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第一章 迷い込んだ洗礼                第七話

 昨日の夜のことだった…………。

 

 風呂から上がり髪を乾かそうとしたが、家族共用のドライヤーが見つからず、妹専用のドライヤーを勝手に使い、それがバレて陽菜(ひな)に怒られた。

 兄の変なプライドで謝らず、ちょっと借りただけだろと言ってしまい、喧嘩になってしまった。


 翌朝、陽菜の機嫌はまだ悪く、口も聞かない。

 先に妹が家を出て、その後俺もすぐ学校へ向かう。

 通学に通る河川敷に行くと突然、女の子の悲鳴が聞こえた――。 


 悲鳴が聴こえた場所に行くと、そこには陽菜が地面に手をつき座りこんで何かを見ながら怯えている。

 陽菜の視線の方向を見ると俺は息を呑んだ……。

 

 妹の前方すぐ近くに空間がねじれたようなモノが空中に浮かんでいる。

 しかもソレはまわりを吸い込み始めた。

 近くにいた陽菜も吸い込まれていく。しかもその力は段々と強まっている。

 

 考えるより先に体が動いていた!

 俺は座り込んでいる妹の腕を掴み、引っ張る。


「お、お兄ちゃん!」


 妹は俺に気づき泣き叫ぶ。

 吸い込む力と俺の引っ張る力で陽菜の体が空中に浮かぶ。

 俺は地面に踏ん張り全力で引っ張る……。


 「ぐぐぐぐぐっ……」


 絶対に行かせない!!


 「うおおおおおおおおおっ!」

 

 力の限り引っ張った結果、なんとか陽菜の体を俺の後ろに投げれた。

 

 しかし、今度は俺の体が吸い込まれる……。

 力を使い果たした俺に踏ん張る余力はない。

 吸い込まれて行く時に陽菜の顔を見た。


「いろはお兄ちゃんーーーー!」


 泣き叫んでいる陽菜を見て俺はなぜか笑った。


 最後は兄らしいことが出来た……


 そして俺の体は完全に歪んだ空間に飲み込まれた。


 

 今頃になってようやく全部の記憶が戻った。

 頭の中にかかっていたモヤみたいなものが取れスッキリした所で、ベットで横になる。


 家族とあたり前のように過ごしていた日常を思い出し、胸が締めつけられる。

 寝転びながら窓の外に浮かぶ丸いモノを見上げ。


「こっちにも月はあるんだな……赤いけど……」


 しばらく赤い月を眺めていたが、次第に意識を失うかのように眠りについた……。




 ―――深夜―――


 月明かりが木々の隙間からわずかに差し込むが、森は深い闇に包まれている。

 

 暗がりの森の中を歩く一人の女の騎士がいる。

 その女騎士は、何かに気づいたのか、ある大木の前で歩みを止めた。


 その大木の少し離れた場所には黒く焼けた魔獣の骸が転がっている。

 だが、彼女が興味を示したのは魔獣の死骸ではなく、大木に刺さった一本の矢であった。

 もし、ただの的外れな一射が木に刺さっていたのであれば、彼女は気にも留めなかったであろう。 

 不思議に思ったのは木の幹に刺さった矢の部分。矢尻(先)ではなく矢筈(やはず)(後)であったからだ。つまり反対だったのだ。


 よく見ると刺さっているというより、誰かが幹の窪みに無理やりねじり込んだようである。

 

 突き出た尖った部分を鋭い目つきで確認し、女騎士は少し考えてから、急に不機嫌そうな表情になり舌打ちした。


「どうやら、(われ)が余計な邪魔をしたようだ……」

 

 彼女は理解したのだ。

 

 おそらくコイツは木の幹に矢の後の部分をねじり込み、気づかれないよう脇にでも矢を挟んで隠し、木を背にして魔獣と対峙した。

 魔獣は敵を一撃で仕留める為、首を狙う習性がある。飛びかかって来た所を寸前で(かわ)し、魔獣を串刺しにしようとしたのではないか……と。

 成功していたかどうかはわからないがな……。


 女騎士ディアドラは不敵な笑みを浮かべて言う。


()()め、とアイツに言ったのだが訂正しないとな」



()()()()()だ」


 

 ディアドラは今度は魔獣の死骸に視線を移した。

 

 「ブラックウルフの縄張りはここからだいぶ離れている。ここまで追ってくるとは……。各地で魔物が凶暴化していると報告もある……」


 ディアドラは深紅の瞳で赤い月を見ながら言う。


「やはり、異変が起きているな……」

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