表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

そうだ、ゲームを買おう

作者: 六時六郎

 中学生にとって1万円は大金だ。

 夏休み、あまり行きたくない母親の実家へ行ってあまり仲の良くない親戚達に愛想を振りまき、その対価としてお小遣いを貰った。

 計2万円。

 その内半分の1万円は親に奪われ、もう半分の1万円が自分の取り分となった。


 1万円で何を買うか。小学生低学年の頃なら戦隊モノのフィギュアを買っただろう。高学年の頃ならボードゲームを買ったかもしれない。


 今は違う。中学1年生の僕にとって最も欲しいものはテレビゲームだ。


 母親の実家から帰った翌日、僕は自転車を走らせて町のゲーム屋へ行く。善は急げだ。8月初旬を過ぎ夏休みも残り半分をきっている。今日ゲームを買って、残りの休みはゲーム三昧で過ごす。それが僕の一番の望みだ。


 駐輪場に自転車をとめ汗をぬぐいながらゲーム屋に入店すると、冷房で汗がさっと乾いて気持ちの良い人工の風が肌を撫でる。真夏の太陽よりもさらに眩しい店内の照明に照らされつつ目当ての陳列棚へ歩を進める。

 いつもは中古コーナーで2世代前のゲームカセットを漁っているけれど、今日は違う。中古コーナーを通り過ぎ、携帯ゲームコーナーを通り過ぎ、僕が向かったのは据え置きゲームの新作コーナーである。

 携帯ゲームも面白いけれど、がっつりゲームを楽しみたい時はやはり据え置きに限る。それに、我が家の携帯ゲーム機は2世代古いゲームキッズカラーしかないけれど、テレビでプレイする据え置きゲーム機は最新のプレイスターション2がある。

 プレスタ2はまだ世に出て数年しか経っていない。だからプレスタ2でプレイ出来るゲームはまだ中古品が少なくて値段も高かったけれど、今の僕には1万円がある。

 親戚にこびへつらってこしらえた1万円…2万円の内の半分は親に取られたけれど、1万円は大きい。

 僕はポケットに手を突っ込んでそこにある財布をぎゅっと握り締めながら、目の前の棚と正対した。

 プレスタ2の新作ゲームコーナー。僕が待ちに待った場所だ。


 僕の身長より少し低い4段の棚には薄い単行本サイズのプラスチックケースがずらりと並んでいて、その背表紙部分には大きい文字と大体統一されたフォントでタイトルが書かれている。単行本と違うのは、それがプラスチックケースでありその中には説明書とDVDROMが入っていることだ。

 僕は本も好きだ。好きだけれど、ゲームはもっと好きだ。ゲームはたった1枚のDVDROMに過ぎないが、その薄いフリスビーの中には、無限とも思える世界が広がっているから。

 棚の前に立ち、ケース背表紙のタイトルを眺めているだけでお腹一杯になる。CMで何度も見た話題作や、何万本も売り上げたビッグタイトル、プレスタ1からあるシリーズの続編、まだまだ僕のプレイしたことのないゲームが並んでいる。

 その中で、僕は事前に決めていた購入候補の3作品を棚から取り出した。

 トラコンクエスト8、モンスターバスター2、ドラゴンホールスパンキングの3作品だ。


 トラコンクエスト8、通称トラクエ8は20年前から続いているRPGの最新作だ。僕はトラクエシリーズはトラクエ5しかプレイしたことがないけれど、5は面白かった。ただ僕自身、RPGがやや苦手なので、少し悩む。値段は4980円。

 モンスターバスター2、通称モンバー2はモンスターを倒すアクションゲームだ。従来のアクションゲームと違い巨大な敵と対峙するのが特徴で、前作のモンバー1は僕も楽しく遊んだ。ただ前作は難易度が高く最後までクリアできなかったから、今回同じ徹を踏まないか心配ではある。値段は5980円。

 ドラゴンホールスパンキング、通称スパキンは、人気漫画ドラコンホールの格闘アクションゲーム。ドラコンホールは少し前の漫画だけど僕は好きで、漫画の人気キャラが使えるというだけでワクワクする。しかしスパキンはこれまでのドラゴンホールのゲームとはちょっと操作感が違うらしく、面白いかどうかはわからない。値段は5550円。

