第1話 故郷への帰還
説明的な話みたいなものです。
それと、感想ください!
魔法が世の明るみに出てから二十年ほど経った。
初めは、中々受け入れられず、魔法を使うものは苦労した。
そもそも、魔法を使えるのは一部の人間だけなので、火種になるには十分だった。
だが、それでも何とか両陣営は歩みより、何とか戦争をしないで保っている。
ただ、やはり魔法を嫌う者は結構多く、事件になることもしばしばある。
それでも、日本という国は未だに平和で、国民もみんな危機感が無い……俺はそう思っていた。
「なあ兄ちゃん、金貸してくんない?」
……日本にもきちんとこんなバカがいた。
まあある意味平和か……アフリカの方では話しかけられる前に、金を奪い取られる。
そんなのと比べたら何ともマシなことか。
「無視してんじゃねぇよ!!」
「ん?」
どうやら不良達に絡まれているのは俺らしかった。
初めての経験にちょっと戸惑うのはこういうことをいうのか。
「お金なら見ず知らずの人に借りるより、信用金庫の方がいいと思うけど」
俺は正直に言ってみた。
「あぁ? テメぇ嘗めてんのか?」
「え?」
どうやら怒らせてしまったようだ。だがしかし、こういうとき、どういう断り方をすればいいか俺には分からない。
怒らせてしまった以上、とりあえず謝ってみるしかない。
「すいませんでした。まさか信用金庫がそれほど嫌いだったとは知らなかったので」
「コイツ、もう殺さね?」
「同感だ。嘗めた口しか聞けねえらしいしな」
折角謝ったのに、何故か許してくれない彼ら。
さすがにこれはやりすぎたかもしれない。
けが人の出ないうちに逃げるしかないな。
「待ちなさい貴方達!!」
「?」
俺とヤンキーは一斉に発声源を見る。
そこにいたのは、どこかの学校の制服を着た女の子であった。
見覚えのある制服ではあるが、何でかは分からない。
「弱い者いじめなんて男のすることじゃないわ!」
女の子はヤンキー達に一喝する。
何ともまぁ勇敢な女の子であろうか。
「あぁん? ガキは引っ込んでな!」
「で、でも兄貴……この子……俺の好みっす!」
「このロリコンが」
「……誰が胸ぺったんの幼児体型だぁぁぁぁ!!」
ヤンキーたちの発言に女の子はキレた。
それはもう盛大に。
つうかそこまで言っていないし。自爆してるし。
ヤンキーたちは一瞬ひるむが、考え直す。
相手は所詮ガキだ。女だ、と。
しかし、女の子のカバンから飛び出ているものを見てヤンキー達の顔が青ざめる。
「あ、あれ……杖だよな……?」
「げっ! まさかあの制服……桜岡魔術学院の制服じゃねぇか!!」
「ひ、ひいっ!!」
ヤンキー達は女の子の杖を見て散り散りに走り去っていった。
「もう! 失礼な奴らね! 大丈夫?」
「俺?」
冷静に一部始終を見ていた俺に女の子が話しかけた。
正直、あんまり関わり合いたくはなかったのだが、とりあえず助けてもらったので、礼を言わないといけない。
「平気です。ありがとうございます」
「そ。ならいいわ。あっ!! もうこんな時間!? 遅刻しちゃう! あなたも気をつけてね!」
女の子は俺にそう言うと、走り去っていった。
それにしても、随分正義感の強い女の子だった……そして胸が小さ……殺気を感じたので止めよう。
俺は目的地まで歩くことにした。
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目的地に着いた俺の眼の前に見えるのは、巨大な門であった。
いかにも、金持ち貴族の家です、と主張しているみたいだ。
正直、貴族なんてものは好きではないので、気が滅入る。
だが、仕事は仕事だ。公私を混同させてはいけない。
俺は門の前で深呼吸をして、心を落ち着かせる。
エイルマットが連絡を入れているはずなので、不審人物にはならないはずだ。
とりあえず、横にあるインターホンを押してみることにする。
「……ピンポーン」
だが、何も鳴らなかったので、口で言ってみる。意味ないけど。
「もしもし」
「うわ!?」
一瞬、自分の口のインターホンが伝わったと思い、びっくりしてしまった。
しかし、そんな考えはすぐに捨てることにする。
「えーと、エイルマットから話を聞いておられて……」
「おお、SAMOの方でしたか!」
SAMOというのは、Special Active Mercenary Organizationの略である。
所謂、“訳あり”の事件などを解決するための傭兵組織である。
何故、傭兵という言い方をするのかは、組織を立ち上げた人間が、単に傭兵に憧れていたかららしい。
エイルマットからの情報なので、信用は出来ないが。
「あなたのお名前は?」
「名前……」
俺はエイルマットから決められていた名前を言った。
「在原晴樹と言います」
「奥で当主がお待ちです。では中へ」
インターホンから声が聞こえなくなり、門が勝手に開いた。
「これも魔法か?」
と、チラリと門を見ると、センサーが見えた。
「……科学か」
それにしても、出迎えも何もないとは、これだから貴族と言う奴は……
俺は面倒くさそうに歩き出した。
「……ていうか殺気漏れてるんですけど」
しばらくして、俺は庭の真ん中から森を見た。
まさか罠か? この依頼自体が俺の存在を消すための……?
