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第9話 救われるものと救われないもの(中篇)

―あらすじ―

とある日の夜、深雪は謎の子猫と出会う。

何故か妙にその子猫が気になった深雪は、次の日、学校をサボってその子猫を追った。

その際、目を離している隙に、謎の男たちがその子猫を追いかけているのを発見した。

おかしいと感じた深雪は、その男たちから子猫を守るために、子猫を抱えて懸命に逃げた。

しかし、結局優男の魔法使いによって子猫を奪われてしまう。

何とか晴樹が助けに入ったおかげで、深雪に怪我はなかったものの、優男には逃げられてしまう。

一人で助けに行こうとする晴樹に強引に付いていこうとする深雪。

口論になるも、結局晴樹が折れ、一緒に行くことになった。

優男が組織のボスらしき男に気絶した猫を差し出した。

「任務ご苦労だったな。ところで、この猫は死んではいまいな?」

「ええ。あまりにもうるさかったので、電気ショックで気絶させただけです」

「ほほう……」

ボスらしき男はいやらしい笑みを口に浮かべ、子猫を見る。

子猫はぐったりしており、動かない。

「くっくっく……長年の研究成果を見せる時だな……」

ボスらしき男は、冷たい目で、だけど愛おしそうに子猫を撫でる。

まるで、狂った愛情を注いでいるかのように。

「母親は失敗したが……次こそは……」

そしてその男は、クククッと下品な笑みを浮かべるのであった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「バニラ!」

