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第8話 救われるものと救われないもの(前篇)

長編入ります。

まさかの連続更新ですが。

救われるものがいれば、救われないものもいる。

世の中はそういうシステムとして成り立っている。

しかし、そう頭で理解できても、心では理解したくない者がいる。

何故か?

それを正しいと思わないからだ。

真実がいつも正しいものとは限らない。

「……こういうのを哲学って言うのかしらね?」

「あん? いきなり何だ?」

晴樹は、何か古そうな本を閉じた深雪を見る。

「いえ、この本ってどういう本なのかな? って思ってたら、ね」

「ふうん……」

晴樹は、その本を手に取る。

しかし、すぐに手放す。

「どうしたのよ?」

「いや、よくこんな面倒くさい本を読む気になったな、って。ふわ~あ」

あくびをしながら晴樹は尋ねる。

「別に読みたくはないわよ。ただ、目に入ったから開けてみただけよ」

深雪はその本を手に取り、本棚へと戻す。

彼女の本棚には、魔法関連の本と、授業の参考書、少女マンガが入っている。

その中で、この本は異質な輝きを放っていた。

「まあいいや。で、お前はいつもの魔法特訓やってるか?」

「やってるわよ。やっと杖なしでも火の玉を作り出せるようにはなったわ」

「そうか。ふわ~あ……」

深雪は、晴樹の指示した杖なし魔法特訓を忠実にやっているようだった。

「じゃあそろそろ俺は帰るわ」

「ええ。ってところでアンタってどこで寝泊まりしてんの?」

「基本はホテル」

「は!? アンタまさか金持ち!?」

「お前ほどじゃない」

「私の家が金持ちなだけよ! 私のお小遣いなんて同級生とさほど変わんないわよ!」

深雪は、目を¥マークにして熱弁する。

年頃の女の子は、お金も欲しいらしい。

「ま、とりあえず特訓頑張ってくれよ。ふわ~あ」

晴樹はあくびをしながら深雪の部屋から出ていく。

「……そんなに眠いの?」

「昨日はちょっと……夜更かししたからな」

「へえ意外……アンタって普段何やって……」

「zzz……」

「寝るな!!」

深雪は晴樹を強引にたたき起し、家の玄関まで引っ張っていった。

「ほら、さっさと帰れ!」

「あー悪い悪い」

晴樹は眠そうにしながら、桜花園家から出ていった。

今晴樹に戦闘をしかけたら、深雪は勝ってしまうのではないかと思えるほどだ。

「もう……世話掛かるんだから……」

「の、割には嬉しそうよ~ん♪みゆみゆ~」

「きゃっ!」

そんな深雪に、背後から抱きついてきた人がいた。

まあ「みゆみゆ~」って呼んでいる時点で一人しかいないのだが。

「何言ってんのよ! 姉さん!」

深雪は、急いで姉を振りほどこうとする。

「ぜっらい話さないもんえ~」

「ちょっと姉さん! お酒臭い!」

「んふふふふ~!」

彼女の姉である深冬みふゆは、相当酔っ払ってるらしく、正気じゃないみたいだ。

……実際正気ではないのだが。

「もう! 酔いを覚ましなさい!」

深雪は、渾身の力で姉を地面へと放り投げた。

そして、その姉は頭から壁に刺さった。

「ふぎゃ!」

そしてそのまま力尽きた。

「もう……」

いつものことなので、深雪は彼女を引きずって、彼女の部屋へと運んだ。

この深冬という女性は、お酒が大好きで、必ずと言っていいほど酔っ払う。

そしてその後始末は常に深雪がやるのだ。

これはすでに日常となってしまっている。

「はぁ……」

なので、彼女が溜息を吐くのも無理もない。

こうして、彼女は一日を終えるために、シャワーを浴び、髪を乾かし、布団の中へと入ろうとした。

「にゃあ」

「……にゃあ?」

