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翌日、捜査に戻った。山を降りるのにも相当苦労したため身体の動きがどうにもぎこちなくなってしまう。

まず、ジュンからの託けその一


『カメラとSDカードに容疑者以外の指紋が採取されていないか調べろ』である。


確かに失踪者の画像だけが入ったカメラを誰かに渡すわけでもない限り真壁以外の指紋が検出される訳がない。

すぐに署の鑑識課に聞きに行くと、熟練そうな男性が対応してくれた。


「カメラからは真壁の指紋しか出てこなかったが、中のSDカードからは奴の指紋ではなく何者かの指紋が出てきたぞ。おたくんとこの部長にそのこと伝えたが、他の教師が触った SDカードにわざとデータを入れて捜査を撹乱しようとしたんだと言って聞き入れてくれなかったんだがな」


お爺さんは顔にこそ出ていないが声は明らかに苛立っている。うちの部長は他の部署との連携をよく思わない節があるため、その下である僕たちがこうして部長の後処理をさせられることはよくあることだ。事件の真相を掴むためには仕方ないことではある。粛々と聞いていよう。


「でも、君が来てくれて良かったですよ。いま過去の指紋記録から探っているところですからね」


先程とは打って変わり紳士的で柔らかな口調になった。どうやら、この方は人を威かすのが好きらしい。

過去の指紋データから洗い出すのにはまだ時間がかかるそうなので、託けその二


『その女の子から詳しく話を聞きに行け』を遂行することにした。



小学校に着くと真壁の無実を訴えてきた女の子に真壁が犯人ではないと思う理由を、話してもらった。


「先生はね。ちゃんと先生をしてくれる」


「どういうことかな?」


「あのね、レイ……麗華ちゃんはね。私のせいでいじめられて― 」


どんどんと女の子の声が震え、目にも涙が少しずつ溜まる。

〝女の子〟の名は〝梨里〟。一年生の頃からいじめをうけ、長く辛い時間を過ごしてきた。そこから救い出してくれたのが三年生の二学期に転校してきた〝伊口麗華〟であった。だが、そこからいじめの標的は〝彼女〟になってしまう。

女の子は四年生の春に当時五年生の副担任として赴任してきた怖いと知られる真壁に『最後』の伝手で彼女を助けるよう求めた。


「私の目を真っ直ぐ見て、小さくなって、じっと優しい顔で聞いてくれて」


真壁に相談した二日後、女の子はいじめっ子のうちの一人と真壁が二人きりで三階にある空き教室に入って行くのを目撃する。期待など等にしておらず聞き耳を立てたりはしなかった。

ただエスカレートしてしまうのではと恐れて何が何でも休むべきだと彼女に忠告を入れるもそれを聞き入れてはもらえず、翌日を迎えてしまう。

驚いたことにその日からいじめとみられる行動は確認されなくなった。いつもなら彼女はいじめっ子たちから呼び出しを受けたり日常で陰湿な嫌がらせがあったが、それらが一切なくなったからだ。

この時、ピンときた。


「その真壁先生と一緒にいた子の名前を教えてくれるかな?」


女の子を落ち着かせて、そのいじめっ子に話を聞きに行くことにした。



「真壁先生とこの部屋で何を話していたのかな?」


女の子が言っていた空き教室で〝武琉〟〝少年〟に問うた。


「真壁先生は誘拐なんてしません!」


少年は俯きながら、両掌をぎゅっと絡めてそう言った。

驚いた。まさかその言葉をこの子からも聞くことになるとは。


「んーあのね少なくとも僕は……」


しまった失言になってしまう。変えよう。


「我々警察はまだ誰が犯人とか決めつけて聞き込みとか取り調べをしているつもりはないんだけどね」


「じゃあ、どうして……」


「もしかしたら何らかの形で手がかりになるかもしれないから」


すると少年はパァッと希望に満ちた顔を向け、両手を解いていた。


「伊口を見つけられるかも知れないんですか?」


どういうことだと思ったが話は聞けそうだ。


「聞かせてくれるね?」


少年の話では、家での鬱憤をいじめで発散するのが一年前までの自分の日常だったそうだ。梨里を標的にしたのは弟と同じ甘え上手で腹がたったから。麗華に移行したのは止めてきたのが癪に障ったからなのと好きだったらいじめてもいいと解釈していたから。

