第10話 救われるものと救われないもの(後篇)
―あらすじ―
とある日の夜、深雪は謎の子猫と出会う。
次の日の夜、子猫を追いかけ、目を離したすきに、謎の男たちが子猫を追いかけているのを見た。
不快感を抱いた深雪は、その子猫を抱えて逃走するも、謎の優男魔術師に子猫を奪われてしまう。
そして、晴樹とバニラと共にアジトに潜入した深雪は、とうとう最奥部に到着。
そこで深雪は子猫が生まれながらの魔獣ということを知る。
深雪と晴樹は、男と対峙する。
男の顔には多少の焦りが浮かんでいた。
お抱えの、腕の立つ魔術師が負けたことはかなりのショックのようだった。
「どうする? 大人しくその子猫を渡してもらおうか」
「くっ……我が傑作をそう安々と渡せるか!」
男は、近くにあった機械のスイッチを次々と押した。
それと同時に魔獣が数匹現れた。
「まだいんの!?」
「時間稼ぎのつもりか」
晴樹と深雪は再び構えの態勢をとる。
「深雪、俺が奴らを引き付ける。隙が出来たら、お前の魔法で機械を壊せ!」
「了解」
晴樹とバニラで魔獣達を相手にすることになった。
深雪は初めて仕事を任されたことに、嬉しさと責任感を感じた。
「そうはさせるか! 魔獣共よっ! あの小娘を狙え!」
「ちっ……」
晴樹は深雪の目の前に立ち、深雪を庇う。
「晴樹!」
「お前はいつでも魔法撃てるように準備しておけ!」
「わ、分かった!」
バニラと晴樹が襲いかかってくる魔獣を次々となぎ払う。
しかし、随分とこの魔獣はしぶとかった。
「やっぱり火の魔法じゃないと楽には倒せないか」
晴樹は、マジックスナイパーに白色の弾を装填する。
「深雪! バニラ! 目をつぶれっ!!」
そう言い終わると、晴樹は、床にめがけて、弾を発射する。
「きゃっ!」
深雪は急いで目をつぶった。
「な、何だこれは……目の前が……閃光弾かっ!!」
男は、サングラスのおかげで多少は防げていたものの、心に隙が生まれてしまっていた。
魔獣達も、目を抑えて苦しんでいた。
「深雪ぃぃぃぃっ!! 今だ!!」
「風の精霊よ、刃となって敵を切り裂け! エアカッター!」
「な……にぃっ!?」
深雪の杖なし魔法が、男へと向かってくる。
だがしかし、深雪の狙いは違っていた。
標的は、男のすぐ横……子猫の入っているガラスケースであった。
「し、しまったぁっ!!」
男は、魔法使いではないため、その魔法を防ぐことなど出来なかった。
どうすることもできずに、男の目の前で、ガラスケースは真っ二つにされた。
当然、深雪は子猫のことを考え、子猫には当たらないようにした。
そして、そのエアカッターは、ついでに近くにあった機械までも壊してしまった。
「これで形勢逆転だな」
晴樹は銃口を男に向け、バニラはぐったりしている子猫を掴み、しっかりと抱えた。
深雪も、疲れながらも魔獣と男を交互に睨む。
「ふ……ふふふ……」
「?」
しかし、男は不敵に笑っていた。
いや、多少の恐怖が混じっていた。
「何がおかしいのよ!?」
「おしまいだ……もう貴様らはおしまいだ……俺も、貴様らもなぁっ!!」
男は狂ったかのように笑い始めた。
「どういうことだ……?」
「その装置を壊してしまったか……はははは……最強の魔獣が生まれるのだ……」
うわごとのように男は呟いていた。
その途端、地面が大きく揺れる。徐々に。
「な、何なのこれは!?」
「そういうことか…エイルマット」
晴樹は通信機を開き、エイルマットに話しかけた。
エイルマットは全てを悟っていたかのような顔をした。
「諜報部と魔法警察が住民の避難を行わせているよ」
「わかった」
通信機を閉じた晴樹は深雪の腕を掴んだ。
「ここから脱出するぞ、深雪!」
「え!? ちょっと!」