森から聞こえてくるのは、低いうなり声。
肉眼では見えないが、確実に俺を狙っている。
相手は単なる獣か、魔力を持っている魔獣のどちらかだ。
もし、俺を消すなら魔獣に決まっている。
俺は静かに戦闘態勢に入った。
「ガウッ!!」
「!?」
すると、森の中から俺に猛スピードで何かがやって来た。
いや、何かではない。
「い、犬ぅ!? ……ってうわぁぁぁぁ!!」
俺は単なる犬に押し倒されてしまった。
正直、あまりにも意外で不覚をとってしまったのだ。
「いや、犬に押し倒されても嬉しくも何とも……」
犬はそんな俺に大口を開ける。
「え? 何? 俺、犬にやられるの?」
しかし、犬は舌を出し、俺の顔をペロペロと舐めはじめる。
「え!? うわあああ! くすぐったい! やめっ! やめろっ!」
俺は犬の下でジタバタともがくが、あまりにも重かった。
いや、本気を出せばいいんだろうけど、動物愛護団体にケチをつけられたくはない。
「バニラ!」
「?」
そんなとき、執事姿の男性がドアから出てきて、何かを叫んだ。
それと同時に、俺の体の重しも無くなった。
俺はすぐさま立ち上がり、汚れを少しでも落とそうと服を叩いた。
「えーと……」
「申し訳ありません」
執事姿の男性は、俺に頭を下げてきた。
何故そのような行動をとるのか、俺にはまだよく分からない。
「実は、あなたを試させていただきました」
「俺を……?」
「はい。バニラ……この大きい犬のことですが、彼女にあなたの実力を試させていただいたのです」
彼女……メスなのか、バニラって。
「で、俺は見事に彼女に押し倒され……犬ですけど、そんな俺は不要ということですか?」
俺はオスでなくて良かった、と少しだけ思ったものの、結局犬と言うことに変わりはない。
何だか少しショックだ。
「いえいえ、私は感心したのです。犬を倒すのではなく、手なずけるとは、恐れ入りました」
「え!? 手なずけるって……俺は何もしてませんよ!」
何だか話が怪しい方向へと転がり始める。
「いえいえ、ご謙遜なさらずに。彼女には命令を下したのです。あなたを襲え、と。殺す気でいきなさい、と」
「おい、何て命令出してるんだコラ」
「しかも、彼女は必ず私の命令を聞いていました。そんな彼女が何もされずに、私の命令を破るわけがない、と」
華麗に俺の言葉をスルーし、自己陶酔に浸り始める執事さん。
何か、依頼内容を聞いてもいないのに疲れてしまった。
「それで、まとめると?」
「あなたは素晴らしい実力がございます、と」
「……まあいいから、案内してくれないか?」
疲れのため、俺の口から敬語が消えた。
何かロクでもない任務になりそうな気がする……
そう思いながら、執事の後ろに付いていった。
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「ここでございます」
俺は、当主がいるらしい部屋の扉の前に来た。
どうやら、かなりの魔法の使い手のようだ。
扉の向こうから、凄まじい魔力が伝わってくる。
「どうぞ」
執事が扉を開け、俺は中へと入っていった。
「お待ちしておりましたぞ、在原晴樹殿」
部屋の中にいたのは、数人のメイドと、壮年の男であった。
年齢的には、48ぐらいか……いや、実際もっと食っているかもしれない。
「私は、桜花園家当主、桜花園冬樹と申します」
「在原晴樹です」
俺達は挨拶もそこそこに、仕事の話に入った。
「まぁ、とりあえず座って、仕事の話をしましょう」
無駄な話が嫌いな俺は、この男に多少好感が持てた。
「失礼します」
俺はソファに腰かけ、桜花園家の当主と向かい合った。
「実はですね、この屋敷の敷地内に一匹、魔獣が隠れているのです」
「……それを退治すればいんですか?」
「そうですね」
「……」
この依頼はおかしい。
桜花園家の当主ともあろうものが、魔獣一匹を殺せないとは。
それに、この屋敷の様子から察するに、そんなに手ごわい相手ではない。
凶悪であったならば、もっとみんな慌てふためくからである。
「……その魔獣は力はそんなに無いようですが、とても上手い気配の消し方を会得してるんですね?」
「ほう、初めから魔獣はいない、と回答しないのですか?」
……試されているな。
何故だか知らないが、今回の任務はいつもと違う。
エイルマットによれば、休暇気分でいいみたいだし、どういうことだろうか。
「もし魔獣がいないのならば、俺はすでに帰っています」
「……つまり?」