真壁に呼び出された日、少年は文字通り恐怖を植え付けられる。自分を入れた複数人が伊口麗華を寄ってたかっていじめている映像を見せつけられ、脅しを受けたからだ。


「あの時は本当に怖かった。下から真っ直ぐ俺を睨んできて締め付けられているみたいだった。でもー


後から少年が続けた言葉で真壁がしたことが脅しだけではないことが分かった。


「先生、俺が悪いことしたのにさっきとは明らかに優しくなって話を聞いてくれたんです。 今も時々聞いてくれるし、アドバイスもくれます。『君は自分の親を大人と思わないように』 とか『好きな子に嫌がらせで愛を伝えることができるのは漫画の世界だけです』……とか」


子供にするアドバイスかと思ったが、僕が思っている以上に子供の方がこの世を柔軟に見ることができるのだとすれば真壁の進言をこの少年が頼りにできるのも分かる気がする。

これで少年の話は終わった。

女の子と少年の話を聞いていて、いくつか思ったことがある。一つはどちらの話の中でも真壁が屈んでいたこと。『小さくなって』や『下から』という部分からそれがよく分かる。 対して目撃情報からは子供相手でも屈んでいない、そのまま立っていたことが『いま私たちが話している時みたいに向かい合って』という所から分かる。やはり〝彼〟が犯人の可能性は薄い。それともう一つは〝真壁〟は複数台カメラを設置していたのではないかということ。女の子に相談された後、二日という短期間でいじめの証拠を収めるのにカメラたった一台では心もとないか。ましてや自クラスの教室ではない。彼はいくつか検討をつける必要があった。ずる賢い子供達はどこでいじめをするのかを。

真壁の自宅に複数のカメラはなかったし、それらの居所を黙秘し続けている彼に聞いてみたところで無駄だろう。

だからいくつか予想を立ててあたってみることにした。消火器と壁の隙間や裏庭にあるアジサイの中、または図書室の奥にある埃を被った本棚に交じっていないか。至る所を探しに探し、見事に四つ発見した。



―小学校での調査を終え、着替えてから警察署へ戻り真壁の取り調べを交代してもらった。


「真壁先生、元々このカメラには何が入っていたんですか?」


そう言いながら袋に入っているカメラに人差し指をトンと置いた。


「……」


黙秘されてしまったが話を続けてゆく。


「実は武琉という子に話を聞いてきましてね」


その名を口にした時、彼の表情が一瞬こわばってから力が抜けていくように見えた。


「なぜ脅すという方法に?」


この問いに真壁はどちらが取り調べをしているのか分からなくなるほど僕を真っ直ぐ見て言ってきた。


「刑事さん、いじめが継続されるのはいじめっ子たちだけでそれらが行われているわけではないからです。周りの大人も間接的ではないにしろ加勢しているのです。なのでこうでもしなければあの子達は停止しないと思い、証拠を納めました。これを教師や親などに突き出したところでと思い、手っ取り早い子供に詰め寄りました」


「なぜそのことを我々に伝えてくれなかったのですか」


僕はそう問いた瞬間後悔した。そりゃ言った所で聞き入れてもらえるかわからない……と、遅れて思い至ってしまったからである。

しかし、彼は答えてくれた。


「麗華さん自身、いじめを必死に隠そうとしていました。私はそれに賛同できなかった。半端なことをしてしまった。こんな事態なのに、そのことを伊口さんに知られたくなくてこのような真似をしてしまいました」


聞き込みの際に感じた伊口麗華の印象は大人顔負けに賢くしっかりした少女である。実際に彼女はテストで良い点を取るだけでなく体育もそつなくこなし、いじめから他の子を守る。でも自分は助けを求めない。恐らく何かが彼女から助けを求めるという選択肢を遠ざけていたのではないか。僕が思うに真壁と同じような状態だったのではと考える。大人や周りに手を出してもらう筋合いはない。どうせ無駄だと幼いながらにもそう思わせる、気づかせるような出来事が少女にあったのかもしれない。

真壁は傷ついて帰ってきた少女に自分がさらに深手を負わせまいと恐れて話せなかったのだろう。


「他のカメラはそのままでした。なぜ回収しなかったのですか? 証拠は掴んだのに」


「その証拠を掴めたのがあのカメラ。一番最初に確認したのもあのカメラでした。またあの子達が始めていても、警戒して場所を変えられていても検討はつけて設置しているので」


つまるところ、いじめをめさせるのに必死だった彼は他のカメラに目を向けている暇がなかったのと、また相談があった時のために下手に場所をいじらず残していたということか。それにしても設置してからだいぶ経っていると思うが、もっともすでに電源も切れていたし、あの泥まみれ埃まみれの状態だ。まああんな人の手が容易に届かなそうな場所に設置してまた取るのは面倒というのもあったのだろう。

読んで頂きありがとうございます。

次回も速くて来週日曜日、遅くて再来週の日曜日になります。

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