しかし、そのとき妙な鳴き声が彼女の耳に入って来た。

声質と、鳴き声の種類から察するに、猫であろう。

「にゃあ」

「……何で猫の声が聞こえるのよ……」

深雪はあたりを見回す。そして、窓の付近に月に照らされた猫のシルエットを見た。

「何でこんなところに子猫が……」

「にゃあ」

しかし、子猫は深雪に発見されると、急いで窓から離れ、地面へと降りた。

「にゃあ」

「……降りて来いってこと?」

深雪は少しだけ思案する。

そして一つの結論に達した。

「……ごめんね。明日、普通に学校があるの。だからもう寝ないと。遊び相手なら、他を探してくれる?」

「にゃあ……」

子猫は心なしかシュンとしてしまったようだ。

いや、子猫に人間の言葉が分かる訳がない。

と、それを気のせいだと思い込んだ深雪。

「(……ちょっと悪いことしちゃったかな?)」

子猫の鳴き声が聞こえなくなったところで、深雪は布団の中でそんなことを思った。

そしてその日、彼女は妙な夢を見た。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「ふあ~あ」

「どうしたの深雪? 眠そうじゃない」

翌日、照美はたまたま出会って一緒に登校した深雪にそんなことを聞いた。

「ちょっと寝不足かな? ふあ~あ……」

「あれ? 晴樹はどうしたの?」

照美がいつもいる筈の人がいないことに気が付いた。

「さあね~」

しかし、眠気に襲われている深雪は、そんなことにまで頭が回らなかった。

「……これは重傷ね。ん?」

そんなとき、照美は、視界の隅で何かをとらえた。

「にゃあ」

「猫?」

「え?」

猫の鳴き声に、深雪も何か気が付いたようだ。

「どうしたのかしら?」

「この子猫……」

その子猫は、深雪のことをジッと見つめていた。

「どうしたのよ深雪?」

「……照美は先に行ってて。私は用が出来たの!」

「え! ちょっと深雪!?」

深雪は、子猫のもとへと走っていってしまった。

「……深雪ってあんなに猫好きだったっけ?」

残された照美は、そんなことを呟いて学校へと向かった。

そして、深雪は子猫に話しかけた。

「どうしたの? また私に何か用?」

「にゃあ」

子猫はくるっと深雪に背を向けて走り出してしまった。

「あ、ちょっと!」

しかし、ある程度行ったところで子猫は深雪を振り返る。

この行動の意味することは、一つのみ。

「私に、付いてきてほしいの……?」

本当は今日、学校があるのだが、何故か深雪はこの子猫に"ついていかなきゃいけないような"気がした。

深雪は、学校を初めてサボる決意をして、子猫についていくことにした。

それからというものの、深雪は2,3時間子猫に付いて回る羽目になった。

「はぁはぁ……一体どこへ行くつもりなの?」

「にゃあ……」

さすがに歩き回ったせいか、子猫も疲れているようだ。

深雪はそんな子猫に溜息を吐いたが、すぐに立ち上がった。

「ミルクでも買ってくるから、少しだけここで待ってて」

深雪は、公園のベンチを指差すと、子猫に笑顔で一時の別れを言った。

疲れはしたものの、悪くはない気分だ。

深雪はそう思いながら近くのスーパーで500mLの牛乳と、自分の紅茶を買い、戻ることにした。

冷たい牛乳で大丈夫かな? とか、警察に見つかったらまずいかな? とか考えながら歩いていたら、公園から妙な声が聞こえてきた。

「……何か騒がしいわね」

深雪は、公園まで走っていった。

そして、そこで深雪が目にしたものは、妙な男たちがあの子猫を追いかけていたことだった。

「!」

子猫は、男たちから逃げ回り、そして深雪を発見すると、彼女の後ろに隠れた。

深雪は反射的に子猫を抱きかかえて、男たちを見つめる。