 値段はどれも5000円近く、二つ同時に買うことは出来ない。

 僕はパッケージを見る。どれも格好いい。トラクエは有名漫画家がキャラデザをしているから表紙に描かれたバンダナ?をしている主人公も個性豊かな勇者パーティらしき一行も格好いい。モンバー2は表紙に1体のドラゴンが書かれている。パッケージ全体を覆う巨大なドラゴンだ。このドラゴンがゲームの中で暴れ回りそれを倒すところを想像するだけで胸がときめく。スパキンの表紙にはドラゴンホールのキャラクター達が必殺技を放つ様が描かれている。随分前の漫画だけれど未だに愛されている要因はやはり魅力的なキャラクターにあるのだろう。その格好いいキャラクターを操り必殺技を放つことが出来るなんて、夢のようである。


 ゲームは結局プレイしてみないと、面白いかどうか分からない。事前に、家のパソコンでそれぞれのゲームのホームページを見て情報を集めたけれど、それで分かるのはどんな「感じか」だけなのだ。実際プレイしたらどうなんだろう。それを想像しながらゲームの情報を集めるのは楽しいけれど、実際にプレイしてゲームを楽しめるかどうか、その本当のところは分からない。

 しかしお試しプレイなんて出来ないし、また1万円の元手ではやり直しがきかない。中学1年生の夏休み後半が面白いかどうかは、この、今の選択にかかっている。


 僕は3作品のプラスチックケースを眺め回す。パッケージを見て、裏表紙に書かれているゲームの説明を読み込んで。

 たっぷり5分は悩んだ後、一つに決めた。

 僕は自分を勇気付けるようにゆっくりと頷いた。そして残りの二作品を棚に戻そうとしたところで。

「少年、やめておきなさい」

 背後から声をかけられた。


 僕は両手に3本のゲームを持ったまま振り返った。

 僕のすぐ後ろに、青年が腕を組んで立っていた。

 黒のワイドパンツに紺色の半袖シャツを着た、20代程度の青年。身長は180センチほどだろうか、足がすらっと長く僕より一回り以上背が高い。組んだ腕は色白で肉が薄く、痩せ型だ。頬もやや窪みがあり尖った顎が特徴的。顔全体のパーツが整っているわけではなく、また黒く厚いフレームの眼鏡をかけていることもあって決して美形とはいえなかったが、背の高さもあり小顔に見えて、全体の印象は悪くない。


「ごめんね突然声をかけてしまって。ただ、若い子が誤った選択をしないようにと思ってね」


 やや高い声で彼は言った。

 僕は知らない人に声をかけられた経験が少なく、どうしたらいいか分からない。

 何も話さない僕を見かねて、彼は優しい声音を作ってさらに続けた。


「きみ、それを買おうとしていただろう」


 彼が僕の右手を指差す。僕は右手にゲームを1本持っていた。モンスターバスター2。

 僕は手に持ったモンバー2と目の前の彼を交互に見る。


「これ、買っちゃ駄目なんですか」


 彼は首を振った。


「駄目というわけではないが、お勧めはしないな」


 彼はモンバー2を買うのがお気に召さないらしい。

 しかし、僕にとって目の前の彼が何者なのか分からないし、言うことを聞く義理もない。


「なぜですか?

 そもそも、あなたは誰なんですか。知り合いじゃない…ですよね」


「ああ、俺は通りすがりのゲーム好きさ。君とは正真正銘の初対面だよ。

 ただ、アドバイスをしようと思ってね。迷惑だったかい?」


 迷惑だったかと訊かれれば大いに迷惑ではあった。しかし面と向かって迷惑ですと突き放す勇気はなかった。


「俺はモンスターバスター2をすでにクリアした」


 その言葉に、僕は初めて目の前の男に興味を持った。もし彼の言葉が本当ならば、参考になるかもしれない。すでにプレイした人物の意見ならば聞く意味はある。


「そして、君が持つもう2つのソフト。トラコンクエスト8とドラゴンホールスパンキングもすでにプレイして、クリアまでは到達している」


 僕は素直に驚いた。どちらも発売から2ヶ月も経過していない。

 少なくとも僕よりは、彼の方がゲームに詳しいのかもしれない。もっとも、彼の言葉が嘘でないならば、だが。


「上上下下」


 試す気持ちで僕が言うと。


「左右左右BA」


 と間髪いれずに男が返した。これは通称コナムコマンド。ゲーム会社コナムのゲームでよく使われる、隠しコマンドである。

 その返しで僕は男を信じることにした。




「なんでお兄さんはモンバー2をお勧めしないの」


「それはね…少し長くなるけど、いいかい」


 僕は頷いた。


「なら話そう。モンスターバスター2、通称モンバー2。前作モンバー1から続くシリーズタイトル2作目だ。プレイヤーはモンスターを倒す狩猟者になり、過酷な自然を生きながら大型モンスターを倒して武器や装備を強くしていく狩猟アクションゲーム。前作も大ボリュームだったが、今作はさらにボリューミーな一作だ。