晴樹は、深雪を抱え上げ、バニラの上に乗った。
「悪いなバニラ。全速力で離脱だ!」
「え、え、え、え!?」
混乱している深雪を放ってバニラは、晴樹たちを乗せて出口へと急いでいった。
途中、何事かと混乱している黒服達がいたが、晴樹達は構っている余裕はなかった。
ただ、崩壊しかけている地下施設からの脱出で精一杯であった。
「晴樹! 説明してよ!」
「つまりだ。お前の壊したあの機械は、何か強力な魔獣を封印している装置だったらしい!」
「ええ!? つまりは私のせいでそんな魔獣が!?」
深雪は驚愕と落胆と恐怖の色で顔を染めた。
「だが、お前のおかげでこの子猫は助かった」
晴樹はいつの間にか抱えていた子猫を後ろに乗っている深雪に見せた。
「でも……」
「簡単な話だ。その魔獣とやらを俺が……俺達が倒せばいい話だ」
晴樹はそう断言すると再び前へ向いた。
その瞳に、迷いなど微塵も感じなかった。
深雪は、その瞳にどこか懐かしさを感じ、また、何か別の人とイメージが被った。
「出るぞ!」
バニラに乗った晴樹達が、地下から出たと同時に、地下は崩壊した。
「危なかった……で、その凄い魔獣は?」
「あれかな?」
地面から巨大な顔が生えていた。
「ね、猫!?」
「しかも、相当巨大な猫のようだな」
首だけの猫は、地上から出ようと、徐々に姿を現しつつあった。
その体長は、40メートルほどありそうだ。
「まだほとんど出ていない! 全部出る前に倒すぞ!」
バニラは、猫へと疾走する。
「目を潰す! 深雪は火の魔法を頼む!」
「わかった! 火の精霊よ!」
深雪の周りに赤色の魔力が現れる。
だがしかし、その準備は無駄となってしまう。
突如、バニラの前に巨大な壁が出現した。
「!?」
「深雪、避けるぞ!」
突然現れた巨大な壁に、バニラはバランスを崩し、横に吹っ飛ぶ。
晴樹は何とか深雪を抱えてその壁に飛び乗った。
「バニラ!」
「ちっ……最強の魔獣……魔法が使えるのかよ」
その巨大な猫は、今度は地面から次々と尖った杭を晴樹めがけて放った。
深雪を抱えている晴樹は、避けるのに精いっぱいだった。
「深雪! お前はいつでも魔法を使う準備だ! 俺が引きつける」
「分かった!」
晴樹は、深雪に子猫を預け、巨大な猫の方へと走った。
深雪は物陰に隠れ、晴樹達の様子を見ることにした。
バニラは、何とか立ち上がるが、足を怪我しているらしく、もう戦えそうになかった。
晴樹は、マジックスナイパーで猫の目を狙い打つが、弾かれてしまう。
「どうやら、魔力に反応する膜がこいつにもあるらしいな……」
晴樹は、マジックスナイパーを腰にしまい、宙に浮いた。
「あいつ……魔法全然使えないんじゃ……」
「魔力解放、一番、二番、三番!!」
深雪が驚きながら呟いている間に、晴樹の身体の周りに、巨大な魔力があふれる。
それを見た深雪は絶句する。
その存在のあまりの巨大さに。
「俺のありったけの魔力を込めた弾丸を食らえ!!」
マジックスナイパーを再び腰から抜き、自分の周りの魔力を銃に込める。
マジックスナイパーが白く光り、それと同時に晴樹は猫の目めがけて引き金を引いた。
「んに゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
魔力壁を突き破った弾丸が、猫の目にささり、弾けた。
猫は右目から血を流し、苦しむ。
しかし、その最中、晴樹は動きを止める。
「(タスケテ……タスケテ……)」
妙な声が晴樹の耳に入った。
いや、晴樹だけではなかった。
「な、何なの、この声……?」
深雪にもこの声が感じ取られていた。
深雪は必死に発声源を探してみるが、よく分からなかった。
しかし、晴樹は何を思ったか、地面に降り、隠れていたボスらしき男に掴みかかる。
