大学生、幼馴染の妊娠
「奈々、また飲んでないの?最近、付き合い悪いなぁ」
大学のカフェテリアで、友達の美咲が奈々美のグラスを覗き込みながら言った。奈々美は苦笑いして、目の前のオレンジジュースを一口飲む。
「ごめんごめん、なんか最近、調子悪くってさ」
「えー、大丈夫?あんまり無理しないでよ」
心配そうに眉をひそめる美咲に、奈々美は曖昧に頷いた。美咲は知らない。美咲だけじゃない、まだ誰にも話していない。自分の体の中で起こりつつある、大きな変化を。
あれは、大学に入学してすぐの頃だった。新しい環境、新しい出会い。
彼氏の健太とは、サークルの新歓で知り合った。一目惚れ、というわけではなかったが、話しているうちに彼の優しさに惹かれていくと、あっという間に男女の関係になり、恋人同士としての日々が始まった。
奈々美の体に異変を感じ始めたのは、大学二年になったばかりの頃だ。
生理がこない、体がだるいし何となく食欲も落ちている。まさかと頭をよぎる思いを打ち消すように、奈々美は日常を装っていた。
そんなある日、幼馴染の雅也と飲みに行くことになった。
雅也とは幼稚園からの付き合いで家族ぐるみで仲が良く、気兼ねなく話せる数少ない存在だ。居酒屋に入りいつものようにビールを頼もうとした雅也に続き、奈々美はソフトドリンクを頼んだ。
「お、奈々が酒飲まないなんて珍しいじゃん。どうした?ダイエット?」
「うん、ちょっと。今日はいいや……」
雅也は訝しげな顔で見ると、奈々美は一言だけ答えた。奈々美は雅也の目が自分のお腹に一瞬だけ向けられた気がしたが、気のせいだと言い聞かせた。でも、雅也の表情にはどこか複雑な色が浮かんでいて、もしかしてと彼も思ったのかもしれない。幼馴染とはいえ、女の子の扱いについては雅也もわかっているだろう。
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春休みに入った頃、奈々美は意を決して検査薬を使った。
震える手でそれを握りしめ、しばらく立ち尽くした。信じられないが、確かな命が自分のお腹の中に宿っている。そういう行為をした結果なのだ。
事実を話した時、彼氏の健太は一瞬戸惑った顔を見せたものの、すぐに笑顔を見せ、一緒に育てようというその言葉に奈々美は安堵した。
しかし、雅也にこの事実を話すのは、奈々美にとって少し躊躇われた。
雅也と健太も共通の友人でもあり、互いに良く知っている。だからこそ余計にどう伝えるべきか悩んだのだ。
安定期に入り、お腹は少しずつ膨らんできた。まだ中期だし大学にも通っている。仲の良い友達には少しずつ妊娠の事実を打ち明けたのだが、当然ながらみんな驚いていた。
「お昼どうする?あとね、その前にちょっと報告があるんだけど」
「えー?報告って何?嬉しい系?もしかして、結婚?」
「うーん、半分正解かな。実はね、家族が増えるんだ」
「家族?まさか、奈々のお母さんが妊娠したとか?いや、違うか……え、もしかして、赤ちゃん?!」
「正解!実は今、ここに……お腹に赤ちゃんがいるの」
「うわー、本当に?やばい、鳥肌立った!おめでとう!ちょっと待って、頭が追いつかない!いつ頃?性別は?」
「生まれるのはまだ先だけどね。それから、性別はまだわかんないんだよね」
「でも、おめでとう!てか、健太との子でいいんだよね?」
「そうだよ。健太も喜んでくれてたし、安心したよ」
意外にも温かい言葉をかけてくれる仲間ばかりで嬉しかった。
中には見下したりする人もいると考えていた奈々美は、良い仲間に恵まれているのだと実感した。
でも、雅也にだけは、まだきちんと話せていない。
いつ、どうやって話せばいいのか、奈々美にはわからず悩み続けていたのだ。
小さい頃から一番近い存在だったのに、今では伝えにくい存在になってしまった雅也はどんな顔をするのだろうと、なぜか不安に感じていた。
健太との間にできた子どもだと知って、どんな反応をするだろう。
そんなことを考えていると、奈々美の心はいつも重くなった。
雅也は奈々美にとって、ただの幼馴染以上の存在だったことから、どこか裏切ってしまったような気持ちだったのかもしれない。
それでも、妊娠を打ち明けた際の雅也は、まるで自分の妹か弟が出来るかのような、喜びの反応を見せたのだった。
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