 きみは前作をプレイしたかい?」


 僕はまた頷いた。


「それは素晴らしい。ならその面白さも分かっているね。リアルで広大なフィールドを駆け回る解放感。大型モンスターと対峙する熱いアクション。倒したモンスターからアイテムを剥ぎ取って自身を強化していく育成要素。そのどれもが面白く、また規格外だ。そこには従来のゲームにはないセンスオブワンダーとも呼ぶべき感動が備わっているし、またこれからのゲームに影響を与えていく予感すら覚える。広大な3Dフィールドで大型モンスターを倒すアクションゲームはこれからも増えていくだろう。その中で、このモンバーシリーズはそれら未来の傑作の記念碑的作品として語り継がれるだけでなく、最高に面白いシリーズとして今後も続いていくと確信させる。そんな風格すら漂っているしすでに携帯ゲーム機で次回作を出す予定もある。それだけスケールの大きいシリーズということだ」


 既に次回作の計画があるのか。それは知らなかった。


「俺もプレイしてみて、最高に面白かった。今までプレイしたゲームの中でもトップクラスの面白さだ。既にプレイ時間は数百時間に上るが、ある種のゲーマーなら千時間やっても飽きないだろうね。本当に凄いゲームだよ。

 しかしきみにはお勧めできない」


「だから、それはなぜですか」


「ふむ。きみは今、どのゲームを買おうか悩んでいる。候補はトラクエ8とスパキンとモンバー2だね。つまり君はその3作品をプレイしたことがない。つまり発売日には買えなかったということだ。

 ということは、君はゲーマーやゲームオタクというわけではないね。ゲームが好きな子というだけだ。気を悪くしないで欲しいんだが」


 ゲーマーと見られる方が嫌なのでむしろ嬉しいくらいだ。


「そして容姿を見るに、君はまだ中学生くらいだろう。また、発売日に買えなかったという点から、お金持ちの子供でもない。

 ならばきっと、きみの家にはオンラインプレイの環境がないだろう?」


 男の指摘は図星だった。

 オンラインプレイとは、ネットを通して複数人のプレイヤーで同時に同じゲームをプレイすることだ。プレスタ2にはオンライン機能があるけれど、オンラインプレイするには回線の契約と、専用の機器が必要となってしまう。もし無線で繋げる機能なんかがあれば楽だけれど、オンラインといえば一家に一台のパソコンが精々のこのご時世では夢の話だ。

 そして、モンバー2にはオンラインプレイ要素がある。それは僕も知っていた。


「モンバー1もオンラインプレイが可能だが、モンバー2でもオンラインプレイが出来る。

 問題はその比重なんだ。正直に言って、モンバー2はオンライン機能がないと充分に楽しむことは出来ない」


「それは知っています。でも、モンバー1は楽しめました」


 男は首を振った。


「モンバー2はオンライン機能がないと出来ないことがとても多い。手に入る武器、挑戦できるクエスト、戦えるモンスター。オンラインでは出来ることが、オフラインでは制限されすぎているんだ。

 …しかも難易度もかなり高い。

 きみはモンバー1をプレイしたと言っていたね。難しかったかい?」


「はい…その、まだクリアできていません」


 僕は言い渋りながらも本当のことを言った。


「恥ずかしがることはない。モンバー1も難しいからね。

 しかしモンバー2も負けず劣らずといったところさ。特に雑魚敵が強力でね」


 雑魚敵。強力な敵は大体ドラゴンだが、雑魚敵と言えば…


「虫とか、ゴリラとか?」


「そう、虫、ゴリラ、ヤドカリ、恐竜ら雑魚敵が妙に強いんだよ。

 楽しくないだろう?大型モンスターを倒すのが醍醐味のゲームで小型モンスターに苦労するのは馬鹿馬鹿しいしストレスが溜まる」


 確かに男の言う通り、大型モンスターを狩るのは楽しいがその他の敵に苦労するのは勘弁してほしい。モンバー1でも大敵との戦いは楽しいのにその他の部分が苦痛で投げ出したのだ。


