五
正善が真壁の取り調べを行っている間― 暁の家で捜索が続いていた。
〝暁〟に容疑がかかったのはSDカードに付着していた指紋と過去のデータの中にあった〝奴〟の指紋が一致したからなのと、真壁が設置していたカメラのうち一台に当時四年生の担任をしていた奴が女子トイレに生徒が入った少し後、続いて入って行く様子が映っていた。一回ではない何度も。その生徒の中には伊口麗華もいた。
肝心の彼女はまだ見つかっていないが別の罪で引っ張れるであろう。さらに決定打となったのが奴の部屋の至る所からUSBメモリやSDカードがこれでもかと見つかり、そのほとんどに被害者含む女児の排泄や着替えを盗撮しているデータが見つかったからである。
これで奴は逮捕できる。しかし、伊口麗華が見つからない。
捜査員たちはもしかしたら地下があるのではないか。もしくは天井裏で縛られているのではないかなど、あらゆる可能性をくんで探している。
とうの奴はキッチンにある木の椅子に座らされ、一際がたいの良い刑事三人に囲まれ尋問を受けているが悪趣味なコレクションを触られる時に暴れて以来、黙ってずっとニコニコしている。
そんな中、居間を調べていた捜査員がある物を見つけた。被害者の衣服や靴、リュックサックである。
これらを見たある若手刑事が何を察したのか、ピタッと身体を止め、みるみる顔を青くしてゆく。すると、ゆっくりと一歩ずつ冷蔵庫に歩み寄る。辿り着くと、身をかがめ冷凍室を震える右手で恐る恐る開いた。
「……は…はっけん……発見しました」
そこにいたのは、身を丸くして押し込められた青白い伊口麗華だった。
「閉めろおぉぉぉぉっ! 彼女は裸だろおぉぉぉぉっ!」
そう叫び、奴がまた暴れ出した。
検視の結果― 死亡推定時刻はおよそ一週間前、死因は首を絞められたことによる窒息。
伊口麗華は我々が探し出す前から。
すでに殺されていた。
重い空気のなか、奴は事情聴取でいくつか質問に答えていく。
『なぜ伊口麗華さんを誘拐したのか』
「彼女と僕はよく似ていたからかっ彼女は僕に好意をよせていましたっ。でも一向に打ち明けられないでもいましたっ。だから僕からいってあげましたっ」
『その後、どうなったのか』
「恥ずかしいのか彼女はジタバタ暴れたんですっ。だから押さえてあげましたっ。でもどこを押さえても止まってくれませんっ。なので首を押さえましたっ。そしたらやっと受け入れてくれたんですっ」
『なぜ冷凍室で保管していたのか』
「彼女が暑そうにしていたのでっそれとっ保管ていう言い方はやめてくださいっ人に対しての物のような言い方は良くないですよっ」
『腐敗が進むのを食い止めるためではないと― 』
「彼女はっ! 肉片じゃないんだぞっ! ただの女じゃないんだぞっ!」
『いつから盗撮を始めていたのか。他にもSDカード、USBメモリ、または他のデータがあるのか』
「いやぁ〜お恥ずかしいっ。刑事さんだっていやらしいっ雑誌の一つや二つ持ってるでしょうっ。なのに人のを見るなんてっどうかしてますよっ」
『なぜ自らのSDカードを真壁のカメラに入れたのか。またはなぜそれを我々に見えるようにしたのか。(元のSDカードは部屋のゴミ箱から発見されている)』
「あの先生は職員室の空気をいつも乱していましたっ。きっとこれまでの人生で誰かに厳しくされたことがないんですっ。なので警察に行かせれば少しは価値観も変わると思って、 その機会をあたえてあげましたっ」
樹次の託けその三
『何を聞いても、何を見ても、何を感じても、それが事実だ』
作品を読んで頂きありがとうございます。
次回は来週の土曜日投稿予定です。