第2話 少女の挑戦
プロローグを多少変更しました。
今日も特に変わったことはなく、平和に終わりそうだ。
今日の最後の授業……みんな眠そうにしている。
「みんなも知っていると思うが、私たちが魔法を使えるのは、マナの大樹のおかげだ。マナの大樹の場所は、もちろん秘密ではあるが、その樹が地球上にマナを満たしてくれる。そしてそのマナを君たちが取り入れることで、魔力として還元される。つまり、マナの大樹は我々にとって……」
教師が何回も繰り返し、分かり切った話をするので、さすがの私も飽きてきた。
とりあえず、家のためにも学校で寝るとか、そんなことは出来ない。
桜花園家に泥を塗ることだけは絶対に出来ない。
そもそも、そんなこと、私のプライドが許さない。
そんなとき、横からつつかれた。
「?」
顔をチラリとそちらへと向けた。
そこには、友人の沢照美がノートの端を私に差し出していた。
目で「中身を見ろ」と訴えているみたいだ。
私は、とりあえず中身を広げてみる。
“今日、帰りにどこか寄ってかない?”
「……」
どうやら、寄り道の誘いだったようだ。
私は、表向きは優等生であるが、実際は、友達と放課後に寄り道したり、夜更かしして携帯電話を弄ったりしている、普通の女子生徒だ。
こういう誘惑にも普通に弱い。
「……」
チラリと前を見てから、答えを書き込む。
“ゴメン、今日は無理”
私は、紙を隣に送る。
“なになに? もしかして、男関係?”
“そんな訳ないでしょ。単なる家の用事よ。ダンスパーティやるんだって”
“そうだよね~。本当に男っ気ないよね~深雪ちゃんは”
“うるさい”
私と照美がそんなやり取りをしているうちに、チャイムが鳴った。
どうやら、今日最後の授業が終了したみたいだ。
「起立!」
学級委員の私が、号令を掛ける。
「気を付け、礼!」
私の号令に、クラスメイト達はみんな安堵の表情をする。
魔法の歴史なんていう退屈な授業……しかも、大抵の魔法使いなら知っているような知識を教えているような授業など、楽しみな訳が無い。
「じゃ、さっき紙に書いたとおりだから」
「え? 何々? 用事でもあんの?」
私に話しかけてきたのは、松本良雄といい、クラスメイトの男子である。
私と言うか、照美の友人である。
聞いた話によると、中学3年の頃に、彼が転校してきて、仲良くなったらしい。
「そ。ダンスパーティーよ」
「ほわ~~~。貴族って大変だな~」
魔法使いの中で、貴族の数は多い。
そもそも、今まで貴族たちが魔法というものを秘匿してきたので、当然と言えば当然である。
なので、優れた魔法使いには、貴族出身のものが多かったりする。
しかし、照美も、松本くんも貴族ではないのに、魔法の成績は優秀である。
つまり、努力をすれば貴族でなくても優れた魔法使いになることは可能である。
「ま、そのパーティーでいい男の一人や二人でも引っかけてきなさい」
「茶化さないでよ、結構多いんだから、軟派な男が」
照美のセリフに、私はうんざりしたように返す。
中には下心丸出しの奴もいる。
そう言う奴は、大嫌いだ。
そういえば、今日も朝にそういう男たちに会った。
自分より少し年上の男性が絡まれていた出来事だ。
「それじゃあね、遅れると、お父さんは特にうるさいの」
私は、照美たちに挨拶をして教室を出た。
「あら?」
「あ」
すると、バッタリ生徒会副会長の、梅花園秋乃と出くわした。
「今お帰りですか? 深雪さん」
「あ、はい。梅花園先輩こそ、私たちの教室に何か用ですか?」
梅花園は、桜花園と同じく貴族である。
名前が似ていることから分かるように、とある繋がりがある。
日本で魔法を秘匿してきた四大貴族であるという共通点である。
あと二つは、桃花園と春花園である。
「ええ、あなたを探していたの」
「私、ですか?」
どうやら、目的は私のようだった。
