第5話 放課後の生活
かなり間があいてすいません。
感想は随時お待ちしています。
「副会長、桜花園深雪さんのクラスに入って来た転校生の編入試験の結果です」
「ありがとう。どんな魔法が得意なのでしょうね」
「それが……」
「え……どういうこと……?」
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俺が学校に通い始めて3日が経った。
こんな俺にも、取り巻きみたいなのが出来た。
クラス委員長の深雪、彼女はクラス委員だから、という理由づけしているが、実際面倒を見ようとでも思っているのだろう。
そして、彼女の友達の沢照美という女の子。
最後に、例の俺の知り合い、松本良雄。
この4人で行動することが多くなっている。
年下達と同級生として過ごすのは、意外と楽なものだともついでに知った。
「あのね、今週の週末に近くの神社でお祭りがあるのよ」
沢照美が俺達にそんなことを言う。
「まさかそれって去年もやってたあれか?」
「そうそう、それそれ」
どうやら松本は知っているらしい。
まぁ彼女とは去年知り合ったらしいので、おかしくはないが。
「で、それみんなで行かない!?」
「どうせ私は決定でしょ」
深雪はあきれ顔で言った。
「当然。こんな外面優等生を外に連れ出して夜遊びするのが私の趣味なんだし」
「はいはい」
松本も多分行くのは決定だろう。
まあつまり、俺に質問しているのだろう。
「まあいいが、いいのか?」
「何が?」
沢照美は俺の言いたいことが分からないようだった。
「松本とのデートとか……じゃないのか?」
「え!?」
「はぁ!?」
二人とも変な声を大声で出した。
ちなみに、見事にハモっていた。
「違うのか?」
「当然でしょ! 誰がこんな奴と!」
「そうそう! 冗談じゃないぜ!」
「ああ何と言うか……すまん」
二人の勢いに負けて俺は謝ってしまった。
いくらSAMOといえども、勝てぬものはあるのだ。
「それより、あなたと深雪の方が怪しいんだけど~?」
「はい!?」
今度は深雪が素っ頓狂な声を上げた。
「だって妙に仲良くな~い? 一緒に帰っているみたいだし」
「そ、それは私が委員長だからよ! まだ学校に慣れていない転校生の面倒を見るのが役目なのよ!」
「本当にそれだけかしら~?」
沢照美と深雪が楽しそうに会話しているのを尻目に、俺は松本に話しかけた。
「おい」
「ん?」
「お前が何でここにいる」
俺は小声で訊いた。
もちろん顔は松本に向けず。
「上からの命令以外ないだろ」
松本はカレーパンを頬張りながら答える。
緊張感のない奴だ。
「何の命令だよ」
もう分かると思うが、松本はSAMOの人間である。
正確に言うと、SAMOの諜報部門に所属している。
俺が所属している、戦闘部門のアシストをしてくれる人たちである。
「お前のサポートと……」
「俺のサポートと?」
「“アレ”だ」
“アレ”……つまり、俺のもう一つの任務に関係している。
いや、関係と言うか、そのものだ。
「お前も同じこと言われたのか」
「まぁな。こう考えると、俺達意外にも同じ任務を受けたSAMOがいるだろうな」
SAMOという機関は、仲間の情報も不明である場合が多い。
仲間の情報は常に必要最低限で、個人情報など明かされない。
そのせいか、SAMOのメンバーは、他のSAMOのメンバーの顔をほとんど知らない。
俺とこいつは、一度同じ任務をやったことがあるので、顔見知りなのだ。
こういうのは珍しい例である。
だから、松本良雄という名前は偽名だろう。
……俺の在原晴樹と同じように。
「あー焼きそばパンうめー」
「……」
俺が真面目なことを考えている間に、この男は第二のパンに手をつけていた。
「……平和だ」
俺は未だじゃれ合っている二人の女の子と、美味そうにパンを食している男を交互に見ながら言った。
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帰りのHRが終わり、放課後になった。
俺もクラスメイトと同じく帰りの支度を始めた。
「……」
しかし、どうもそれは許されないようだ。
俺はチラリと後ろを向いてから小さく溜息を吐いた。