「あなたたち、何者?」

「その猫を返してもらおう」

サングラスをかけた見るからに怪しい男が一歩前に出て、彼女に手を差し出す。

「どうして?」

「それは我らの所有物だからな」

「所有物?」

その言葉に深雪は不快感を感じた。

猫を者扱いしたことに対しての、嫌悪感であった。

「そうだ。だから返してもらおう。痛い目に会いたくなければな」

「にゃあ……」

子猫が怯えたように身体を縮こませる。

深雪にとっては、それがサインであり、またそれだけで自分の意志を決定するのには充分であった。

「そうね……地の精霊よ!」

「あ、兄貴、こいつ魔術学院の制服着てますぜ!」

「何!? 魔法使いか!」

一人の男が深雪の正体に気が付くが、時はすでに遅かった。

「壁となりて、我を守護せよ! ウォール!」

「何ぃ!?」

深雪の目の前に巨大な岩の壁が出現し、男たちは一瞬だけ動きが止まった。

「今よ!」

深雪はその隙に逃げだすことに成功した。

「ちっ! お前はボスに報告だ! 後の奴らはあの小娘を追うぞ!」

この中でリーダーらしき、サングラスの男がそう言って、部下たちに命令を下した。

深雪は、そんなことは気にせず、とにかく逃げることにした。

「……風の精霊よ! 我に風を、杖に力を! レビテーション!」

深雪はそう言って杖に力を込めると、身体が浮いた。

これは、空中浮遊の魔法である。

しかし、これは相当な神経を使うものなので、長くは使えない。

とりあえず、こちらの方が速く移動できるため、これを使ったに過ぎない。

「(インビジブル(姿隠し)の魔法と併用できれば……)」

インビジブルはかなり上位な魔法なので、併用は難しい。

しかし、レビテーションと組み合わせることで、ほぼ完璧に逃走が出来る。

ワープ(瞬間移動)があればまた違ってくるが、ワープの場合は事前にワープポイントを作っておかなければいけないうえ、相当な魔力と体力を消費してしまう。

今の状況では、そんなことなど出来る筈もない。

なので、とりあえずはこれで急場を凌ぐことにする。

「後は……念話念話……晴樹? 晴樹?」

念話テレパシーを晴樹に使ってみるが、応答が無い。

いや、レビテーションに相当神経を使っているため、上手くいかないだけだ。

「くっ……」

彼女は一旦どこかのビルの屋上に降りた。

「晴樹……晴樹……! 何で通じないのよ~~~!」

残念ながら、どちらにせよテレパシーは通じなかったようだ。

何故かはわからないが。

「そこまでですよお嬢さん」

「!」

そんなとき、背後から突然優男そうな声が聞こえた。

「お嬢さん。痛い目に会いたくなかったら、早くその子猫ちゃんを渡してもらいましょうか」

「……火の精霊よ!」

「遅い!」

「え!?」

詠唱なしで優男は火の玉を私に放ってきた。

威力は低かったものの、深雪をひるませるには充分であった。

「はい、子猫ちゃん回収」

「あ!!」

いつの間にか優男の手によって子猫は奪われてしまっていた。

「にゃあ!!」

子猫は男の手の中で暴れるものの、男にがっちり掴まれているせいで、振りほどけない。

「返しなさい!」

「君の物でもないのにその言葉はおかしいんじゃないかな?」

「くっ……」

深雪は男を睨みつける。

「でも君には一応一度痛い目に遭ってもらわないとね。火の精霊よ」

男の周りに火の玉が10個近く出来上がった。

「な……」

「殺しはしないから安心してね。では」

「バニラ!」

「!?」

そのとき、聞き覚えのある声が深雪のもとに聞こえた。

そして、その後、深雪の飼い犬が優男に飛びかかっていった。

「ちっ! 何だこいつは!」

優男はひらりとバニラの攻撃をかわした。

「バニラ! 晴樹!」

