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「実はさ、ジュンに頼みたいことがあってね」


正善は俺の顔色を伺いつつ話を切り出してきた。

少し考えたのち、答えを出した。


「……兄さんの頼みごと次第だな」


わざわざここまで来たのだ。よっぽど困っていることでもあるのだろう。


兄さんの頼みごとというのは―


今から一週間ほど前、都内に住む十一歳の少女、伊口いぐち麗華の行方不明者届が提出された。


失踪が判明したのは少女が珍しく塾の講習に遅刻していたため、講師が親へ連絡したところからである。


身長は百四十センチ前後、体型は細見、髪は黒色で短髪、服装は当時少女がよく着ていたとされるコーデ一式がクローゼットからなくなっていたためおそらく水色のポロシャツに黒色のジャンパースカート白色のスクールソックス、靴はこれもおそらく靴箱になかった通学の時と同じ白色のスニーカー、加えて塾用の紺色のリュックサック。これらの特徴と写真を基盤に捜索がなされた。


自宅周辺では、

『その子ならいつもここを通っていたわよ。その日はたしかー……お父さん? だったのかしら? あそこの公園で男の人と話してたわね。でも話した後、いつもとは逆の方向に一緒に歩いて行っちゃったから具合でも悪くなったのかと思ってついつい見ちゃったのよね』

『その時の様子? 別に普通だったかしら。いま私たちが話している時みたいに向かい合って話してたわよ』という証言が得られた。


その男の特徴は深緑のパーカーにデニムのズボン、顔は距離が遠かったのと木の陰に加え周りが暗くなっていたこともあり、よく見えなかったそうだ。


塾では特に成果は得られなかった。だが、皆口そろえて、

『伊口さんは頭が良かった』

『麗華ちゃんの家は厳しいみたいだった』

『大人びていた』であった。


少女が通っていた小学校の職員室で兄さんと上司の人が聞き込みをした。上司の人が、その時いなかった真壁という教員のデスク上に深緑のパーカーが綺麗に畳んで置いてあるのを発見した。さらにパーカーの下には一台のカメラがあった。中を見てみると、純白のシーツの上に俯せになっている失踪者とみられる写真のデータが発見された。


即座に真壁は身柄を拘束。家宅捜索がなされた。


―伊口麗華はいなかった。


それからというものの真壁は取り調べを今も受けている。


「でもね、僕は違うと思うんだよ。カメラを警察が来ても、まるで見せつけるようにデスクに深緑のパーカーと置いてあったり、目をつけられたときは少し戸惑っていたように見えたけれどね。それと、 ある女の子に、『先生は悪い人じゃないよ! 先生は悪いことしないもん!』と訴えられてしまってね。だからといって証拠が出てきてしまっては、どうしようもない。というわけでジュンに……」


兄さんは俺をおもむろにチラチラと見てきた。


「事実を見つけてほしい……と」

「そのとおり」

「けど俺は山を降りたくないし降りれない」

「構わないさ」


どうやら兄さんの持ってくる情報を基に捜査協力をしなければならないらしい。


「ずっと山奥にいる俺に頼まれても何かできるとは思えないし、兄さんも有給を使ってここに来るよりも地道に事実を見つけにいった方がいいんじゃないか。それに兄さんだったら俺に助け舟を出されなくても自力で何とかできるだろうし」

「僕さぁ……」


まずい、この語句がでてきてしまっては立ち向かえない。立ち向かったとしてもお得意の弁舌で丸め込まれる。こうなると逃げ場はない。必ず協力させられる。もちろん職場《警察》には内密に、でだ。


「分かった。協力する」


事情聴取は交代で行っていると聞いた。この兄さんの取り調べにも耐えているということは真壁が犯人の可能性は低いだろう。


「それじゃあ何か託けをくれないかな?」


刑事とは思えない言葉だ。しかもこいつはいまだに人の名前を覚えるのが苦手らしい。職場の話をされた時も、階級と特徴でしかほとんど人がでてこなかった。それでも人に好印象を持たれるほどの人たらしで頭が冴えている。尚更、俺の手助けなんざいらないと思うのだが


―仕方ない。いくつか質問をすることにした。


「カメラのデータはそれだけだったのか?」


兄さんはコクリと頷いた。


「ああ、それだけだよ。それ以外の運動会とかお楽しみ会とかの写真はおろか動画もなかったよ。その一つのデータだけ」


少し目を閉じた後に質問を続けた。


「これまでの話の中で防犯カメラが出てこなかったが、周辺になかったのか?」


これには横に首を振られた。


「いや、あるにはあったけど、犯人は恐らくカメラがある場所を把握していたんだと思う。だから目撃された公園にも少なからず設置してあったが不思議なほど映ってなかったよ」


また少し考えた。


「その真壁の無実を訴えてきた女の子は何歳くらいに見えた?」


兄さんは黒目を上に向けて思い出しながら答えてきた。


「うーん、たぶんだけど背丈的に被害者と同じくらいだったから―……」

「その小学校は学年ごとに何クラスあるんだ?」

「全学年一クラスずつだよ」


また目を閉じて今度は長めに考えた後に、

「うん」と頷いて三つ託けをくれてやった。

作品を読んで頂きありがとうございます。

次回は速くて来週日曜日、遅くて再来週の日曜日です。

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