第6話 とある祭りの日
ラブコメ度高し。
全体的に書くのが大変だった……
「なぁ、残りの二人は?」
「……いないわね」
「俺達、迷子になったのか?」
「む、向こうがよ!」
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今日は土曜日と言うことで、午後は授業が無い。
クラスメイト達は、この後の予定について話していた。
そして俺にも予定が入っていた。
「じゃ、今日は予定通りにお祭りに行こう~~~!」
そう、俺は深雪たちと神社のお祭りに行くことになっていた。
任務を円滑にやるためとはいえ、こんなことをしていていいのか、とは思っている。
しかし、根を詰め過ぎるのもどうかとは思うので、丁度いいと言えば、丁度いい息抜きになるかもしれない。
「集合は神社の鳥居前で、午後5時半ね! それまで各自は自由行動ということで!」
「う~い」
松本が軽く手を上げる。
これがこいつの素なのかもしれない。
「じゃ、またね~」
そう言って照美は嬉しそうにぶんぶんと手を振った。
その笑顔が異常に輝いてたことから、彼女は相当祭り好きなのかもしれない。
「じゃあ俺も帰るぜ」
松本も俺達と別れ、この場に存在するのは俺と深雪だけになった。
「……」
「……」
会話が続かない。
というか、俺達二人は実際そんなに話さない。
「正直意外だった」
「は?」
深雪の言葉に俺は反応し、耳を傾けた。
「あんたがお祭りに行くなんて、意外。てっきりそんな暇あったら特訓しろって言うのかと思った」
「あのな……お前は俺をどう言う風に見てるんだ……」
俺は小さく溜息を吐いて、誤解を解こうとする。
「そうねぇ……鬼教官かしら?」
「からかってるだろ」
「あんたにやられっ放しなのは癪なのよ」
「違うことでやり返せよ……」
そんなこんなで俺達も別れの路へとたどり着いた。
「じゃあな」
「遅刻するんじゃないわよ」
素直じゃない俺達は、そのまま振り返らずに別れを告げた。
彼女の性格は多少なりやっと理解し始めた。
そんな俺達にこれから事件が起こることなど、誰も予想していなかった……
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この街……俺達が通っている学園がある街の北側に、大きな山がある。
その山は、神楽山と言い、そのふもとにある神社を神楽神社と呼ぶ。
この神社はとても古くから存在し、昔は山の奥まで入って祈祷したりなど、神楽山は街の守り神として扱われていたようだ。
最近では、そういう祈祷の習慣もほとんど失われ、登山する人はとても物好きな人間だけらしい。
そんな神社で俺達は待ち合わせをしている。
つまり、その待ち合わせの間に、沢照美が俺達にそんな話をしていたということだ。
ちなみに、松本がまだ来ていない。
「深雪~。何であんたは着物で来なかったのよ?」
「別に着物で行かなきゃダメ、って訳でもないでしょ」
沢照美はしっかりと着物を着て、気合十分と言った感じだ。
対する深雪は、いつもの私服で来ていた。
多分着つけが上手く出来ず、さらに着つけ出来る人が家に一人もいなかったのだろう。
「……」
「何よ」
「いや」
面倒くさいことになる前に、俺は深雪から視線を外し、夕焼けの空を見上げる。
雲がほとんどない空だったが、多少それが気になった。
視線を前に戻すと、大量の人たちの群れが見えた。
GW真っ最中のおかげであろう。
「待たせたな」
そんなとき、最後の一人が登場した。
カッコつけたセリフと、仕草をしていたが、やっていること自体はカッコ悪かった。
「待たせたな、じゃないわよ! 十分も遅刻じゃない!!」
沢照美が、自分の腕時計の長針を指差して怒鳴りつけていた。