「……魔獣はここに来るまでに始末しました」
「それは嘘だな」
男は俺をまっすぐと見つめてくる。
俺もそれをまっすぐと見つめ返す。
「何故ですか?」
「君の動きは最初から見させてもらっていたからね」
「……」
見られていた……もちろん気がついてはいたが、そんなものは当然だろう。
今までの依頼とそこは変わらない。
依頼達成率100%と言われていれば、どんな奴なのか気になるから。
本当はそんなことを言われたくはない。
……純粋に恥ずかしい。
「いえ、それでも魔獣は始末しました」
「どういうことだ?」
「“魔獣”は“獣”になりました。いえ、違いますね。最初から魔獣は獣のふりをしていた、でしょうか?」
俺の発言に執事と当主の両方が眉をひそめる。
「凄いですね。魔獣を飼いならせるなんて。俺も“舐められるまで”ただの犬だと思っていました。バニラは」
「……ふ。すまんね、こんな君を試す真似をしてしまって」
「いえ、俺も学べましたから。魔力を消せる賢い魔獣の存在に……」
正確に言うと、そんな魔獣を人が飼えるなんて凄い、ということだが、言う必要はないだろう。
「では、本題に入ろう」
当主は、一枚の写真を取り出す。
そこに写っていたのは……
「!?」
「ん?」
俺の反応に、当主が顔を上げて俺を見る。
「いえ、続けてください」
写真に写っていた少女は、今日、そこで出会った正義感が強くて胸がない少女だった。
「私の娘、桜花園深雪というんだ。可愛いだろう?」
「……自慢するのが依頼ですか?」
「可愛くないのかね!?」
当主は俺に鬼の形相で詰め寄ってくる。
「い、いえそんなことは……」
俺はヘタレて日和った。
「本当かね!?」
「そ、そうです! とても可愛らしい娘さんです!」
何でこんなことしてるんだ……俺は?
「さて、ここから本題に入ろう」
何回話が脱線しているのだろう?
数える気なんか起きない。
「まず、娘のボディーガードだ」
「ボディーガード?」
あの気の強い娘さんのボディガードねぇ……必要ないと思うが。
それに、「まず」ということは、依頼は複数あるようだ。
「そうだ。娘を男子共の毒牙から守ってくれ!!」
「……俺、一応男性ですよ?」
「しかし、依頼達成率100%なら大丈夫だろう? そんなの簡単だろう?」
「俺にも出来ないことくらいは……」
いや、そういえばあの娘に色気なんて……ないな。
「いえ、大丈夫です。出来ます」
凄く失礼な理由で俺は引き受けた。
「うむ、助かる。それと、娘の家庭教師をお願いしたい」
「か、家庭教師!?」
俺は思わず立ち上がる。
こんなふざけた依頼は初めてだ。
確かに、仲間内でもこういう依頼をされる奴がいる。
ただ、そういう奴は、まともな学力を持った奴にしか依頼されない。
俺みたいな中卒の人間に何をやらせる気だ!? エイルマットは。
「俺には無理ですよ! 学力なんて全然……」
「いや、勉強の家庭教師ではない」
「へ?」
俺は意図せずとも、百面相をしていた。
「戦闘技術だ」
「戦闘技術……? 俺が娘さんに戦闘技術を教えればいいんですか?」
「そうだ」
……困ったぞ、実に困った。
勉強でないだけマシかもしれないが、戦闘……
彼女は、魔法学院に通っているので、当然魔法が主体の戦闘スタイルだろう。
だが……
「正直に言いますと、俺は魔法をほとんど使えません」
そう、俺は魔法使いとしては落ちこぼれだ。
魔力をまともに放出できないし、魔力を還元することも出来ない。
「なに、構わんよ。娘に魔法なんて教えなくてよい」
おい、魔法使いが魔法「なんて」って言うのかよ。
「純粋に戦闘技術を学ばせたいのだ」
「……殴るとか、蹴るとか?」
「究極的には、そういうことだ」
どうやら、相当変わった任務のようだ。
俺がきちんと引き受けてやってもいいが、少し問題がある。
「条件があります。3日待ってくれませんか?」
「何故だ?」
「3日の間、彼女を調査します。彼女に戦闘の素質があると判断すれば、引き受けましょう。ただし、無いと判断した場合、お断りします。前金も合わせて全額返します」
「なんと!」
こうして、俺の変わった任務が始まろうとしていた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「くしゅんっ!!」
深雪は学校でくしゃみをした。
「深雪、風邪?」
「そんなことないと思うけど……くしゅんっ!」
……親がこんな話を進めていることなど、夢にも思わない深雪であった。