「今日のパーティーに出れそうになくてね、申し訳ないと思ったから」
そう言うと、ペコリと私に頭を下げた生徒会副会長。
「い、いえ、先輩は生徒会の仕事もあるし、家の仕事もあるじゃないですか。お顔を上げてください」
悔しいけれど、彼女はすでに家で魔法関係の仕事の手伝いを任せてもらっているほどの実力の持ち主だ。
当然、この学校で一番強い。
教師の中でも、彼女に勝てない人がいるくらいなのだ。
「ごめんなさいね。それでは、両親によろしく伝えておいてね?」
「はい」
私は、彼女の去るのを確認すると、今度こそ帰路に着くことにした。
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ダンスパーティが終わり、私はベッドにドレス姿でダイブした。
お母さんがうるさく言うかもしれないが、誰も見ていないのでよしとする。
ただ、皺にならないようには気を付ける。
「はぁ……疲れた……」
今日も、くだらない男たちから何度も誘われ、断るの繰り返しだった。
梅花園先輩がいれば、そんなことにはならないので、少し先輩を恨む。
「はぁ……そういえば……」
一人だけ見慣れない人がいた。
誰かのボディガードだろうか?
サングラスを付けていたので、勝手にそう解釈してみる。
しかし、そんなことは自分には関係ないと思い、寝る準備に入る。
「あ……その前にシャワー浴びよ……」
私は、眠そうな顔で自室のシャワールームへと向かった。
ドレスを脱ぎ、それをきちんと畳み、寝ぼけ眼でシャワールームに入る。
温かいシャワーがとても心地よかった。
さっきまでの嫌な感触が全て洗い流されるみたいだ。
自分はパーティーというものは全然好きではない。
そもそも、人の前に立って何かをするのがあまり好きではないのだ。
こういうのは、付き合いとか、父の命令とかのためだけにやっている。
「はぁ……気持ちいい……」
少しぬるめのシャワーを変え、私は束の間の幸せを噛みしめる。
本当は照美達と寄り道したかったなぁという感情が余計に込み上げてくる。
全て終わったことなのだから仕方ないが、あまり納得いかない。
「……私だって……15の女の子なのに」
それを考えると、梅花園先輩はすごい。
遊んでいる暇なんて、彼女にはないだろう。
少しだけ、嫉妬。
魔法使いとして。そして、女として。
そう思いながら、自分の平たい胸部を見て、そっと溜息を吐いた。
「……バカ」
私は、何となくそう呟いてみた。
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それから、二日後、帰りのHRで私は、奇妙なことを聞いた。
「この学園の森に、魔獣が侵入しています」
担任教師の吉水先生がそんな言葉を口にすると、クラス中が騒然となった。
好奇心に目を輝かせるものもいれば、不安に怯えるものもいる。
つまり、森は立ち入り禁止です、と言っているということだ。
「ねえねえ、どんな魔獣だろうね?」
どうやら前者らしい照美が、私に話しかけた。
「教師のあの態度を見る限り、そんなに危険じゃなかったりするかもね」
私は少し投げやり気味に返した。
何せ、そんなことより、私は別の方に興味が移っていた。
私は、魔法に関する知識や、魔法を使った戦闘訓練を積んではいるのだが、実戦経験はない。
父親が過保護であるためか、私に戦闘経験を全くといって積ませていない。
まあつまり、要約するとだ、私が実戦経験出来るチャンスが今、訪れたということだ。
「ねえ、深雪。今日の放課後……」
「ゴメン照美。用事があるの」
私は、両手を前で合わせて照美に謝った。
こんなところでモタモタしていたら、あの人と再会したときにカッコ悪いところを見せてしまう。
あの人のことだ、きっと今頃立派な魔法使いになっているに違いない。
…あれ?