確かにその時計には5時40分と示されていた。
「いやまぁ……可愛い女の子に会ったら即声掛けてたもんで~」
「何そのカミングアウト!? 別に言い訳ですらないし!?」
松本と沢照美の漫才が始まった。
松本は相も変わらず、女好きのようだ。
「そんなんだから女子に相手にされないのよ」
「うわっ、深雪ちゃんきついこと言うじゃん」
「当然でしょ」
深雪は先に歩き出した。
まぁああいう男は好みではなさそうだ。
「おい、そっち行くのはいいけど、そっちトイレしかないぞ」
「!?」
深雪はびくっと身体を震わせた。
「し、知ってるわよ! わざとよ、わざと!」
……意地っ張りめ。
「何よその眼」
「いや。それより、早く行くぞ」
何だかんだで、沢照美と松本は一緒に歩き出していた。
やっぱり仲いいぞ。
「あの二人、結構仲良いわよね」
どうやら深雪も同じことを思っていたようだ。
「だな、俺達も置いていかれないうちに」
そう言って歩き出そうとした矢先。
「きゃっ」
深雪が小石に引っかかってバランスを崩した。
「おっと」
俺は深雪を何とか押さえ、バランスを保たせた。
「あ、ありがと……」
「気をつけろよ」
俺は彼女から手を離し、前を見る。
「あ」
「どうしたの?」
俺はいつの間にか二人がいないことに気がついた。
「なぁ、残りの二人は?」
「……いないわね」
「俺達、迷子になったのか?」
「む、向こうがよ!」
……とは言っているものの、迷子には変わりはない。
「わ、私のせい……?」
深雪が不安そうに俺を見上げる。
「そんな顔すんな」
俺は彼女の頭にポンと手を置いて、神経を集中させる。
二人の気配の位置を確かめるためだ。
「……」
「ど、どう?」
彼女が心配そうに訊いてくる。
「駄目だな。こんなに人が多いと、判別できん。それに、携帯使えば早いだろ?」
「そ、そっか!」
意外とうっかり者の深雪が、カバンの中から携帯電話を取り出そうとする。
「……」
「……」
刹那、深雪が俺と目を合わせる。
それと同時に、彼女が困ったように笑った。
「忘れちゃった♪」
「……はぁ」
俺は「テヘッ」とでも言いそうな彼女に、盛大に溜息を吐いた。
「ご、ごめんなさい……」
しかし、すぐに彼女は申し訳なさそうに謝る。
悪い奴でもないし、性格が悪い訳でもない。
「別にいいさ。なっちゃったことをウダウダ言ってもしょうがねえ」
一応通信機で松本と連絡が取れるが、任務以外で使いたくない。
とりあえず、やることは決まった。
「向こうも気付いて探してるだろ。俺達は俺達で楽しむことにしようぜ」
今日はそのために来ているのだから。
「え?」
「ほら、行くぞ」
「う、うん……」
俺は深雪の手を引っ張った。
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晴樹に手を握られたのは突然の出来事であった。
思わず叫びそうになるが、何とかこらえることが出来た。
今は共学に在籍しているとはいえ、私は男性に免疫などない。
ましてや、手を握られた経験など、中学以降一度もないのだ。
妙に心臓がバクバクする。
顔に熱が集まるのを感じる。
恥ずかしいという感情ともう一つ別の感情が芽生えつつあった。
私はそんなものは無視する……いや、気にしていられなかった。
ただただ、胸が張り裂けそうなくらいに心臓がバックンバックンいっているのだ。
「どうした? 顔赤いぞ?」
「な、何でもない!わよ……」
「? 変な奴だな」
晴樹の顔をまともに見ることが出来ない。
「おい、何か食べたいものあるか?」
今の私達、どう見られているのだろう?
周りにはカップルも多い。
まさか……
「おい、聞いてるのか!」
私たちもカップルに見えてるの!?