「俺、忘れ物したから、ちょっと取ってくる」
そう深雪に話しかけて、俺は教室を出ようとする。
「は!? 待ちなさいよ!」
深雪はわざわざ追いかけてくる。
その眼は、アンタ、私のボディーガードじゃないの!? と言っているみたいだった。
「すぐに戻るよ。それともそんなに俺と一緒がいいのか?」
「な……!? そんな訳ないでしょ!」
深雪が顔を真っ赤にして反論する。
「もういいわよ。照美、帰ろう!」
「え? 在原君はいいの?」
沢照美は俺をチラリと見る。
「いいわよあんな奴。さ、カラオケにでも行こう?」
「あ、うん」
深雪は照美を引っ張って教室を出た。
元気な奴だ。
「じゃ、俺も帰るよ」
「じゃあな」
松本とも別れ、俺は図書室へと向かった。
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「……御苦労」
俺は目的地まで案内してくれた、不可視の使い魔にねぎらいの言葉を掛けた。
周りのものに気づかれず、俺だけに念話を送れる使い魔を扱うにはかなりの技術が必要だ。
使い魔を使ったことと言い、念話の内容的に、俺を呼び出した人間は一人に絞られた。
「この間の話の続きか?」
「そ」
眼鏡を掛けた少女が本を持ちながら俺を見上げる。
「悪いけどその話は今度な」
俺は踵を返そうとする。
が、しかし、彼女は俺の制服の裾を掴む。
「そう言って一生しないつもりでしょ」
「そうともいう」
俺はヤレヤレと両手を広げた。
「ここじゃ何だから、付いてきて」
「俺が素直に付いていくと思うか?」
俺は挑戦的な眼差しで彼女を見る。
「思う」
「……何だその自信」
結局俺は彼女に付いていくことにした。
彼女が俺をどう思っているかは知らないが、一応信用しているらしい。
年下にいいようにされているが、別に不満はない。
むしろ、俺がよく15歳で通ったな、という疑問の方が大きい。
「ここ」
彼女は、この学校の一番東にある棟に俺を連れてきた。
こんな人気のないところで何をするのか、いや、何でここに連れてきたのだろうか。
「ここは?」
「部室はこの部屋」
俺の質問に、彼女はとある扉を指差して答える。
その扉は、教室の扉なんかよりもぼろぼろで、見るからに“出そう”な雰囲気を放っていた。
「すっごく怪しい雰囲気しか感じられないんだが……」
「さ、入って」
「無視かよ!」
俺は適度に肩を竦ませ、室内へと入った。
最初に感じたのは、カビ臭いことと、薄暗い部屋だな、ということだった。
俺の予想はあながち、的を外れてはいなかったらしい。
「で、ここは何部なんだ?」
「魔法薬研究部」
「……嫌な予感しかしないんだが」
「さ、とりあえずおもてなしとしてこれを」
俺は差し出されたビーカーの中身を見た。
そこには、緑色の液体がコポコポと音を立てていた。
そう、"見るからに怪しい液体"の典型例が、そこに存在していたのだ。
「薬の実験台になれってか? それならほかを当たってくれ」
「今のは冗談」
そう言って彼女は、ビーカーを引っ込めた。
「本当か?」
「微妙」
「帰りたい」
「帰さない」
「帰してくれ」
「今夜は寝かさないわウフフ」
少女の棒読みが、俺の頭の中に響く。
見た目よりユニークな少女のようだ。
「でも珍しい。学生の割に妙に落ち着いてる」
「そういう性分さ」
中々の洞察力を誇っているらしい。
あまりこういう人物とは接触したくはない。
任務に支障が出る可能性がある。
「まぁどっちでもいい」
「いいんか……」
年下に振り回されるというのは珍しい。
いや、その言い方は少しおかしいかもしれない。
今まで同じ任務をしたSAMOのメンバーの本当の年齢なんて、俺は知りもしないからだ。
「で、トリックを教えろだって?」
「そう」
「俺は高速に指を摩擦させただけ。それ以上でも以下でも……」
「それが難しい」
「あっそう……」
俺は溜息を吐く。
「練習すればそのうち出来るさ」
ピーンポーンパーンポーン
そんなとき、校内放送の合図があった。
もうすぐ下校の時刻とか何とかか?
「転入生の1年、在原晴樹。在原晴樹。至急生徒会室に出頭……来て下さい。繰り返します」
今の放送、俺に恨みでもあるのだろうか?