「そういえば……名前聞いてなかった」
「え? 誰の?」
とんだ間抜けだ。
名前も分からないんじゃ、探しようがないし、合っても向こうが覚えていないのかもしれない。
私は少し落ち込んだ。
「大丈夫照美? 悪いものでも食べた?」
私の百面相に、吹き出しそうになりながらも心配する照美。
「ちょっと自分が愚かだったことを知っただけ…」
「?」
そんなうちに、帰りのHRが終わり、クラスメイト達が帰りはじめた。
「じゃ、私も帰るから」
森に行くのだけど。
「そ。付き合い悪いわね」
照美とそう言って別れ、教室を出る。
しかし、運の悪いことに、隣のクラスから出てきた、嫌な奴と目が合ってしまった。
「ほう。桜花園のじゃないか」
「ごきげんよう」
私は、作り笑いを浮かべて応対する。
「一ヶ月後の四家対抗戦……僕は春花園の代表になったよ」
「!?」
この男の名前は、春花園正道といい、四大貴族の家の者だ。
当然、私と顔見知りである。
だがしかし、ことあるごとに私に突っ掛かってくる。
理由は、昔から私に魔法で勝てないという理由なのだが。
「貴方のお兄さんは?」
確か、彼には三つ上の兄がいたはずだ。
かなり優秀らしいし、代表戦には彼が出るものだと思っていた。
「ふん。実力で代表になったのさ。あんな奴、敵じゃないね」
彼の瞳には、憎しみに似たような色があった。
こんなに嫌いだったかな? 兄のこと。
まぁどうでもいいよね。
「そ、それじゃ私、急いでるから」
「おっと、君には関係の無い話だったかな? 実戦経験の無いお嬢様?」
彼は最後にそんな台詞を私に残していった。
私には優秀な姉がいるので、関係の無い話だ。
そもそも、私が出ても家の名前に泥を塗るだけだろう……はぁ……
心の中でそっとため息を吐く。
「ってそんなことしている場合じゃ……」
私は森へと急いで向かうことにした。
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普通、こういう立入禁止のところがある場合、結界が張られているのがふつうである。
しかし、この森はおかしかった。
「結界が張られていないの!?」
そう、結界が張られていない。
いや、違う。
何者かによって結界が壊されたみたいだ。
つい先程。
結界を破壊するのはかなりの高等技術である。
基本的に、かけた術者にしか解除できない結界を他人が解除するからだ。
方法は二つ。
結界の術式を完璧に理解し、解除する方法。
そして、もう一つは……
「圧倒的な力で、強引に破壊する……」
前者だった場合、当事者は相当な術者である。
後者の場合、当事者は圧倒的な力を持つものだ。
もし、このどちらかが森の中にいた場合、魔獣どころの騒ぎではない。
ならやめる?
今日やらないと、明日魔獣は退治されているかもしれない。
こんな機会、二度と無いかもしれない。
「行くわ」
私は、腹を括って森の中へと入って行った。
「……」
しかし、その姿を黙って見つめている者がいることに、私は気がついていなかった。
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森はいつもより静かで、何かがいそうな雰囲気を漂わせていた。
気のせいかもしれないが、体がヒンヤリする。
「……ちょっと怖いかも……」
私は入ったときと比べて、明らかにモチベーションが低下していることに気がついた。
しかし、何があるか分からないので、警戒はしたままだ。
「!」
そんなとき、何かの気配を感じた。
この妖気みたいな魔力……魔獣だ!