「よう。危なかったな」

「遅いわよバカ!」

深雪は泣きそうな顔で晴樹に掴みかかる。

「おっと、そんなことしている場合じゃないな」

晴樹は優男を睨みつける。

「悪いな。俺はこいつのボディーガードやってんだ。こいつを傷つけた分はやり返さないとな」

「ふっ……形勢逆転という訳ですか」

晴樹の言葉に優男は全く動じなかった。

「僕の任務は終わりです。後は頼みましたよみなさん」

「……」

優男の後ろから大量の黒服の人間達が現れた。

「なるほど。足止めか」

「まあそういうことです。それではみなさんごきげんよう。風の精霊よ、我に風を、杖に力を、レビテーション」

優男は身体を浮かせ、去ろうとする。

「バニラ、あいつの追跡は頼む。深雪、俺の後ろから離れるな!」

「う、うん……」

黒服達20数名は一斉に晴樹にかかっていくが、戦闘のプロ中のプロである晴樹には3分も保たなかった。

しかし、この3分は大きな3分であろう。

「ちっ……こいつら、戦闘慣れしてやがった……」

晴樹は多少の疲れを感じた。

「深雪」

「……私、守れなかった!! あの子猫、私に助けを求めてきてたのに!」

「……」

晴樹はそんな悲痛そうな表情をする深雪の肩に手を置いた。

「あの猫は俺が何とかする。だからお前は先に帰ってろ。送ってやるから」

そう言って晴樹は深雪の肩に手を掛けようとする。

しかし、その手は深雪の肩に触れることはなかった。

晴樹の手は、深雪の手によって止められていた。

「……バカにしないでよ」

「バカにはしていない。今回の件はお前には危険すぎる。お前が首を突っ込むようなことじゃない」

「でも! あの子猫は私に助けを求めてきたのよ!!」

深雪が涙目で俺を見る。

彼女の心にある正義が、彼らを許せない、そして今の弱い自分を許せないないのだろう。

「お前はあいつらがどういう奴らだか知っているか?」

「……」

深雪は黙って首を振る。

「あいつらは、一種のマフィアだ。しかも中々厄介な魔法使いを抱え込んでいる分、かなりタチが悪い」

晴樹は淡々と語る。

「ハッキリ言って、お前では勝てる見込みもないし、死ぬかもしれない」

「……だからどうしたっていうの?」

「どうしたも何もない……自分の命を懸けるなんてこと、お前にはまだ早い」

晴樹は真剣な表情だ。しかし、深雪はそれに真剣な表情で見返す。

「……何を言っても無駄のようだな。力づくでもお前を眠らせるしかなくなる。だから止めてくれ」

「止めないわ! 自分の信念に従って生きることの何が悪いの!?」

「自分の信念が人に迷惑をかけることだってある。お前が死んだら悲しむ奴がいることぐらい知ってるだろう?」

「だったら守りなさいよ! 依頼達成率100%なんでしょ!? 私を守るぐらいやってみせなさいよ!」

深雪は晴樹を思いっきり睨みつける。

これが、自分の信念を信じて生きてきた者の目か、と晴樹は昔を懐かしむ。

「俺を挑発するのか」

「ええ。まだあなたの腕を完ぺきに見ていなかったもの」

「……はぁ。お前の親父さん、悲しむぞ」

「悪かったわね」

「ったく……しょうがないな。バニラもいることだし……その代わり、俺の言うことを絶対聞けよ!?」

「うん! ありがとう晴樹!」

その途端、笑顔になった深雪が晴樹に抱きつく。

「おいおい、まだ喜ぶのは早いんじゃないか?」

「あ……」

深雪は少し頬を紅潮させながら晴樹から離れた。

晴樹はそんな深雪にやれやれと肩をすくめた。

「んじゃあいっちょ行きますか」

「うん!」

二人は、並んで歩いていった。







随分と長い話になりそうです。

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