「何かしたの?」
「そう聞こえるような言い方しやがって……」
俺は再び溜息を吐いた。
「で、何したの?」
「何もしてないしてない。ま、つうわけだから、俺は行く」
俺は立ち上がって外に出ることにする。
千堂結里はもう俺に興味が無くなったのか、指を摩擦させる練習をしていた。
「ふっ、はっ」
「……」
俺はそんな彼女をチラリと見た後に、静かに扉を閉めた。
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「在原晴樹です」
俺は、生徒会室の扉をノックして、部屋に入った。
「お待ちしていましたわ」
部屋の中には、数人の生徒がいた。
その中の一人が、俺に近づいてきたのだった。
「私は、生徒会副会長の梅花園秋乃といいます」
「梅花園……秋乃……」
「どうかしまして?」
「いえ、あの梅花園家のお嬢様だとは思わなかったもので……」
形式上は先輩なので、一応敬語を使う。
例えそれがよく知っている相手でも、だ。
「別に固くならなくて結構ですわ。とりあえず、お座りください」
「失礼します」
俺は、彼女の前にあるソファーに腰かける。
そして彼女は俺の向かいに座った。
さて、何を話すのだろうか。
「失礼ながら、編入試験の結果などを拝見させていただきました」
「あ、はい」
「それでですね、とても奇妙な結果だったものでつい……」
あー。
俺の試験結果は多分凄いことになっているはずだ。
「筆記試験はすばらしい結果ですが……魔法の方で気になることが……」
「どういう結果なんですか?」
「強化魔法による身体測定が満点……というか歴史上最高得点なんですの」
「え!?」
それはまさかの事態だ。
そもそも俺はSAMOのメンバーなのだから、かなりの高得点にはなると思っていた。
だがしかし、それがここまでとは露にも思わなかった。
「反対に、その他の魔法試験がほぼ0点です。これは一体……」
「あーそれはですね……俺は魔法がてんで苦手で……運動神経しか無いんですよあはは……」
これは笑うしかない。
昔、凄い魔法使いを目指していた自分を。
「そうなのですか……事情は訊きませんが、これで少しは疑念が解けました。あら?」
そんなとき、彼女が俺の顔をジッと見た。
「あなた……どこかでお会いしたような……何故かしら……とても懐かしい……」
「え?」
「い、いえ……何でもありません! もう退室して結構ですわ!」
「は、はい」
俺は席から立ち上がり、彼女をはじめとする生徒会メンバー全員にお辞儀をした。
「では、失礼しました」
俺は生徒会室から出ると、こちらのドアも静かに閉めた。
「副会長? 何故泣いているのです?」
「思い出してしまったのです……昔のことを……」
最後に、そんな会話が部屋から聞こえた。
俺は生徒会室のドアを少しだけ見つめ、すぐにその場を離れた。
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私は久しぶりのカラオケで、ついはしゃぎ過ぎていた。
アイツのことでとてもイライラし、最近遊んでいないことも、それに便乗していた。
つまり、私にはかなりストレスが溜まっていたということなのだ。
「今日のアンタ、いつもの13割増しだね……」
「何その中途半端な増し方?」
私が熱唱している間に、ちょうど水を差した照美。
「いや、文句を言ってる訳じゃないのよ、ただもう時間が……」
「え?」
時計を見ると、あと10分になっていた。
「もうこんな時間!?」
「そりゃアンタは歌いっぱなしだから気付かなかったでしょうよ……」
そういえば、照美はほとんど歌ってなかった。
というか、私がヤケ歌いみたいなことをしていたのだ。
「でもさ、やっぱりおかしいよ」
「はい?」
「アンタって、在原君のことになると、結構ムキになるでしょ?」
「はぁぁ!? 目腐ってるわよ!」
「お嬢様がそういうこと言わない」
照美が私にデコピンをする。
「痛っ」
「とりあえず、最後ぐらいは一緒に歌いましょ」
「上手くはぐらかされた……」
とは言いつつ、私と照美は、ノリノリで一緒に歌ったのであった。
「ふぅぅ~。スッキリした~~~」
カラオケから夜空の下に出て、私は伸びをした。
ストレスとカロリーを大量に放出した感じだ。
「はいはい。よかったわね」
「ごめんね! 全然歌わせなくて!」
「いいわよいいわよ。……いいからかいネタが出来たことだし」
「ん?」
最後の方の照美の発言がよく聞こえなかったので、訊き返してみた。
「何でもないわよ。ほら、もう遅いから帰るわよ」
「う、うん……」
何か釈然としないが、照美の言うことも正しかったので、私は曖昧に頷いた。
「じゃね!」
「バイバイ~!」
私たちは、十字路で別れた。
まったく、晴樹の奴ぅ~~~~!
女の子一人を夜道で歩かせる気なの!?
次会ったら絶~~~対に文句言ってやるんだから!
私は一人でイライラしながら帰り道を歩いた。
そんな私の前から、銀髪の少年が歩いてきた。
私は、綺麗な髪の毛だなぁと思いつつ、彼とすれ違った。
「一か月後が楽しみだね」
「!?」
私は、その声に急いで後ろを振り返った。
しかし、さっきの銀髪の少年はおろか、誰も私の後ろにいなかった。
「……今の、どういう意味なのかしら……?」
私はしばらく考えたが、結局幻聴と幻覚ということにした。
特に今日はその可能性が非常に高いので、ちょうどいい。
私は、また晴樹に心の中で悪態をつくことにしたのだった。
徐々にキャラを増やしていきます。
キャラクター紹介は、ある程度までいったらまとめてやりたいと思います。