私は魔力を辿って、相手の位置を確認する。
「右……」
私は右を向いて、魔獣の攻撃を待つ。
「ウガァァァァ!!」
「来たわね!」
熊のような魔獣を見つけたとたんに、杖の先に魔力を集める。
「炎の精霊よ、つぶてとなって敵を焼き尽くせ! ファイアボール!」
私は杖に集めた魔力を、火の魔法に還元した。
私が作り出した三つの火の球は、魔獣に向かって一直線に向かっていく。
魔獣とはいえ、獣なので、火には弱いはずだ。
私は魔獣に攻撃が当たったのを確認した。
「やった!」
「グァァァァ!!」
「え?」
魔獣は、炎をもろともせずに自分に体当たりをしてきた。
「そんな! あぐっ!!」
私は、10メートルほどふっ飛ばされた。
肋骨の何本かが確実にイカれているだろう。
それにしても、どうして火が効かなかったのだろう。
私にはそれが疑問だった。
「炎の精霊よ、つぶてとなって敵を焼き尽くせ! ファイアボール!」
今度は五発の火球だ。
それら全てが魔獣に直撃したのを私は確認した。
これなら何とか…
「そんな!?」
しかし、魔獣は傷一つ負っていなかった。
一体どうして……!?
体勢を立て直した魔獣はまた、私に体当たりを仕掛けてきた。
「くっ……」
瞬時に横に跳んで、直撃は避ける。
しかし、魔獣の爪が一直線に私に向かってくる。
「きゃっ! ぐうっ!」
爪が私の右肩に突き刺さった。
すぐに右腕に生暖かいものが流れていくのを感じた。
「……痛い……」
痛すぎて、本当に痛いのかもよく分からない。
初めて感じる激痛であることに間違いはない。
「光の精霊よ、我が身を癒せ! ヒーリング!」
しかし、私は瞬時に治癒魔法をかけて傷を塞いだ。
塞いだだけで、治ってはいない。
「くっ……」
私はそれから、何度も魔法を撃ったが、効果がなかった。
単純に自分の魔力が足りないのかもしれない。
それだったら、どうしようもない。
それから、何度も逃げ回って考えた。
勝ち方を。
しかし、何も浮かばずに、私は魔力切れを起こしてしまう。
もう立つことも出来なくなっている。
「(このままじゃ食べられちゃう……でももう……)」
私には夢がある。
世界を救う正義のヒーローみたいな魔法使いになる、という夢だ。
この夢は、人から与えられたものであったが、そのうち、自分自身の夢になっていた。
私が尊敬する人の夢から、自分の夢に変わるのに時間はかからなかった。
「(パパ、ママ……最後までわがままな娘でごめんなさい……)」
心の中で、両親に謝る。
思えば、親孝行なんて今までしたことがなかった。
こんなことなら……と、悔いの残る人生になりそうだ。
「(ああ……結局、あの人に会えなかったし、追いつけなかった……夢……叶わなかった)」
そして、あこがれの「あの人」のことを思ってみる。
今生きているのかも、死んでいるのかも知らない。
7年前、まだ小さい子供だった私を、こういうピンチから救ったのは、あの人であって他ならない。
あの人は、当時まだ子供ながら、圧倒的魔力で、魔獣に襲われた私を助けてくれた。
だが、今回はそれはないだろう。
切り開くのは、自分自身の状態だからだ。
だから私は覚悟する。
「でも……ただでは死なない! せめて……道連れよ!」
私は、死力を振り絞って立ち上がり、杖を持つ。
杖とはいえ、相当硬いものだ。
打撃武器としても、申し分ないだろう。
私は、魔獣に向かって全力で杖で殴る。
だがしかし、杖はポッキリと折れ、魔獣にダメージを与えることが出来なかった。
「そん……な……」
私の心にあるものは絶望のみ。
私は、一太刀浴びせることも叶わないのか。
……嫌だ。
死にたくない!!
私は目から涙があふれ、死の恐怖で顔をひきつらせる。
「私……もう……」
「よく頑張ったよ、お前は」
「!?」
そんなとき、私の耳に男の声が聞こえた。
「だ、誰!?」
私は、急いで周囲を見渡す。
しかし、彼は彼女のすぐ近くの木の上にいた。
「よ」
男は、軽く片手を上げた。
まだプロローグ的な話です。