第十話 迷い犬
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。あの作品で有名。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
朝の散歩中、二人は小さな犬を見つけた。
「おや?」
道端で、白い子犬が震えていた。
「怪我をしているようですな」
豊久が屈んで見る。
「足を痛めているようだ。どこかの家の犬だろうか」
子犬は怯えた目で二人を見上げている。
「祐兵殿、このままでは可哀想です。連れて帰りましょう」
「そうだな」
豊久が優しく子犬を抱き上げた。
子犬は最初は身を固くしていたが
豊久の温かさを感じて少し落ち着いた。
館に戻り、二人は子犬の手当てをした。
「水も飲ませないとな」
「餌は何が良いでしょう?」
「魚の身を細かくしたものなら食べられるだろう」
二人は協力して子犬の世話をした。
手当てが終わると、子犬は安心したように眠り始めた。
「可愛いですな」
豊久が優しく撫でる。
「ああ。しかし、飼い主を探さねば」
「そうですね...」
翌日、二人は城下で飼い主を探した。
だが、誰もこの犬を知らないようだった。
「もしかして、捨てられたのでは?」
豊久が悲しそうに言った。
「...かもしれぬな」
「では、私たちで飼いましょう!」
「豊久殿、犬を飼うのは責任を伴う」
「分かっています。でも、この子を放っておけません」
祐兵は豊久の真剣な目を見て、頷いた。
「では、交代で世話をしよう」
「はい!」
犬は「シロ」と名付けられた。
シロは日に日に元気になり、二人によく懐いた。
ある日、シロが豊久の槍の稽古を見ていた時
急に吠え始めた。
「どうした、シロ?」
シロは草むらに向かって吠えている。
豊久が確認すると、大きな蛇がいた。
「危ない!」
豊久が槍でさっと追い払った。
「シロ、お前が知らせてくれたのか。賢いな」
シロは誇らしげに尾を振った。
別の日、祐兵が書物を読んでいると
シロが膝の上に乗ってきた。
「おや、邪魔をするのか」
だが、シロの温かさが心地よく
祐兵は笑って撫でた。
「お前も家族だな」
シロは嬉しそうに祐兵の手を舐めた。
夕方、三人(二人と一匹)で散歩をする姿が
城下の日常となった。
「良い犬に育ちましたな」
豊久が言った。
「ああ。豊久殿が拾ってくれたおかげだ」
「二人で育てたのです」
シロは二人の間を楽しそうに走り回っている。
夕焼けの中、二人と一匹の影が長く伸びていた。