「おい! あの猫まさか……!!」
「クックク……お前らが必死に助けようとしていた子猫の母親さ。ククク……」
「貴様……!!」
晴樹は男を凄い形相でにらみつける。
しかし、男は下卑た笑みを浮かべるだけで、晴樹には何の得ももたらさなかった。
「あの魔獣はな、心臓部分を魔力を込めた魔臓に取り替えた魔獣さ。だから心臓を壊さぬ限り、死なぬのだよ。クックク……ハッハッハハ!!」
晴樹は衝動的に男の顔を殴りつけた。
しかし、男はまだせせら笑いを浮かべていた。
「おしまいさ……何もかも!!」
「ちっ!」
晴樹は男をゴミのように投げ捨て、猫を悲しげな眼でにらむ。
「晴樹……」
「深雪か……聞いていたのか」
「うん……」
どうやら、深雪もさっきまでの話を聞いていたらしく、顔に哀愁が漂っていた。
「本当に、殺すしかないの……?」
「……」
晴樹は唇を噛んだまま、答えることはできなかった。
晴樹自身、この子猫に少し感情移入してしまっているらしい。
そして何よりも、深雪の悲しむ顔は見たくないと思っていた。
「それしか方法が無いのなら……」
しかし、その後晴樹の攻撃は遠慮がちになり、魔獣にダメージを与えることが出来なかった。
そしてとうとう、胴体までもが姿を現した。
「ちっ……こんなのよく造り出したものだな……」
「晴樹!」
疲れている晴樹に回復魔法をかけようとした深雪に、猫が目を付ける。
「来るな!!」
「!」
しかし、深雪は猫に睨まれ、その場から動けなくなる。
無理もない。実戦経験はほとんどないし、強大な力に睨まれれば足がすくんで動けなくなってしまうだろう。
「深雪!!」
そんな猫の爪が、深雪に向かって伸びてきた。
「きゃっ!」
深雪は恐怖で動けなくなり、その場にうずくまる。
しかし……深雪にその爪が届くことはなかった。
代わりに届いたのは、赤い液体であった。
「え……」
深雪の目の前で、一人の男が深雪を庇いながら爪の串刺しになっていた。
「は、晴樹!?」
「ちっ……一本目は防いだが……」
一本目の爪は晴樹が両手でしっかりと抑えていたのだが、二本目の爪は晴樹の腹に深々と突き刺さり、串刺しの状態になっていた。
「ちょっと……晴樹……晴樹!!」
猫に爪を引き抜かれ、深手を負った晴樹は、その場にうずくまる。
かなりの出血量で、体内の臓器も傷ついている可能性がある。
「くそっ……こんな強い奴と戦うの久しぶりだからかな……腕が鈍った……か?」
「しゃべらないで! 光の精霊よ!」
深雪が回復魔法を晴樹にかけ、どうにか傷口をふさぐ。
とりあえず、出血だけは防いだ。
「何であんたはそんなにも私を……」
「お前が挑発したんだろ……守ってみろってよ」
「でもそこまで……」
「次が来るぞ!」
猫は今度こそ深雪に焦点を絞る。
晴樹ですらまともに防げなかったこの攻撃に、深雪が防げるはずもない。
しかし、そんな二人を守ったのは意外な存在だった。
「にゃあ!!」
「あ!」
二人の前で巨大な猫を威嚇し始めたのは、二人が守ったあの子猫であった。
「どうして……!」
いつの間にか回復したのか、元気よく威嚇していた。
「無理よ! あなたが死んじゃう!」
「待て!」
深雪が猫を庇おうとするが、その手を晴樹が掴む。
「様子がおかしい」
「え?」
子猫はただ威嚇しているだけなのだが、魔獣は動きを止めていた。
今まで散々暴れていたのにもかかわらず、だ。
「どういうこと? まさかあの子の母親だってことを思い出したんじゃ……!」
深雪は期待するように晴樹を見る。
「……」
しかし、晴樹は黙って二匹を見ていた。
「違うな……」
晴樹はその後、ボソリと呟いた。
「あの子猫の身体をよく見ろ」
「え?」