「雑魚敵を強くすることで単なるアクションではなく狩猟生活をするという側面を強調したかったのかもしれないね。

 しかし完全に裏目だよ。大型モンスターを倒すのがモンバーの面白いポイントなのに、それが出来ないなんて。

 特に序盤が難しくてね。大型モンスター討伐クエストにたどり着く前に投げ出す人も多いと聞く。

 だから、君のようなライトなプレイヤーにはあまり向かないと思うんだ。オンラインプレイも出来ないしね」


 僕は彼の言い分に納得した。元々、高難易度は懸念材料の一つだったからだ。オンラインプレイが出来ない点もマイナスだろう。

 ただそれらを考慮してもなお、僕はモンバー2を買いたいと思ったのだけれど。


「その点、トラクエ8はいいね」


 僕の気持ちに気付かないまま、男は僕の持つもう一つのソフトを指差していった。


「トラクエシリーズは日本を代表する、いや、RPGを代表するシリーズだよ。ライトなゲームファンは勿論、ゲーマーも夢中にさせる確かな面白さがある。君は、トラクエシリーズをプレイしたことがあるかな?」


「僕は5をやったことがあります」


 男は感心するように唸った。


「5はいいね。シリーズ屈指の名作だ。幼少期から青年になり、子供の親となるまで描くストーリー。まさにRPGの王道だよ。どう?君はビアンナとフローアどっちを選んだの」


 ビアンナとフローアとは、トラクエ5のヒロインで、主人公は二人のヒロインのうちどちらかと結婚することになる。それを選択するのは勿論プレイヤーだ。どちらを選んでも大まかなストーリーは変わらないのだがその描き方が上手く、トラクエ5の名物シーンとなっている。未だに「ビアンナ派かフローア派か」はゲーム好きの間で話題となるくらいだ。


「ビアンナです。何回やっても」


 僕は胸を張って言った。


「偉いね、俺も昔はビアンナ派だった。幼馴染のビアンナか、ぽっと出お嬢様のフローアか。フローアを選ぶ人はあまりいないよね。俺はフローア派なんだけど」


 聞き捨てならない。下手したら殴り合いである。


「まあそれは置いといて」


 僕の殺気を察知したのか男はさらりと話題を変えた。


「トラクエ8はストーリーだけなら5に劣るかもしれない。勿論好みにもよるが、5の方が好きという人が多いだろう。

 しかしそれは問題ではないんだ。トラクエ最大の魅力はストーリーじゃない。ゲームのプレイしやすさなんだ。

 今や2000年代も後半になり、RPGはかなりの数が出た。戦闘システムもキャラの成長システムも多くの種類があって千差万別だ。その中で、トラクエは極めてオールドスタイルといっていいだろう。昔ながらのコマンド式戦闘。キャラの成長もレベルアップと装備品の変更くらいだ。もっと複雑で、もっと奥深いシステムのRPGはたくさんある。

 でも、トラクエはこれでいいんだよ。とにかく分かりやすいんだ。どの技を出せば強いのか、どう成長させればいいのか、とても分かりやすい。それはシステムが旧型だから分かりやすいというのもあるけれど、やはりUI、所謂ユーザーインターフェイスが良く出来ているね。画面が見やすくて情報が伝わりやすいんだよ。

 だから快適にプレイできる。当たり前のようだけど、これはゲームにおいて最も重要なポイントの一つだよ。

 僕が考えるに、これはテストプレイの積み重ねの結果だと思うんだ。

 ところで、君はトラクエ5をプレイしたんだったね。フオーン戦は苦労しただろう?」


 フオーンはトラクエ5に登場する中ボスだ。物語中盤、幼馴染のビアンナと再会して伝説の装備品を集める過程で遭遇する確率が高い。


「何度かゲームオーバーになりました。勝てたときは嬉しかったな」


 僕の答えに、男は満足そうだった。


「そうだろう。フオーン戦は苦労する人が多い。でも他のゲームの難敵と違って、ネガティブなイメージを持つ人はそれほど多くない。

 勝てそうで勝てない難易度になっているからさ。

 何とかなりそうでゲームオーバーになってしまう。あるいはパーティがぼろぼろになりながらも何とか勝てる。それくらいの難易度に調整されているんだ。

 これは中々難しいよ。内部の数字を弄れるクリエーターからすれば難易度調整なんて簡単と思うかもしれないが、大多数のプレイヤーを『勝てる勝てないの瀬戸際でヤキモキさせる』なんて計算や感覚でできることじゃない。実際にテストプレイを繰り返して、細かい調整をかけていく。その努力が実った結晶なんだよ。トラコンクエストシリーズは。