私の頭が沸騰しそうになった時、晴樹の顔が目の前にあるのに気が付いた。
「ひゃ~~~~」
「ぐおっ!」
そして、つい彼を突き飛ばしてしまった。
「い、いって~……何しやがる……」
晴樹が恨めしそうにこっちを見る。
「ご、ごめん……わざとじゃ……ないのよ?」
「おい。疑問形だぞ」
……ダメだ。今日の私、何かがおかしい。
一体どうしてこんなことになってるのだろう……
「どうした? マジで熱でもあるんじゃないのか?」
「だ、大丈夫大丈夫!!」
また近づいてきたので、慌てて両手で彼をブロックする。
「……」
「あ、あははは~」
「……迷子になるなよ」
「あ」
そう言って彼は前を歩いた。
「待ちなさいよ!」
私は彼に付いて歩いたのだった。
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その後、在原晴樹と桜花園深雪の両名は、祭りをそこそこに楽しんでいた。
金魚すくい、射的などの娯楽系。
たこ焼き、あんず飴などの食べ物系の両方を楽しんだ。
「やっぱり私が出すから……」
「いいよ。ガキに払わせられるか」
「む。ガキじゃないもん」
深雪は、晴樹を軽く睨みつけた。
晴樹はプライドを守るためか、意地でも深雪には払わせなかった。
彼にとっては妹みたいなものであり、そんな人にお金を払わせたくはなかった。
実際それは、彼の根底に存在する兄性から来ているのだが、彼はそれを知らなかった。
「ガキだよ。俺から見れば」
「む」
「そもそも、お前は俺に何て見られたいんだ?」
「それはもちろん……っ!」
深雪は何かを口走りそうになって慌てて口を塞いだ。
「何だ? どうした?」
「な、何でもない!!」
「吐きそうなのか? 食べ過ぎはあだっ!」
深雪は晴樹に最後まで言わせずに、ローキックを食らわせた。
その蹴りは脛部にクリーンヒットし、地味に痛そうであった。
「違うわよ!」
深雪は、かなりのご立腹のようだった。
晴樹は片足を押さえて蹲っていた。
「ローキックってな、地味に痛いんだぞ」
「知らないわよ」
「はぁ……これだからガキは……」
「む」
深雪の表情がまた険しくなる。
どうやら、子供扱いが気に食わないらしい。
年頃の少女によくある話だ。
まあそれに"とある男性"という対象が存在するのだが。
彼女はそれに気付いていないのか、はたまたそれを全力で否定しているのかは知る由もないが。
「私のどういうところが子供だと思うのよ?」
「それは……」
と、晴樹がちらりと彼女の一部分を見てしまったのが運の尽きであった。
その部分は、彼女にとってのコンプレックスでもあった。
そして、運の悪いことに深雪は晴樹のその視線を見逃さなかった。
「……今、どこ見た?」
「い、いや別にどこも……」
「……今、どこ見たのかしら?」
深雪は笑顔の裏の感情を隠さずに、晴樹に詰め寄った。
顔だけ隠せば、女の子が男性にアプローチしている場面に見えなくもない。
顔だけ隠せば、の話ではあるが。
「いやまぁ落ち着こう。話はまずそれからだ」
「今! 一体どこを見たのかしら?」
深雪の声にドスが利き始める。
正直言って、到底少女とは思えないくらいの威圧感が彼女にはあった。
「(……ガキの癖になんだこの威圧感は)」
「早く答えなさい? どこを見たのかしらね?」
「あーいや……」
晴樹は冷や汗を掻きまくっていた。
任務でもここまで冷や汗が流れることなどほとんどない。
そう考えると、深雪はやはりただならぬ才能を持っていることになる、ある意味。
「(おいおい……この任務ってSクラスの任務じゃないよな?)」
そう晴樹が考えてしまうほど、今の晴樹には余裕が無かった。
最悪、命が無くなると考えていた。
「と、とりあえず、正直に話す……だから、もうちょっと人のいないところに行こう? な?」
晴樹はかなり下手に出ていた。
深雪はそんな彼の提案を無言で受け入れた。