深雪が見ると、子猫の身体は心なしか光っているように見えた。
「あれって……」
「あれがおそらくこの組織があの子猫を魔獣にしたかった理由だろう。多分あの子猫には、魔獣を服従させる、拘束させる力がある」
「あの子にそんな力が……」
「俺達を守ってくれているんだ。あいつは」
晴樹は複雑そうな目で子猫を見つめる。
「でも晴樹……どうするの? まさか本気であの猫を……」
「殺すしかないだろうな……」
晴樹は意を決したように立ち上がった。
「で、でも……!」
「お前にこの業は背負わせない。俺が……やるさ」
晴樹は再びマジックスナイパーを腰から抜いた。
「あの子猫の力も長く保たない。お前も拘束魔法の準備をしてくれ……」
「晴樹……」
「罪を背負うのは、俺一人で十分だ」
深雪は、晴樹の背中に悲しさを見た。
今まで、いろんなものを背負ってきた背中なのだろう、と感じさせたその背中。
それは決して軽いものではなく。
「真実が正しいとは限らない……だからこそ、俺がいる」
晴樹は、マジックスナイパーを動けない魔獣……子猫の母親の心臓へと向けた。
子猫の力も完全ではない。
だからこそ、あの組織はこの子猫を覚醒させようとしたのだろう。
最強の魔獣を従える……それこそがまさに最強の魔獣である。
その頃深雪は、泣きそうになるのを必死に堪えていた。
しかし、晴樹に比べれば、自分の背負うものなど大したことはなかった。
そう、強引に思い込んで拘束魔法の魔方陣を巨大な猫の周りに書く。
子猫も長く力を使えない。
あの子が自分たちを守ったのだから、今度は自分が何とかする番である、と深雪に決意をさせる。
それでも胸の中にあるモヤモヤ感は拭えはしないだろう。
「魔力解放、一番、二番、三番」
晴樹は照準を猫の胸に向けた。
そして、刹那、引き金を引く。
轟音とともに、猫の胸に強大な魔力が突き刺さり、晴樹の身体には返り血が飛び散る。
だがしかし、まだ完全に活動停止をするにいたらなかった。
どうやら、まだ魔力壁が有効のようで、それを突き破るのに、結構な魔力を使ったらしい。
晴樹がチラリと横を見ると、子猫がフラフラと倒れそうになっていた。
「深雪! まだか!?」
「もうすぐ!」
子猫の拘束が弱まり、悲しき母猫は再び強大な力を破壊の力に変えようとしていた。
しかし、その眼には何故か涙らしきものが滲んでいた。
痛みからではないだろう。
「深雪!」
「土の精霊よ!」
晴樹が叫んだと同時に、深雪が魔法を唱え、地面が隆起し、子猫の身体をしっかりと拘束した。
かなり高度な魔法だったらしく、深雪はその場にへたり込んでしまう。
杖なしでよく成功させたものだ。
おそらく、深雪の研ぎ澄まされた集中力のおかげであろう。
「お前の命は俺が背負う。悲しき母猫……」
そして、動けなくなった母猫の心の臓へと再び照準を向ける。
晴樹の顔が一瞬だけこわばったものの、晴樹の指は、自分の仕事を全うするかのように、引き金を引いた。
それと同時に子猫は気絶し、晴樹の魔力は今度こそ母猫の胸を貫き、魔獣である証を消滅させた。
「(タスケテクレテ……アリガトウ……)」
「「!」」
晴樹と深雪にそんな言葉が聞こえた気がした。
そうして、巨大な母猫は、元の大きさに戻り、そして、跡形もなく消失してしまった。
「晴樹……こうするしか……無かったの?」
「……世の中には、救われるものと救われないものがいる」
晴樹は、深雪に背を向けてそう語り始めた。
「お前は、あの母猫をどっちだと思う?」
「え……」
「最後に聞こえたあの言葉……俺は前者に感じた。……まあ自分が罪から目を背けたいだけかも知れんがな」
晴樹は自嘲気味な笑みを、深雪に振り返りながら浮かべた。