 プレイヤーは快適にゲームを進行しつつ、分かりやすく深みのあるストーリーを味わいながら、絶妙に調整された難易度に四苦八苦する。ゲームに熱中させる技術においてトラクエシリーズを超えるシリーズ物はないだろうね。そして今回のトラクエ8もまた、良い意味で従来通りのトラクエとなっている。自信を持ってお勧めするよ」


 僕は左手に持つトラクエ8のパッケージを見た。トラクエ5は面白かった。それと同じくらいトラクエ8が面白いというのなら、ぜひともプレイしてみたかった。


「もう一つはスパキンだったね。これはドラゴンホールのキャラゲーだ。君は、ドラゴンホールが好きなんだね」


 無論大好きだ。


「ならこれも大いにお勧めだ。

 ドラゴンホールは昔の人気漫画だけあって、これまでにもたくさんのゲームが出ているね。全てをプレイしたわけではないけど、比較的当たりが多い気がするな。バトル漫画だから2D格闘ゲームが多くて、同じプレスタ2で発売された2D格ゲーのシリーズは特に面白いよね。シリーズが進むにつれてシステムが洗練されていって、大量のスキルからどれを装備するか選んぶのも楽しいし原作再現の必殺技がたくさんあって驚いたよ。あと携帯ゲーム機ではカードゲームのシリーズ作品が出ていたけど、意外と駆け引きがシビアで面白かったな。

 でも今回のスパキンは別格だと思うよ。もし今後もこの方向性のシリーズが続くなら、ドラゴンホールを代表するゲームシリーズになるはずだ。

 ところで、君はドラゴンホールの何が好きなの?」


 ドラゴンホールは名作漫画だ。好きなところはたくさんあるが。


「バトルが、かっこいいところ」


 我ながら子供っぽい言い方になってしまったが本心だった。


「うん。ドラゴンホールのバトル、格好いいよね。キャラクターが空を飛んで、激しく格闘を繰り返し、必殺光線を打ち合う。実に漫画的で、爽快だ。

 その爽快さを完璧にゲームに落とし込んだのがこのスパキンなんだよ。

 今までの2D格闘ゲームも面白かったけれど、ドラゴンボールらしさでいえばどう考えてもスパキンに軍配が上がるね。

 3D視点でフィールドを自在に飛び回り、相手の放った光線技にを華麗に避けて逆に必殺技を発射する。近接戦闘では激しい殴り合いをしながら、互いに背後を取り合ったり蹴り飛ばした相手を追尾してさらなるコンボに繋げたり。とにかくドラゴンホールらしい戦闘が出来るんだ。原作ファンなら絶対に満足できるよ。

 また、キャラクターや技も豊富だ。原作は長期連載作だからキャラクターも多いけれど、スパキンでは100体を超えるキャラをプレイアブルキャラとして使える。技も豊富で、各キャラの代表的な技は網羅しているといって構わないだろう。

 またストーリーモードも悪くない。原作の長いストーリーをほとんど余すことなく追体験できるからボリュームも相当ある。アクションゲームとしてはやや甘い部分もあるし豊富な技の中には似たようなものも出てきてしまっているが、それはシリーズを重ねるうちに解消されるんじゃないかな。

 いずれにしても、最高に面白いアクションゲームで、君のような原作ファンには特にお勧めできるよ」


 僕は今だ手に持っているスパキンのパッケージを見た。面白そうだ。原作も好きだが最近読み返した記憶はないから、もしこのゲームを買えばストーリーを辿っていくだけでも楽しめるに違いない。


 僕は男から背を向けて、ゲームのパッケージが並べられた棚と正対した。

 そして左手に持った二作…トラクエ8とスパキンを棚に戻す。

 右手にモンバー2を持ったまま、また振り返って男を見た。

 彼はぽかんとしていた。


「君はモンスターバスター2を買うのかい?

 俺の言ったことが上手く伝わらなかったのかな」


 僕は、そんなことはないと否定した。


「お兄さんのアドバイスは分かりました。

 お兄さんは僕よりゲームに詳しいらしいし、この3作品を実際にプレイしている。だから、お兄さんの言った通りトラクエ8かスパキンを買うべきなんだろうと思います」


「だったら…」


「でも、僕は自分の選択したゲームをプレイしたいんです。

 つまらなくてもいいんです。自分で選択したゲームなら面白くなくても構いません」


 彼は諦めたように肩をすくめた。


「数千円を無駄にすることになるよ」


 そうかもしれない。それでも。


「思い出には、代えられませんよ」




 -数日後、僕はモンバー2を売った金でトラクエ8を買った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