二
午前八時○○分頃
「行ってきまーす」
「はい行ってらっしゃーい」
玄関で母親といつものやり取りをした後、麗華は茶色のランドセルを背負って家を出た。
五分後
交差点で近所の友達である梨里と合流。
「リリー! おはよう!」
元気よく挨拶をすると、
「レイン! おっはー!」
そう返してくれて、ツインテールの茶髪を揺らしてこっちへ向かってくる。
一緒に手を挙げて青信号になった横断歩道を渡った。喋りながら学校へ歩く。
五分後
校門に到着。
「おはようございます」
「おはようございまーす」
挨拶をした後、颯爽と学校の敷地内へ入ろうとした。その時、
「そこの二人、ちょっと待ちなさい」
声を掛けてきたのは今週の校門指導である真壁先生だ。所々に白髪が見える黒いくせっ毛に中年の男の人だがいつもいい匂いのする先生。
二人はピタリと立ち止まる。先生はジリジリと近づいてくる。
何か持ってきてはいけない物でも身に付けていたかと服を下目で必死に見るが特に問題はない。ランドセルも確認しようとした。
だが麗華の心配は大きく外れる。先生は梨里の前に屈み梨里の額に手を当て、
「熱があるから、保健室に行ってきなさい」
「大丈夫、大丈夫。ぜんっぜんっしんどくないし。ほら、すごく元気だよ」
そう言うと梨里はぴょんぴょんと飛び跳ねて見せた。
「いけません。他の子に移る可能性だってあるし何より無理をした結果悪化して通常の倍、 何週間も休まなければいけなくなりますよ」
先生の顔は眉がギュッと寄り口角は下にさがり、とても重い。
気圧されてしまい梨里は渋々保健室へ麗華付き添いの下、向かって行った。
十五分後
朝の会が始まる直前に教室のドアをガラガラと開けた。
「おっ真壁先生から聞いてるぞっ。付き添いに行ってたんだってっ、えらいなっ」
「はい」
出迎えてくれたのは担任の暁先生である。ワックスでふんわりと固めた明るい茶髪が印象的で青色のジャージを着ている二十代くらいの先生。
「それにしても珍しいなっ。いつも元気な佐野が保健室なんてっ様子はどうだったっ?」
「今のところ、熱はありますが元気そうです。でも念のために早退するそうです」
午前十二時二十分頃
今週は配膳当番である。
いつもなら梨里が自分の席にお盆を運んでくれるのだが、彼女が早退してしまった今どうしようと考えていた時、並び終えおかずや牛乳全てが揃ったお盆を持っている武琉が麗華の机にそっとそのお盆を置いた。
それを見た瞬間、目を大きく見開いて驚いた。
午後一時二十五分頃
トイレに行った後、他の子達はドッヂボールや縄跳び、折り紙をして遊んでいる。いつもなら梨里と図書室へ行くが、今日は運動場の隅にあるツツジの茂みに隠れて窓から職員室の中を覗いていた。
じっと真壁先生を見ていた。
午後三時三十五分頃
帰りの会が終わり下校しようと席を立った時、担任が話しかけてきた。
「ちょっと時間あるかなっ?」
「すいません。塾があるので」
「すぐ終わるからっ」
二人を残す、クラス全員が教室からいなくなった後、
「今日何もされなかったっ?」
「はい、特に何も」
今日も何もされなかった。違和感を感じる点はあったが。
「そうかっそれならよかったっ」
「じゃあ、塾があるので」
「そうだったなっじゃあまた明日っ」
「はい、さようなら」
「さようならっ」
午後三時四十五分頃
帰宅。
玄関の重いドアをガチャっと開ける。ガチャっと閉める。
「……」
両親はまだ仕事から帰っていない。
午後四時三十分頃
夕食を食べ終え、塾に行く準備をする。
十五分後
家を出る。
―これを最後に麗華は姿を消した。
こちらの作品を読んでいただき、誠にありがとうございます。
次回も来週月曜日投稿予定です。