……晴樹はさらに汗をかいた。
「え、えーとだな……」
人気がある程度ないところで、大木を背に晴樹が語り出した。
もちろん目の前には凄い形相の深雪。
「わざとじゃないんだ……ついその……」
「ついその……何かしら?」
「(こいつこえーよ! 何で俺がこんな目に会わなきゃなんね!?)」
晴樹はもう全身の水分が無くなるくらいに汗をかいた。
もう全身大洪水だ。
「お前の……胸を見て……すまん!!」
晴樹は両手を合わせて頭を下げた。
すでに年上の威厳などあって無いようなものだった。
「……正直に答えてくれて、ありがとう」
「あ、あはは……(怖いぞこいつ……怖すぎる!)」
「まあでも許さないけど……ねっ!」
「あぐっ!」
深雪のハイキックが晴樹に直撃した。
何とかガードが間に合ったからいいものの、下手すると死んでいたかもしれないだろう。
「あ、ガードすんな!」
「しなきゃ死ぬだろ!?」
晴樹は深雪の蹴りの応酬を紙一重でかわし続ける。
何でお祭りに来てこんなことをしなければならないのかと、疑問に思う晴樹であった。
「うるさ~い!」
「うおっ……!?」
しかし、何を思ったか、晴樹は突然険しい顔をして深雪から距離をとった。
深雪はそんな晴樹を不審そうに思った。
「何?どうしたの?」
「しっ……」
晴樹は口に人差し指を当てて、静かにしろの合図を深雪に送った。
深雪は困惑しつつも、晴樹の言うとおりに黙ることにした。
「……狙いはどっちだ? 俺か……あいつか……?」
晴樹は険しい顔のまま辺りをきょろきょろと見まわす。
「……悪いな。どうやら無事に俺達を返してくれる気が無いらしいぞ」
「え? 何々?」
「……お前もそろそろ感じる筈だ……この殺気を」
「!!」
深雪は、思ったよりもはるかに強い殺気に体中の筋肉が収縮したように感じた。
そして彼女も、晴樹と同じく戦闘の態勢を整える。
「……お前は下がってろ」
「どうして!? 私が弱いから!?」
深雪が晴樹を睨む。
その視線には少なからず悔しさが滲んでいた。
「相手が……人間だからだ」
晴樹は小石を拾い、前方へ投げた。
そして、そこから変な男たちが現れた。
「……な、何なのこいつら?」
「さあな。場合によっては殺すことになるかもな」
「え!? ダメよ! 相手は人間なのよ!?」
今まで、何人もの人を殺してきた晴樹にとっては、何の抵抗もないことなのだが、深雪にとっては大したことである。
もちろんそれを晴樹は分かっていた。
「心配するな。見た感じ、あいつらは誰かに操られてる。そう言う奴らは殺さないよ」
深雪はそれを聞いて安堵の吐息を吐いた。
「さて、さっさと決着をつけるとするか」
晴樹が男たちに猛然と向かったかと思うと、次々と男たちが吹き飛ばされていた。
深雪の目から見ても、圧倒的な力の差があることが明らかだった。
それほど、一方的だった。
そして、10人弱いた男たちは、10秒後にはみんなその場に倒れ伏していた。
「……狙いは俺なのか、それとも」
晴樹はチラリと深雪の方を見る。
「え?」
「いや、とりあえず、ここから離れよう」
晴樹は、深雪の手を取って歩き出した。
「あ……」
思わず深雪から声が漏れる。
しかし、深雪はそれ以上何もいうことはなかった。
二人がある程度歩いていたとき、空から特徴的な音が聞こえた。
「あ」
深雪が空を指差すと、綺麗な花火が夜空に咲いていた。
さっきまでの殺伐とした雰囲気は、それによって柔らかく変わった。
「綺麗……ね」
「そーだな……」
晴樹の目からは珍しく優しい光が見えていた。
その目をじっと見つめる深雪。
「(こんな綺麗な目だったんだ……)」
つい、その眼を見入ってしまう深雪は、花火を彼の瞳の反射でずっと見ていた。
晴樹はそれに気が付きつつも、あえて気付かないふりをした。
今はこんな関係の二人。
しかし、両者とも嫌な気分ではなかったのに気付いていた。
感想お待ちしています。