、色々な本を見られて楽しかった」


二人は縁側で茶を飲みながら、夕焼けを眺めた。


「本というのは不思議なものですな」


豊久が言った。


「昔の人の思いが、こうして今も残っている」


「そうだな。我らの言葉も、いつか誰かが読むかもしれぬ」


「では、後世の者のために、何か残しましょうか」


「何を残すのだ?」


「そうですな...『伊東祐兵と島津豊久、仲良く暮らす』とか」


「...それは日記というより、覚え書きだな」


二人は笑い合った。


西日が二人を優しく照らしている。

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