晴樹たちはバニラと合流した。

バニラはしっかりと手掛かりを見つけてきてくれたようだ。

「偉いわバニラ!」

しかしバニラは何故か深雪ではなく、晴樹の方へと向かっていった。

「って何よう! 何でアンタの方に懐いているのよ!」

「知らんよ、そんなのは」

二人と一匹は、目的地へと向かうことにした。

「ところでさ、何でアンタはバニラと一緒だったのよ?」

「こっちにもいろいろあったんだよ」

晴樹は煙に巻くような受けごたえをした。

当然、そんな答えに深雪が納得するはずもなかった。

「いろいろって何よ」

「まあ……別の依頼だ。そんでそれはバニラを使った方がいいと俺が踏んだという訳だ」

「人んちの犬を……」

「まあお前の親父さんが快く貸してくれたんだがな」

「はぁ……やっぱり……」

深雪は肩を落とした。

姉といい、父といい、本当に血が繋がっているのだろうかと疑いたくなるほど、深雪は真面目である。

別にコンプレックスとかはないが、少しきちんとしてほしいと思う部分はある。

それにもかかわらず、二人とも優秀な魔法使いなことには、深雪は納得いかなかったりするのだが。

「そろそろだな……」

「え?ここってただのショッピングモールじゃないの?」

着いた場所は、比較的にぎやかな地下のショッピングモールであった。

深雪にとっては、こんなところにマフィアのアジトがあるとは考えにくい。

「だからこそだよ。……こっちらしい」

「そういうものなのかしらね……」

深雪と晴樹は、バニラに付いていき、そして、立ち止まった。

「……なるほど」

目の前には関係者以外立ち入り禁止の扉が。

ショッピングモールならば、あってもおかしくはない扉ではある。

そして、晴樹にとってはビンゴでもあった。周りに人気もないので。

「……こういうことだそうだ」

「どうするの?」

「力づくって訳にもいかないしな」

おそらく監視されてるし、と晴樹は付け加えた。

「え!? じゃあばれてるの!? 私たちの追跡」

「当然だろ。あんだけ派手にやり合ったんだ。今頃、いっぱい罠を張ってるぜ」

「う……でも行くしかないでしょ?」

「そうだな」

晴樹は目の前の扉を睨みつける。

「だがな、ここから入るのは俺一人。お前は別ルートだ」

「え!?」

「バニラには言ってある」

晴樹は真剣な目で深雪を見る。

深雪も真剣なまで見つめ返した。

「私を撒く嘘じゃないわよね……? 信じていいのよね?」

「ああ」

「……分かったわ」

そう言ってバニラと深雪はその場から離れていった。

「さて、と。俺は……」

晴樹は扉に背を向ける。

人気が無いのを確認してから、マジックスナイパーを監視カメラ(隠しも合わせて3台)を撃った。

「な……」

すると、男たちが見計らったかのように出てきた。

「さあて、誰がキーを持ってるかな?」

晴樹は、男たちの顔を一人ずつ見た。

そして、構えをとる。

「お前らの身体に聞いてやるとするか!」

そうして晴樹は男たちに突っ込んでいった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



その頃深雪は、ショッピングモールを出て、公園の方へと向かっていた。

「本当にこっちにあるのかしら?」

深雪は少し心配になりながら、妙にゆっくり歩くバニラを見る。

しかし、バニラはいつもと特に変わらなかった。

元々、バニラの散歩をするのは、姉と執事であったため、私はあまりバニラと二人になったことはない。

晴樹に妙に懐いているのには納得いかないが、今は我慢しておく。

「はぁ……もうすぐ学校も終わりね~……」

時刻は午後三時前。

みんなもうすぐ下校の時間である。

この姿をみんなに見られたら非常にまずい。

一応、優等生として通っている桜花園家の私が、サボりなんてばれてしまったら……

「考えたくもない~~~~!」

深雪は頭を抱える。

しかも、晴樹と二人休みと言うことは……

「はっ! 妙な噂を立てられてしまったり……それはちょっと困る……」

深雪は少し俯く。

しかし、すぐにハッとする。

「ん? 少し? 違うわよ! 結構困るのよ~~~~!」

深雪はさらに頭を抱える。

そんな深雪を道行く人は変な目で見ていた。

「はっ!」

深雪は急いで体面を整えると、いつものような仮面を被った。

しかし、如何せん制服姿は目立つ。

結構目立つ。

「はぁ……」

そして、公園のベンチで何故か腰を下ろしたバニラ。

「ん? どうしたの?」

バニラは口の中から紙を取り出した。

そしてバニラはその紙に文字をうかばせた。

「え? これは……晴樹のメッセージ!?」

そしてそのメッセージを見た途端、深雪は絶句する。

バニラは一匹のほほんとしていたが、深雪の顔の変わりように少しだけこわばった。

そして、深雪は紙をくしゃくしゃに丸めた。

「晴樹……騙したわね~~~~~!!」

深雪はその紙ごみを公園のごみ箱に捨てると、バニラを連れて急いで走っていった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



何個目かのトラップをかわし、晴樹は多少うんざりしていた。

余りにも、下手な鉄砲数撃ちゃあたるトラップなため、気分も降下する。

むしろ、それが狙いなら、凄いのだが。

まあとにかく、晴樹にとっては何でもないトラップが非常に多い。

さらに、無駄に多い下っ端連中も退屈しのぎにすらならないという始末。

彼にそろそろ飽きが出始める頃、彼は大きな広間に出た。

「……ほほう。何かありますみたいな部屋だな」

「その通り」

「……その声は」

晴樹は、聞き覚えのある声に耳に神経を傾ける。

「やっぱり来たようだね」

晴樹の目の前に現れたのは、例の優男だった。

「アンタか」

「ふっふふ……君も中々凄い男だね。ここまで数多くのトラップがあったと思うんだけど」

「全部引っ掛かっておきながら、ここまでたどり着いたことに関しては、及第点だ」

晴樹は鋭い目で相手を睨めつける。

「でも、残念ながら落第だよ。僕と出会ったのが運の尽きさ」

「それはどうかな?」

そのとき、晴樹の後ろから足音が聞こえてきた。

「……来たようだな」

「はーるーきー!!」

「よう」

晴樹の後ろから現れたのは深雪であった。

もちろんバニラも一緒だ。

「アンタ! 私を騙したわね~~~!」

「騙した訳じゃない。これが一番手っ取り早いと思っただけだ」

深雪に詰めよられた晴樹は、少しうざったそうに彼女を振り払う。

深雪はまだ言いたいことがあったらしいが、晴樹と相対する相手を見て、おしゃべりを止める。

「ははは……完全にしてやられましたねぇ。二方向からの攻撃は嘘で、時間差の一方向攻撃ですか。あなたが全ての罠を発動させ、彼女に罠が発動しないようにした。そして、カメラも壊すことでこれを気がつかせないようにした。おかげで我々の戦力は分散してしまっていますねぇ」

