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第一章 迷い込んだ洗礼              第二話

 木の根がせり出した荒れた地面や、体に当たる枝葉の中を全力で走っていたが、少しスピードを落として、祈るように後ろを振り返る。

 

 どうか、追って来ませんよーに


 その願いは虚しく、二本の角を振り立て猛然と迫ってくる獣。


 マジか――。このままじゃ追いつかれる!


 どうして追ってくる?

 アイツの縄張りに入っていたのか?


 考えながら走る中、前方の草陰にキラリと光るモノが見えた気がしたが、それと同時に足がもつれて転んでしまう。


「うっ……いてっっ……」


 四つん這いのまま、光った場所へと這い寄りそれを手に取ると、実物を見たことはないが俺にでも何かわかった。


 これは……矢だ。弓は見当たらないが映画とかで見たことがある。羽はなく所々傷んではいるが、矢尻(先)の方は尖っているので武器としてはまだ使えそうだ。


「ガァオオオオオオオッ!!」


 激しい叫び声と共に、二本角の獣は四つん這いになっている俺の首へと飛びかかってくる――。


「ぐあああああああああああっ……!」


 首を守ろうと咄嗟(とっさ)に出した左腕に噛みつかれ、

 痛みに堪えきれずに叫んだ。


 痛い、めちゃくちゃ痛い。


 「くそっ……」


 俺は震えるもう一方の手で、先程手にした矢を握りしめ、尖った部分を獣めがけて渾身(こんしん)の力で突き刺した……。


 突き刺した…………そう思ったが、手に握った矢は汗で滑り、うまく力が込められなかった。

 矢尻はかろうじて獣の肉を浅く(えぐ)る程度。


 それでも獣は衝撃と痛みで、噛みついていた俺の左腕を離し地面へと落ちた。


 荒い息を吐きながら俺は再び走り出す。


 なんだこれは!? 夢か?

 

 今まで生きてきて命の危険にさらされたことなど一度としてなかった。それが突然こんな……。

 信じ(がた)いが左腕の痛みが嫌でも現実なんだと思い知らされる。



「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」


 ここまで来れば大丈夫だろう。

 もう結構な距離を走った。縄張りに入り込んでいたのなら外に出たはず。

 それにアイツを攻撃して僅かとはいえ負傷させてやった。


 足を止め、汗だくになりながら息を整え、ようやく左腕の状態を確認する。

 噛まれた箇所は制服のおかげで皮膚の深くには達しておらず、痛みはあるものの血はあまり出ていないので大丈夫なようだ。


 ホッとしたが、念の為に後ろを見た。


「……………………」


 愕然として言葉も出なかった……。


 まだ距離はあるが、二本角の獣の姿があった。俺を見失ってはいるが、匂いを辿って向かって来ている感じだ。

 逃げきることは無理だ。犬並みの嗅覚だとしたら隠れても無駄だろう。

 右手に持った矢をじっと見つめ、ようやく実感が心に追いつく。


 

 アイツを倒さなければ俺が死ぬ――。


 

 それが覚悟なのか、開き直りなのかは自分でも分からないが、不思議と心が落ちついた。


 一つ大きく深呼吸をして、視線を周囲の木々に向け何かを探す。


「よし、あの木だ!」


 周りの木より一際(みき)が大きい木に近づき、少し調べて木を背中に向けて立ちながら息を潜める。

 自分の胸の鼓動が激しく鳴っているのを感じながら必死で息を殺す。


 

 ザッ……ザッ……ザッ……と地面を踏む音が近づいて来る。

 足音がする方向の茂みから姿を現した――。


 やはりアイツだ!


 二本角の獣は俺を発見出来た喜びで笑ったように見えた。

 一度刺されたせいか、警戒しながら5メートルぐらいまで距離を縮め、俺の正面に立つ。

 そして俺の手に武器がないことに気づく。


「ガァウウウウウウウゥ!!」  


 唸り声をあげいつものように飛びかかってきた――。


 一か八か…………。


 その瞬間信じられないことが目前(もくぜん)で起こった――。

 空中に飛んでいる獣に【火の玉】が命中した。

 二本角の獣の体は燃え上がり、悲鳴をあげることなく一瞬で黒焦げになって地面に落ち絶命した……。

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