「お前はな、あの母猫を助けたんだ。魔獣化してしまい、破壊することしかできなくなった悲しき母猫をな」
晴樹はぐったりしている子猫を抱え上げた。
「この子だって覚悟したんだ。だから俺達の手助けをした」
晴樹は子猫を深雪に差し出す。
「お前は……一応俺も入れておくがな。結局はこの子を救うことにもなったんだ」
「……うん……でも……」
深雪は納得したいのだが、感情が上手くコントロールできないようだ。
「涙が……涙が止まらないの……ひぐっ……」
深雪は大粒の涙をこぼしてその場に立ちつくす。
そんな深雪を晴樹は優しく抱きしめた。
「あふれ出る感情を我慢することはない。あの子を救っても……悲しいことは悲しいんだから」
そうして晴樹の胸の中で深雪は大声で泣いた。
晴樹はそんな深雪を泣きやむまでずっと抱きしめていた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「はっ……はっはっはぁ……」
その頃、ボスらしき男は、すでに街の外に出て、新たに計画を練っていた。
まだ自分の野望はあきらめてはいなかった。
「(今度こそ最強の魔獣を……!!)」
「はいそこでストップ」
「!」
しかし、男は突然後ろから話しかけられてびっくりした。
声の主は、晴樹と同じSAMOのメンバーであり、同級生でもある松本であった。
「悪いけど、お前を逃がす訳にはいかないんだよね~」
「な、何者だ!?」
「セイギノミカタ。何ちって~」
松本は速攻で男の背後に回ってスタンガンを首元に充てる。
晴樹と違い、実戦タイプでは無いため、こういう仕事を任されるのだ。
「……晴樹。君はまた、重いものを背負い込むんだね」
松本は煙草をふかしながら、遠い夜空を見つめた。
彼の背中にも哀愁が漂っていた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
キーンコーンカーンコーン♪
「起立。気を付け。礼」
クラスメイト達は、その挨拶でばらばらに散らばっていった。
「深雪~。今日どこか寄ってかない?」
学校が終わり、深雪は照美に話しかけられた。
しかし、深雪は両手を合わせて頭を下げた。
「ごめんね! 今日は寄るところがあるの!」
「えー。最近付き合い悪いじゃない! 今日は晴樹も良雄も学校来てないのに~」
「たまにはまっすぐ家に帰るのもいいんじゃない?」
深雪はこれからの自分のことを棚に上げて、笑顔でそんな言葉を言う。
「もう……しょうがないわね」
照美は他のクラスメートを誘うことにしたようだ。
それにしても、毎日のようにお金を使っている照美を疑問に思った。
そういうことは気にしてはいけない、と天の声が聞こえたので、深雪は気にしないことにした。
「……天の声って何かしら?」
どうやら別のことが気になってしまったらしい。
そして、校門を出た深雪は、いそいでスーパーに向かった。
「よう。遅いから先にキャットフード買ったぞ」
「晴樹!」
晴樹の手には一匹の子猫が。
「ということは……!」
「ああ。一応魔獣だからな、危険性が無いかエイルマットにチェックしたんだが……」
『どうやら、一昨日の戦闘で随分と力を使っちゃったらしいね。もう何も力はないよ』
「だそうだ」
エイルマットと晴樹のその発言に深雪は笑顔になった。
「あとこれが猫の飼い方マニュアルだ」
晴樹は、猫の本を深雪に渡す。
「へー。気が利くのね」
「俺ってそんなに気が利かないイメージだったか?」
晴樹は心底意外そうな顔をする。
「何となく」
「何となくで人を決めつけるなオイ」
そして晴樹は深雪に背中を向けて立ち去る。
「名前、考えておけよ~」
「名前ね。もう考えてあるの」
名前は――――――――
長編終了……