「長々と説明しているところ悪いが、時間が無いんでな。深雪、バニラと一緒に先に行け」

「分かった」

深雪はバニラと一緒に広間の先に進んでいった。

「ほう。見逃すのか」

深雪の姿が確認出来なくなった後、晴樹は優男に話しかけた。

「僕はフェミニストなんですよ。ガキは嫌いですがね」

「そうか。とりあえず、やり合うとしようぜ」

晴樹と優男は、共に構えをとる。

そして、数秒沈黙が流れた後、爆発したかのように戦いは始まった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「始まった……」

戦いらしき音が後ろから聞こえたことに、晴樹が戦いを始めたことを悟った。

「バニラ! 急ぐわよ」

深雪も、たまに出てくる黒服の男たちを魔法で足止め、バニラに倒させるという戦法をとっていた。

当然深雪も、バニラが何だか知っている。

そしてバニラは、重戦車のように男たちを蹴散らす。

深雪も負けずに杖を振るう。

「キリが無いわね! バニラ!巨大化よ!」

その途端、唸り声上げながらバニラが本当の姿を現す。

「な、何だこの犬は……!?」

バニラは体長を5メートル近くまで大きくした。

バニラは、魔獣であることを隠すために、いつもは仮の姿をとっているのだ。

「行くわよ!」

深雪はそんなバニラに跨り、先へと進んだ。

「くっ……追え~~~~~!」

しかし、バニラに彼らは追いつけることはなかった。

そうして数分後、深雪とバニラは妙な部屋に到着した。

周りは試験管やらビーカーやらでいっぱいだった。

所謂、実験室みたいだ。

「何なの? この部屋は?」

そのとき、部屋が突然明るくなった。

「キャッ!」

「ようこそ。私の部屋へ」

「何?」

深雪の目の前に現れたのは、スーツ姿の見るからに怪しい男であった。

「アンタがここのボス?」

「そういうことになる。まさか私の部屋を最初に発見したのがこんな小娘だったとは」

深雪とバニラは、男を睨みつける。

「しかも、まさか魔獣まで一緒とは……君とはいいお友達になれそうだ」

「どういうことよ!?」

「おや、気が付いていなかったのかい?」

「え?」

男は深雪に意外そうな顔を向けた。

その顔が、深雪をバカにしているようで、彼女は少しいらだつ。

「あの子猫も魔獣だよ」

「な!?」

深雪は衝撃で身体が動かなくなる。

人間、驚愕の事実を知るとそうなってしまうのだ。

「ここは魔獣を作り、育てるための研究施設なのさ」



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



優男は、中々の身体能力を持っているようで、晴樹が肉弾戦をしても、中々捉えられない。

「その銃はマジックスナイパーですね」

「だからどうした?」

戦いの最中、優男は晴樹に話しかけた。

「それが君の杖なのかな、と思ってね」

「杖? バカ言え。俺は魔法使いじゃない。ただの戦闘家だ!」

そんな優男の顔を晴樹は全力で殴った。

「うぐっ!」

優男は大きく後ろへと吹っ飛んだ。

「悪いがお前にいつまでも構っている余裕はないんだ」

「ふっふふ……肉弾戦では君の方が上手のようだ」

優男はゆっくりと立ち上がり、懐から杖を取り出す。

「破!」

「!?」

優男が叫んだあと、晴樹の足元に魔法陣が出現した。

晴樹は完全に不意を突かれた形になる。

「この魔方陣は……!」

「拘束魔法さ」

魔方陣の部分の中央から黒い渦が巻かれる。

「く……」

晴樹はその渦に足を取られてしまい、身動きが取れなくなっていた。

「後はじっくり君を倒すことにするよ。闇の精霊よ、深淵の底より出づるものにて其の闇を具し、狂想曲を奏でたもう、カプリッシオ!」

優男の杖から出る、闇の旋律が晴樹の身体を襲う。

当然身動きのできない晴樹は、モロにそれを食らうことになってしまう。

「すまないね」

闇は晴樹の身体に触れ、大爆発を起こした。

優男は勝利を疑わなかった。

この闇の力は、触れるだけで呪いの力も発動するため、例え倒せていなくても、相手に深刻な精神ダメージを与えることが出来るためだ。

「ふ」

優男が少し笑った途端、黒い煙の向こうからボソッと何かが聞こえる。

「?」

魔力解放バースト一番ファースト二番セカンド

「!?」

そんな呟きの後、闇の力が優男に帰って来た。

優男は身の危険を感じて避ける。

そして行き場をなくした闇は、壁にぶつかる前に消失した。

「何をした!?」

「ちょっと魔力を増幅させただけだ」

「魔力の増幅だと……!?」

優男は晴樹の信じられない言葉に驚愕する。

しかし、信じずにはいられない。今の晴樹は、明らかに前までとは違っていた。

纏っていた魔力量が段違いであった。

「そ、それがどうした……! 私もまだ」

「遅いな」

「!」

魔力を全部足に集めた晴樹が、一気に優男の目の前にやって来た。

余りにも早すぎるせいで、晴樹にとって優男の行動全てがスローモーションに見えていた。

「俺と戦ったことを恨むんだな!」

「うぐあっ!」

そうして、今度は全魔力を込めた右拳で、優男の鳩尾を突いた。

優男は30メートル近く吹っ飛んで壁に激突。

そして、泡を吹いてしまった。

「……急ぐか」

晴樹は、もう動かない男など気にもせず、先に進むことにした。

彼の本来の任務は深雪の護衛なのだから。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「あの子猫は突然変異の魔獣ではない」

ボスらしき男が深雪に語りかける。

「生まれながらにしての魔獣! まさに私の最高傑作!」

男の狂気的な笑みは、深雪に鳥肌を立たせた。

「ただ、まだ覚醒していないのでな、それだけがマイナスポイントだ。喜べ君たち! 今から最強の魔獣の誕生の瞬間に出会えるのだから!」

「させるものですか!」

ガラスケースに入っている子猫を見ながら深雪は叫んだ。

しかし、そんな彼女の目の前に二匹の虎型の魔獣が現れた。

「くっ……」

「さあて」

男は、何かのスイッチを入れた。

そして、子猫の入っているガラスケースが紫色に光る。

子猫が苦しんでいるように見えた。

「やめなさい!」

しかし、そんな深雪を妨害するかのように、二匹の魔獣が深雪を襲う。

「邪魔よ!」

しかし、やはり肉弾戦が素人の深雪は、かなり苦戦してしまっている。

対するバニラは、魔獣と互角に戦っていた。

「火の精霊よ……キャッ!」

呪文を唱える暇もなく、虎型魔獣に体当たりを食らわせられた深雪。

彼女は、思わず尻もちを着き、杖を手放してしまった。

「しまった……杖が!」

「おしまいのようだな」

杖は運が悪く、男の足元に転がっていった。

そして、その杖を男が拾う。

「く……」

深雪は唇をかむ。

状況は絶望的。

こんなとき……晴樹ならどうするのだろうか?

彼は絶対に諦めないだろう……

そう深雪は強く意志を持つ。

「ほう……まだ諦めていないのかい?」

深雪の強い瞳を見て、男が呟いた。

「私は……桜花園の者よ……こんなところでぇぇぇぇ!!」

深雪が近くにいた虎型魔獣に手を翳す。

「火の精霊よ!!」

深雪の手から炎が発生し、虎に直撃する。

「何だと……あんな小娘が杖なしで魔法だと!?」

深雪はそのまま炎を強くし、虎型魔獣を吹き飛ばした。

「桜花園家の娘をなめんじゃないわよ!」

「それでいい」

そして、背後から晴樹の声が聞こえてきた。

どうやら追いついて来たようだ。

「晴樹!」

「反撃開始だ」

晴樹はそう深雪に合図をした。

二人の共同戦線が初めて張られた瞬間だった。

深雪が初めて晴樹の隣に立った瞬間でもあった。




意外と長くなってしまった。

全部合わせて20000字近く……

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